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王宮の大広間は、異様な熱気と好奇心に包まれていた。
今夜の夜会は、表向きは国王主催の定例晩餐会だ。
だが、集まった貴族たちの関心事はただ一つ。
「聞いたか? 今夜、あのギルバート宰相が例の令嬢を連れてくるらしいぞ」
「例のって、ジェラルド殿下に婚約破棄されたハミルトン公爵令嬢のこと?」
「ああ。噂では、宰相府に監禁されてボロ雑巾のように働かされているとか……」
「なんと無慈悲な……。氷の宰相の贄(にえ)になったのね……」
扇子で口元を隠した淑女たちが、ひそひそと噂話に花を咲かせている。
その中心で、ジェラルド第二王子はワイングラス片手に上機嫌だった。
隣には、ピンク色のドレスを過剰なまでに膨らませたミミー・ピンキーが張り付いている。
「ふふふ。皆、期待しているようだなミミー」
「ええ、ジェラルド様ぁ。きっとスコットお姉様、やつれて見る影もなくなっているに違いありませんわ。かわいそうにぃ」
「うむ。私が直々に慰めてやらねばな。『身の程を知れば、側室くらいにはしてやってもいいぞ』と」
「キャッ、ジェラルド様ったらお優しい~!」
馬鹿二人が妄想に浸っていると、不意にファンファーレが鳴り響いた。
会場の照明が少し落とされ、入り口の扉が重々しい音を立てて開く。
王宮の儀典官が、よく通る声で告げた。
「宰相、ギルバート・フォン・アイゼンシュタイン閣下! ならびに、そのパートナー、スコティア・ハミルトン公爵令嬢、ご入場!」
ざわ……っ。
会場中の視線が入り口に集中する。
誰もが、涙に濡れた哀れな令嬢の姿を予想していた。
だが。
そこに現れたのは、そんな予想を銀河の彼方まで吹き飛ばすような「二人組」だった。
「…………は?」
ジェラルドの手から、ワイングラスが滑り落ちそうになった。
まず、ギルバート宰相。
いつもの冷徹な表情だが、今夜は漆黒の礼服を完璧に着こなし、その銀髪は照明を浴びて神々しいまでに輝いている。
そして、その腕に手を添えているスコット。
彼女の姿に、会場中が息を呑んだ。
ドレスではない。
いや、ドレスなのだろうが、それは既存の常識を覆すものだった。
深い群青色のベルベット生地。
上半身は燕尾服を思わせるシャープなカッティングで、ウエストは極限まで絞り込まれている。
ボトムスはスカートではなく、なんと細身のスラックススタイル。
その上から、腰回りにあしらわれた長いトレーン(引き裾)が、歩くたびに翻り、凛とした美しさを強調している。
髪はきっちりと後ろでまとめ上げられ、露わになった白い首筋には、大粒のサファイアだけが光っていた。
化粧も、可愛らしさなど欠片もない。
切れ長の目元を強調したクールなメイク。
その姿は「深窓の令嬢」ではなく、戦場に赴く「女騎士」か、あるいは舞台の主役を張る「男装の麗人」のようだった。
カツ、カツ、カツ……。
ヒールの音を響かせ、二人がレッドカーペットの上を歩いてくる。
その歩調は完璧にシンクロしており、まるで一つの生き物のようだ。
ギルバートが小声で囁く。
「……計算通りだ、スコット。全員、君に釘付けだぞ」
スコットは前を見据えたまま、唇を動かさずに答える。
「視線誘導率一〇〇パーセント。殿下の口が開いたまま閉じないのが滑稽だ」
「フッ、笑うなよ」
「善処する」
二人が会場の中央まで進むと、沈黙を破ったのは女性たちの悲鳴だった。
「キャーーーーーーッ!!」
「な、なにあれ素敵……!!」
「嘘、スコット様!? 王子といた時より一〇〇倍カッコいいんだけど!?」
「抱いて!! 私を抱いて!!」
予想外の反応。
黄色い声援を送っているのは、ジェラルドがターゲットにしているはずの令嬢たちだった。
