「貴様とは婚約破棄だ!」と殿下が仰るので「万歳!」と叫んで飛び出した!

恋の箱庭

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「……えー。この度は、愚息が大変なご迷惑をおかけした」

崩壊したパーティー会場。
氷漬けになった巨大なドラゴンの前で、アトラス国王陛下が深々と頭を下げていた。

その横には、縄でグルグル巻きにされ、猿轡を噛ませられたロランド殿下(スキンヘッド姿)が転がされている。
もはや王子としての威厳は塵ほどもない。

「本来ならば、王族が臣下に頭を下げるなどあってはならんことだが……今回ばかりは庇いきれん」

国王陛下は疲れた顔で溜息をついた。
無理もない。
王子の失態リストが凄まじいからだ。

1.元婚約者への根拠のない言いがかり(冤罪)。
2.建国記念パーティーでの抜刀騒ぎ。
3.伝説の魔物の封印をドジで解き、王宮を半壊させた。
4.国賓である辺境伯に決闘を挑み、デコピン一発で負けた。
5.カツラだった(これは罪ではないが、精神的ダメージ大)。

「グリム辺境伯。そしてカプリ夫人。そなたらの活躍がなければ、王都は火の海になっていたであろう。救国の英雄として、心より感謝する」

「もったいないお言葉です、陛下」

シリウス様が跪き、騎士の礼を取る。
私はその横で、優雅にカーテシーをした。
ただし、視線はチラチラと後ろの氷漬けドラゴンに向いているが。

「つきましては、ロランドの廃嫡と、そなたらへの謝罪・賠償を行いたい」

「廃嫡、ですか」

「うむ。もはや王位を継ぐ資格はない。王籍を剥奪し、どこかの修道院にでも幽閉するつもりだ」

「んー! んんーっ!(やめろ! 俺は悪くない!)」

転がされている元王子が何か喚いているが、国王陛下は冷ややかな目で一瞥しただけだった。
自業自得である。

「さて、褒美の話だ。カプリ夫人、そなたには多大な精神的苦痛を与えてしまった。慰謝料として、王家の宝物庫から好きなものを……」

「ドラゴンをください」

私は食い気味に即答した。

「……はい?」

国王陛下が固まった。

「お金や宝石はいりません。あの、後ろにある『スノー・エンシェント・ドラゴン(冷凍保存済み)』の所有権を私にください。あと、解体して運ぶための大型馬車の手配と、関税の免除をお願いします」

「ど、ドラゴンを……? あれをどうするつもりだ?」

「解体して素材にします。鱗は鎧に、牙は剣に、内臓は薬に、お肉は食用に。捨てるところはありませんわ」

「し、食用……」

国王陛下が引いている。
周囲の貴族たちも「あの化け物を食べるのか……」「やはり魔女だ……」とざわついているが、美味しいのだから仕方がない。

「それと! もう一つお願いがあります!」

私は畳み掛けた。

「あのドラゴンの巣穴……おそらく王宮の地下深くに『卵』があるはずです。それも欲しいです」

「卵!?」

「ええ。親竜が目覚めたということは、近くに卵を守っていた可能性が高い。もしあるなら、私が引き取って孵化させます。……実験用に」

「じ、実験用……」

国王陛下はこめかみを押さえた。
しかし、国の危機を救った英雄の頼みだ。
断れるはずもない。

「……わかった。ドラゴンの所有権は認めよう。卵が見つかれば、それも譲渡する。ただし、絶対に王都の中で孵化させるなよ? またパニックになるからな」

「ありがとうございます! 陛下、大好きです!(スポンサーとして)」

私は満面の笑みでガッツポーズをした。
やった!
これで向こう数年は研究素材に困らない!
辺境の財政も潤うし、一石二鳥だわ!

「……カプリ、お前なぁ。国王相手に強請(ゆす)りをする奴があるか」

シリウス様が小声で呆れている。

「あら、正当な報酬ですわ。それに、あのドラゴンを処分するだけでも莫大な費用がかかるのですから、王家にとっても私が引き取るのはメリットがあるはずです」

「……まあ、確かにそうだが」

こうして、商談(?)は成立した。

その後、パーティー会場は急遽「英雄を称える会」へと変更された。
先ほどまで私たちを遠巻きに見ていた貴族たちが、手のひらを返したように群がってくる。

「おお、グリム辺境伯! 素晴らしい剣技でした!」
「カプリ様! そのドレス、とても素敵ですわ! どこの工房のものですの?」
「ぜひ我が領地とも交易を!」

現金なものだ。
しかし、シリウス様はその中心で、堂々と、しかし謙虚に対応していた。

「いえ、私は妻のサポートをしただけです」
「妻のドレスは、彼女自身が設計したものです」
「交易に関しては、妻の許可が必要です」

彼は全ての功績を私に譲ろうとする。
なんて健気で、奥ゆかしい旦那様なのかしら。

「いいえ、皆様! あのドラゴンを一撃で黙らせたのはシリウス様ですわ! 私はただ、美味しくいただくために凍らせただけです!」

私がそう言うと、貴族たちは「美味しく……」「やはり食べるのか……」と若干引きつつも、シリウス様への評価をさらに高めていった。

「『人食い辺境伯』などと呼ばれていたが、実は聡明で武勇に優れた方だったのだな」
「奥様を立てる優しさもお持ちだ」
「王都の軟弱な男たちとは格が違うわ!」

シリウス様の株がストップ高だ。
ミア様もファンクラブ会員として、「カプリ様の旦那様ですから、当然尊いです!」と布教活動に励んでいる。

そんな喧騒の中、私はふと、会場の隅で連行されていくロランド元王子を見た。
彼は衛兵に引きずられながら、まだ未練がましくこちらを見ていた。

「カプリ……俺の愛が……俺の髪が……」

その姿はあまりにも哀れで、滑稽だった。
私は彼に向かって、ニッコリと微笑み、口パクで告げた。

『さようなら、実験材料以下の人』

彼はガクリと項垂れ、闇の中へと消えていった。

こうして、私たちの王都への凱旋は、最高の結果で幕を閉じた。
悪名は英雄譚へと変わり、貧乏な辺境伯家はドラゴンの素材によって巨万の富を得ることになったのだ。

「……疲れたな」

宴の後。
テラスで夜風に当たるシリウス様が、ふぅと息を吐いた。

「お疲れ様でした、旦那様。とってもカッコよかったですよ」

私は彼の隣に並び、そっと手を握った。

「……そうか? 君の方が目立っていた気がするが」

「いいえ。私にとっての英雄は、貴方だけです」

シリウス様が照れくさそうに顔を背ける。
その耳が赤いのが、月明かりでよく見えた。

「さあ、帰りましょうか。私たちの家(実験場)へ」

「ああ。……帰ったら、また騒がしい日々が待っているんだろうな」

「もちろんです! ドラゴン解体パーティーが待っていますから!」

「……前言撤回。もう少しここで休んでから帰りたい」

シリウス様の嘆きは、夜空に吸い込まれていった。
でも、その顔が幸せそうに笑っているのを、私は見逃さなかった。
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