人食い熊、襲来!

Mr.ビギニング

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住民説明会・病院

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田村さんの民宿に泊まるはずだった宿泊客二人が、
クマに食い殺されているのが発見されたその日。
小中学校は生徒を集団下校させ、住民には入山を控えるよう連絡が回った。

夜、M村の小さな集会場で、臨時の住民説明会が行われた。
集会場には住民たちが座るパイプ椅子が並べられ、数百人の住民が
着席していた。そこに向かい合うように長机が設置されており、
長机には久瀬勇吉村長と猟友会会長の剛田栄作、荒巻先輩と俺が座っている。

久瀬村長がコホンと咳払いし、マイクを手に取った。
「え~、これより、住民説明会を始めます」とマイクを口に近づけて言った。
「本日午前、M村の山道脇の森で、この村の民宿に宿泊予定だった
宿泊客2人が、死体で発見されました。クマに襲われたと思われます」
会場は静まり返ったまま。
ストーブの燃えるゴーという音だけが聞こえてくる。
ここは小さな村だ。今回の事件は、住民たちにすでに知れ渡っている。
「この事件のため、再来週に予定されていたスキー場のオープンは、
延期することに決まりました」
この発言には、住民たちもざわついた。
それもそうだ。
この村の冬の収入は、スキー場の料金とスキー客の宿泊料に支えられているのだ。
民宿経営者たちが
「スキー場がオープンしなかったら、客が来ないじゃないか!」
「冬場はスキー客がメインの収入源なんだぞ!」
と怒鳴る。
荒巻先輩がマイクを取り、
「落ち着いてください、延期するだけで、中止するわけじゃないんですから」
と経営者たちをなだめた。
「明日から猟友会と我々警察が山に入って、人食い熊の討伐を始める予定です」
と続ける。
「安全上の理由から、人食い熊が討伐されるまで、スキー場のオープンは
延期するしかありません。ご理解ください」
普段は駐在所のストーブから動こうとしないくせに、こんな時だけ
しっかりしてるなぁ、荒巻先輩。
「我々猟友会からも一言」と言って剛田会長もマイクを取った。
「普段は冬眠しているはずのクマが人を襲ったということは、
そのクマは秋にエサを得られず、非常に空腹の状態である可能性があります。
危険ですので、住民の皆さんはクマが討伐されるまで、
なるべく山に近づかないでください。以上です」

翌日、俺はM村中央病院に来ていた。ここに安置されている金田マリと森山英太
の遺体の診断書を受け取るためだ。

平日の午前なのもあって、病院は空いていた。
俺は2人の遺体を調べた咲田医師の診察室に向かった。
咲田医師は診察中ですと受付で言わたが、駐在所を荒巻先輩一人では
任せられないので早く帰らなければならない。

早く診察終わんないかなと思い、診察室のドアをコンコンとノックすると、
中からなぜか下塚の声で「どうぞー」と応答があった。
ドアを開けてみると、咲田先生に下塚が治療を受けているところだった。
左腕に湿布を貼られている。
「おっす、田島のニイさん。仕事サボりに来たの?」いつもの軽い調子で下塚。
「アホ。荒巻先輩と一緒にすんな。咲田先生から受け取るものがあるんだよ」
「ああ、田島くん。ご苦労様。診断書ならできてるよ」
今年で68歳を迎える咲田先生は、禿げ頭を光らせながら、クリアファイルに
挟まれた書類を差し出してきた。
「どうも」と言って受け取り、書類を確認する。
当然だが、金田マリ、森山英太の二人とも、死因はクマの捕食になっている。
「やっぱり二人とも、クマにやられたんですね」と俺が言うと、
咲田医師は首をかしげ、「いや、診断書にはそう書いたが、一つ気になる点が
あってね」
と言った。
「なんですか?」
「金田マリさんの死因は100%クマの捕食だが、森山英太さん、あっちは、
クマの捕食じゃない気がするんだよね」
「どういうことです?」
森山英太は右腕の肉を食われ、頭を潰されていた。
「腕の傷のところはクマに間違いないんだけど、潰されている頭のほう、
アレ、本当にクマが潰したのかね」
「はい?」
「あまりに頭の損傷が激しくて、断定はできないけどね。クマというよりは
もっとこう・・・・なんというか、クマより非力な動物が殴ったんじゃないかって
感じの潰され方でね」
「じゃあ、なんでそう診断書に書かないんです?」
「いやあ、確証が無いし、死因の欄に「不明」なんて書けないしねえ」
「そうですか・・・・」
「いや、今のは忘れてくれ」と言い、咲田先生は手を振った。
「老いぼれ医師の勝手な考えだ。忘れてくれ」


俺は下塚と共に病院を出た。
「下塚。なんでお前左腕診てもらってたんだ?」
「ああ、これっすか。今朝ウチのベッドで音楽聞いてノッてたら、うっかり
ベッドから転げ落ちて、左腕痛めたんすよ」

うわ、こいつアホだ・・・・・。
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