彼女たちは、媚びるような可愛さには飽き飽きしていたのだ。
そこに現れた、圧倒的に「媚びない」「強い」女。
そのギャップに、ハートを撃ち抜かれたのである。
ジェラルドは顔を真っ赤にして、二人の前に立ちはだかった。
「ま、待て待て待てぇぇい!!」
「おや、殿下。ごきげんよう」
スコットが立ち止まり、優雅に――しかし男性的な所作で一礼する。
「な、なんだその格好は! 女がズボンを履くなど、前代未聞だぞ! 恥ずかしくないのか!」
「恥? 機能性を追求した結果ですが」
スコットは自分の腰回りをパンパンと叩いた。
「従来のドレスは布面積が無駄に広く、移動速度が三〇パーセント低下します。宰相のパートナーとして、緊急時に即座に走れるこのスタイルこそが最適解かと」
「は、走る!? 夜会で走るやつがいるか!」
「有事はいつ何時起こるか分かりません。リスク管理の基本です」
「ぐっ……! だ、だが可愛げがない! ミミーを見習え! このフリル! このリボン! これが女の幸せというものだ!」
ジェラルドがミミーを前に押し出す。
ミミーは引きつった笑顔で、スカートを摘んで見せた。
「そ、そうですわよぉスコットお姉様ぁ。そんな男みたいな格好、殿方は誰も誘ってくれませんわよぉ?」
スコットはミミーを頭のてっぺんから爪先まで一瞥し、鼻で笑った。
「ピンキー男爵令嬢。君のそのドレス、歩くたびに裾を踏みそうになっているな。可動域の計算ミスだ。それに、その過剰なレースは引火の危険性が高い。暖炉のそばには近寄らないことを推奨する」
「な、なによそれぇ!」
「それに、『殿方が誘わない』?」
スコットはふと、隣のギルバートを見上げた。
ギルバートは心得たように頷き、スコットの腰に手を回す。
グイッ。
強く引き寄せられ、二人の距離がゼロになる。
「殿下、訂正していただきたい。私は彼女のこの姿に、どうしようもなく惹かれている」
ギルバートが甘く、低い声で囁いた。
「無駄な装飾を削ぎ落とし、本質的な美しさだけが残った刃のような姿……。これほど私の隣に相応しい女性はいない」
「なっ……!?」
「それに、彼女をダンスに誘うのは私だけでいい。他の男の目など必要ない」
独占欲丸出しのセリフに、周囲の令嬢たちがバタバタと倒れていく。
『尊い……!』
『氷の宰相が溶けてる……!』
『あの二人、最強すぎる……!』
ジェラルドは完全に蚊帳の外だった。
「くっ、くそぉぉぉ! 誤魔化されるか! ギルバート、貴様は騙されているんだ! その女は中身がおっさんなんだぞ!」
「失敬な。おっさんではなく、効率厨だ」
スコットが即座に訂正を入れる。
その時、オーケストラがワルツの調べを奏で始めた。
ギルバートが手を差し出す。
「踊ろうか、スコット。我々の『相性』を見せつけてやろう」
「了解した。ステップの誤差は許容範囲プラスマイナス五ミリ以内で頼む」
「厳しいな。善処しよう」
二人はフロアの中央へと滑り出した。
そこから始まったのは、通常のワルツではなかった。
『高速精密ワルツ』。
タン、タン、タン!
恐ろしいほどのスピードで回転しながらも、二人の軸は全くブレない。
ドレスの裾が遠心力で美しく広がり、まるで青い花が咲いたようだ。
「右旋回、角度三〇度」
「了解」
「次、リフト」
「タイミング合わせろよ」
小声で業務連絡のようなやり取りを交わしながら、二人はフロアを支配していく。
他のペアが気圧されて道を譲るほどだ。
ジェラルドとミミーも踊ろうとしたが、ミミーがドレスの裾を踏んで「あべしっ」と転びそうになり、様にならない。
一方、スコットたちは曲のクライマックスに合わせて、高速スピンを決めた。
ギュルルルル……ダンッ!!
最後の音と同時に、ビシッ! と決めポーズ。
ギルバートがスコットを背中から抱き支え、スコットが片足を高く上げる。
一滴の汗もかいていない涼しい顔。
シーン……。
一瞬の静寂の後。
ワァァァァァァァッ!!
割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「ブラボー!!」
「素晴らしい! なんてキレのあるダンスだ!」
「芸術だ! 無駄がない!」
称賛の嵐。
スコットは呼吸一つ乱さずに、ギルバートの腕の中で呟いた。
「……心拍数上昇、発汗量微増。運動効率としては悪くないな」
「ああ。いい運動だった。……それと、君の背中、意外と柔らかいな」
「セクハラか?」
「事実の確認だ」
二人は涼しい顔で礼をし、フロアを後にした。
残されたのは、真っ赤な顔で震えるジェラルドと、悔し涙を浮かべるミミーだけだった。
「お、覚えてろ……! ダンスが上手いからって何だと言うんだ!」
ジェラルドの負け惜しみは、歓声にかき消されて誰の耳にも届かなかった。
バルコニーに出たスコットは、夜風に当たりながらふうっと息を吐く。
「任務完了だな。殿下のあの顔、録画しておきたかった」
「目に焼き付けたからいいだろう。……しかしスコット、一つ誤算があった」
ギルバートが真剣な顔で言う。
「なんだ? ステップを間違えたか?」
「いや。……君がモテすぎだ」
ギルバートが視線を会場に戻す。
そこには、熱っぽい目でガラス越しにこちらを見つめる令嬢たちの姿があった。
「男だけでなく、女まで魅了してどうする」
「計算外だ。私はただ、機能美を追求しただけなのだが」
「……これからは、もう少し露出を控えてもらうか」
「布面積を増やすと通気性が悪くなる。却下だ」
「……そこをなんとか」
最強の宰相夫妻の夜は、まだ始まったばかりだった。
今夜の夜会は、表向きは国王主催の定例晩餐会だ。
だが、集まった貴族たちの関心事はただ一つ。
「聞いたか? 今夜、あのギルバート宰相が例の令嬢を連れてくるらしいぞ」
「例のって、ジェラルド殿下に婚約破棄されたハミルトン公爵令嬢のこと?」
「ああ。噂では、宰相府に監禁されてボロ雑巾のように働かされているとか……」
「なんと無慈悲な……。氷の宰相の贄(にえ)になったのね……」
扇子で口元を隠した淑女たちが、ひそひそと噂話に花を咲かせている。
その中心で、ジェラルド第二王子はワイングラス片手に上機嫌だった。
隣には、ピンク色のドレスを過剰なまでに膨らませたミミー・ピンキーが張り付いている。
「ふふふ。皆、期待しているようだなミミー」
「ええ、ジェラルド様ぁ。きっとスコットお姉様、やつれて見る影もなくなっているに違いありませんわ。かわいそうにぃ」
「うむ。私が直々に慰めてやらねばな。『身の程を知れば、側室くらいにはしてやってもいいぞ』と」
「キャッ、ジェラルド様ったらお優しい~!」
馬鹿二人が妄想に浸っていると、不意にファンファーレが鳴り響いた。
会場の照明が少し落とされ、入り口の扉が重々しい音を立てて開く。
王宮の儀典官が、よく通る声で告げた。
「宰相、ギルバート・フォン・アイゼンシュタイン閣下! ならびに、そのパートナー、スコティア・ハミルトン公爵令嬢、ご入場!」
ざわ……っ。
会場中の視線が入り口に集中する。
誰もが、涙に濡れた哀れな令嬢の姿を予想していた。
だが。
そこに現れたのは、そんな予想を銀河の彼方まで吹き飛ばすような「二人組」だった。
「…………は?」
ジェラルドの手から、ワイングラスが滑り落ちそうになった。
まず、ギルバート宰相。
いつもの冷徹な表情だが、今夜は漆黒の礼服を完璧に着こなし、その銀髪は照明を浴びて神々しいまでに輝いている。
そして、その腕に手を添えているスコット。
彼女の姿に、会場中が息を呑んだ。
ドレスではない。
いや、ドレスなのだろうが、それは既存の常識を覆すものだった。
深い群青色のベルベット生地。
上半身は燕尾服を思わせるシャープなカッティングで、ウエストは極限まで絞り込まれている。
ボトムスはスカートではなく、なんと細身のスラックススタイル。
その上から、腰回りにあしらわれた長いトレーン(引き裾)が、歩くたびに翻り、凛とした美しさを強調している。
髪はきっちりと後ろでまとめ上げられ、露わになった白い首筋には、大粒のサファイアだけが光っていた。
化粧も、可愛らしさなど欠片もない。
切れ長の目元を強調したクールなメイク。
その姿は「深窓の令嬢」ではなく、戦場に赴く「女騎士」か、あるいは舞台の主役を張る「男装の麗人」のようだった。
カツ、カツ、カツ……。
ヒールの音を響かせ、二人がレッドカーペットの上を歩いてくる。
その歩調は完璧にシンクロしており、まるで一つの生き物のようだ。
ギルバートが小声で囁く。
「……計算通りだ、スコット。全員、君に釘付けだぞ」
スコットは前を見据えたまま、唇を動かさずに答える。
「視線誘導率一〇〇パーセント。殿下の口が開いたまま閉じないのが滑稽だ」
「フッ、笑うなよ」
「善処する」
二人が会場の中央まで進むと、沈黙を破ったのは女性たちの悲鳴だった。
「キャーーーーーーッ!!」
「な、なにあれ素敵……!!」
「嘘、スコット様!? 王子といた時より一〇〇倍カッコいいんだけど!?」
「抱いて!! 私を抱いて!!」
予想外の反応。
黄色い声援を送っているのは、ジェラルドがターゲットにしているはずの令嬢たちだった。
彼女たちは、媚びるような可愛さには飽き飽きしていたのだ。
そこに現れた、圧倒的に「媚びない」「強い」女。
そのギャップに、ハートを撃ち抜かれたのである。
ジェラルドは顔を真っ赤にして、二人の前に立ちはだかった。
「ま、待て待て待てぇぇい!!」
「おや、殿下。ごきげんよう」
スコットが立ち止まり、優雅に――しかし男性的な所作で一礼する。
「な、なんだその格好は! 女がズボンを履くなど、前代未聞だぞ! 恥ずかしくないのか!」
「恥? 機能性を追求した結果ですが」
スコットは自分の腰回りをパンパンと叩いた。
「従来のドレスは布面積が無駄に広く、移動速度が三〇パーセント低下します。宰相のパートナーとして、緊急時に即座に走れるこのスタイルこそが最適解かと」
「は、走る!? 夜会で走るやつがいるか!」
「有事はいつ何時起こるか分かりません。リスク管理の基本です」
「ぐっ……! だ、だが可愛げがない! ミミーを見習え! このフリル! このリボン! これが女の幸せというものだ!」
ジェラルドがミミーを前に押し出す。
ミミーは引きつった笑顔で、スカートを摘んで見せた。
「そ、そうですわよぉスコットお姉様ぁ。そんな男みたいな格好、殿方は誰も誘ってくれませんわよぉ?」
スコットはミミーを頭のてっぺんから爪先まで一瞥し、鼻で笑った。
「ピンキー男爵令嬢。君のそのドレス、歩くたびに裾を踏みそうになっているな。可動域の計算ミスだ。それに、その過剰なレースは引火の危険性が高い。暖炉のそばには近寄らないことを推奨する」
「な、なによそれぇ!」
「それに、『殿方が誘わない』?」
スコットはふと、隣のギルバートを見上げた。
ギルバートは心得たように頷き、スコットの腰に手を回す。
グイッ。
強く引き寄せられ、二人の距離がゼロになる。
「殿下、訂正していただきたい。私は彼女のこの姿に、どうしようもなく惹かれている」
ギルバートが甘く、低い声で囁いた。
「無駄な装飾を削ぎ落とし、本質的な美しさだけが残った刃のような姿……。これほど私の隣に相応しい女性はいない」
「なっ……!?」
「それに、彼女をダンスに誘うのは私だけでいい。他の男の目など必要ない」
独占欲丸出しのセリフに、周囲の令嬢たちがバタバタと倒れていく。
『尊い……!』
『氷の宰相が溶けてる……!』
『あの二人、最強すぎる……!』
ジェラルドは完全に蚊帳の外だった。
「くっ、くそぉぉぉ! 誤魔化されるか! ギルバート、貴様は騙されているんだ! その女は中身がおっさんなんだぞ!」
「失敬な。おっさんではなく、効率厨だ」
スコットが即座に訂正を入れる。
その時、オーケストラがワルツの調べを奏で始めた。
ギルバートが手を差し出す。
「踊ろうか、スコット。我々の『相性』を見せつけてやろう」
「了解した。ステップの誤差は許容範囲プラスマイナス五ミリ以内で頼む」
「厳しいな。善処しよう」
二人はフロアの中央へと滑り出した。
そこから始まったのは、通常のワルツではなかった。
『高速精密ワルツ』。
タン、タン、タン!
恐ろしいほどのスピードで回転しながらも、二人の軸は全くブレない。
ドレスの裾が遠心力で美しく広がり、まるで青い花が咲いたようだ。
「右旋回、角度三〇度」
「了解」
「次、リフト」
「タイミング合わせろよ」
小声で業務連絡のようなやり取りを交わしながら、二人はフロアを支配していく。
他のペアが気圧されて道を譲るほどだ。
ジェラルドとミミーも踊ろうとしたが、ミミーがドレスの裾を踏んで「あべしっ」と転びそうになり、様にならない。
一方、スコットたちは曲のクライマックスに合わせて、高速スピンを決めた。
ギュルルルル……ダンッ!!
最後の音と同時に、ビシッ! と決めポーズ。
ギルバートがスコットを背中から抱き支え、スコットが片足を高く上げる。
一滴の汗もかいていない涼しい顔。
シーン……。
一瞬の静寂の後。
ワァァァァァァァッ!!
割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「ブラボー!!」
「素晴らしい! なんてキレのあるダンスだ!」
「芸術だ! 無駄がない!」
称賛の嵐。
スコットは呼吸一つ乱さずに、ギルバートの腕の中で呟いた。
「……心拍数上昇、発汗量微増。運動効率としては悪くないな」
「ああ。いい運動だった。……それと、君の背中、意外と柔らかいな」
「セクハラか?」
「事実の確認だ」
二人は涼しい顔で礼をし、フロアを後にした。
残されたのは、真っ赤な顔で震えるジェラルドと、悔し涙を浮かべるミミーだけだった。
「お、覚えてろ……! ダンスが上手いからって何だと言うんだ!」
ジェラルドの負け惜しみは、歓声にかき消されて誰の耳にも届かなかった。
バルコニーに出たスコットは、夜風に当たりながらふうっと息を吐く。
「任務完了だな。殿下のあの顔、録画しておきたかった」
「目に焼き付けたからいいだろう。……しかしスコット、一つ誤算があった」
ギルバートが真剣な顔で言う。
「なんだ? ステップを間違えたか?」
「いや。……君がモテすぎだ」
ギルバートが視線を会場に戻す。
そこには、熱っぽい目でガラス越しにこちらを見つめる令嬢たちの姿があった。
「男だけでなく、女まで魅了してどうする」
「計算外だ。私はただ、機能美を追求しただけなのだが」
「……これからは、もう少し露出を控えてもらうか」
「布面積を増やすと通気性が悪くなる。却下だ」
「……そこをなんとか」
最強の宰相夫妻の夜は、まだ始まったばかりだった。
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