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「キャンディ・ヴァイオレット! 貴様のような性悪女との婚約は、今この瞬間をもって破棄する!」
王宮の大広間。きらびやかなシャンデリアの下、第一王子ロナルドの絶叫が響き渡った。
突然の事態に、優雅に談笑していた貴族たちが一斉に静まり返る。生演奏の楽団さえもピタリと弓を止めた。
衆人環視の中、指を突きつけられた私――キャンディ・ヴァイオレット伯爵令嬢は、ゆっくりと扇を閉じた。
「……殿下。今、なんと仰いました?」
「耳まで悪いのか! 婚約破棄だと言ったんだ! これ以上、愛するリリィを虐げるお前の悪行には耐えられん!」
ロナルド王子の隣には、男爵令嬢のリリィが震えるように寄り添っている。
ピンク色のふわふわとしたドレスを着た彼女は、上目遣いで私を見て、わざとらしく怯えた声を上げた。
「ロナルド様……いけませんわ。キャンディ様にも何かお考えがあってのこと……きっと私の身分が低いから、教育してくださっただけですわ……」
「リリィ、君はなんて健気なんだ! 階段から突き落とされたり、噴水に突き飛ばされたりしたのが教育なものか! これは明確な殺意だ!」
王子は顔を真っ赤にして憤慨している。
周囲の貴族たちが「なんて恐ろしい」「やはり噂は本当だったのね」「氷の令嬢と呼ばれるだけはあるわ」とひそひそ噂をする声が聞こえてくる。
私は無表情のまま、その茶番劇を見つめていた。
(……階段から突き落とした? いいえ、彼女がヒールの高さと階段の傾斜角の計算を誤って自滅しそうになったのを、物理法則に従って支えようとしたら重すぎて支えきれなかっただけですわ)
(噴水? あれは彼女が『暑い』と騒ぐので、水冷効果が最も高い位置へ誘導した親切心ですのに)
私の行動原理は常に「効率」と「実益」だ。
感情論で動く彼らの思考回路は、私にとって理解不能な未開の言語に近い。
しかし、今の私にとって冤罪の是非など些末な問題だった。
重要なのは、たった一つのキーワードだ。
「……婚約、破棄。間違いなく、そう宣言されましたわね?」
私は確認のために問いかけた。
声が震えないように必死だった。
「ああ、そうだ! 父上である国王陛下の許可もすでに得ている! 正式な王命だと思え!」
「国王陛下の署名入り書類も、後日いただけるということですね?」
「くどい! そうだと言っているだろう! 貴様のような冷酷な女は、将来の国母にふさわしくないとな!」
その言葉を聞いた瞬間。
私の脳内で、巨大なソロバンが弾かれる音がした。
カシャン、カシャン、チャリーン!!
(毎朝五時の起床義務、なし!)
(意味のないお茶会での愛想笑い労働、免除!)
(王妃教育という名の、生産性ゼロの拘束時間、全廃!)
(そして何より――あの浪費家で頭の弱い王子のお守りからの、恒久的な解放!!)
あふれ出る喜びが、体の奥底からマグマのように湧き上がってくる。
私は知らず知らずのうちに、右手を固く握りしめていた。
「どうした、悔しくて声も出ないか? 今さら泣いて謝っても遅いぞ!」
勝ち誇ったように笑うロナルド王子。
リリィもハンカチで口元を隠しながら、勝ち誇った目で私を見ている。
私は、スゥッと息を吸い込んだ。
そして。
「よっしゃあああああああああああああ!!!」
淑女にあるまじき大音声とともに、天高く拳を突き上げた。
「え?」
ロナルド王子の笑顔が凍りつく。
会場中の視線が、私の突き上げられた右拳に集中した。
「あ、ありがとうございます殿下! いや、ロナルド様! 正直、どうやってこのブラック労働……いえ、婚約という名の奉仕活動から円満退職しようかと悩んでいたところですの!」
「は……? え……?」
「国王陛下の許可済みとは、なんと手回しの良い! さすがですわ! これでもう、実家の父に『王家に逆らう気か』と怒鳴られずに済みます! ああ、神よ! 自由の鐘は鳴り響きました!」
私は扇を放り出し、両手を広げてその場をくるくると回った。
重たいドレスの裾がふわりと舞う。
「な、なんだ? 気でも触れたのか……?」
「正気ですわ、これ以上ないほどに! ああ、そうだ。慰謝料の話をしましょう」
私は懐から、常に携帯しているメモ帳と万年筆を取り出した。
「婚約破棄はそちらからの有責による一方的な申し出です。当然、正当な慰謝料が発生しますわね」
「い、慰謝料だと? 貴様、自分が断罪されている立場だと分かっているのか!?」
「断罪? 証拠はありますの? 私が突き落としたという目撃証言は? ありませんわよね、だって突き落としていませんもの。逆に、私がリリィ様のために手配した家庭教師代、マナー講師代、それに壊されたドレスの修繕費……これらは全て領収書がございます」
私はサラサラと流れるような手つきでメモに数字を書き込んでいく。
「王妃教育に費やした私の時間単価を、伯爵家の宰相補佐官クラスの給与で換算しますと……過去五年分で、金貨三千枚」
「さ、三千……!?」
「さらに、精神的苦痛への慰謝料。これは殿下の浮気……あ、失礼、真実の愛による精神的摩耗を含みますので、倍額請求させていただきます。あわせて金貨六千枚。分割は金利一五パーセントでお受けしますわ」
私は書きなぐったメモを破り取り、呆然とするロナルド王子の胸ポケットにねじ込んだ。
「請求書は後日、内容証明郵便にて正式に送付させていただきます。支払期限は来月末とさせていただきますので、よろしくお願いいたしますね!」
「ま、待て! なんだその態度は! 少しは悲しくないのか!?」
「悲しい? どうしてですの? 損失が確定し、不良債権が処理できたのです。経営者として、これほど喜ばしいことはございませんわ!」
私は満面の笑みを浮かべた。
おそらく、彼と出会ってから一番美しく、心からの笑顔だったと思う。
「き、貴様……!」
「それでは皆様、お騒がせいたしました! 私はこれから引っ越しの荷造りと、新規事業の立ち上げ準備がございますので、これにて失礼いたします! ごきげんよう!」
私は完璧なカーテシーを披露すると、踵を返した。
背後で「待て!」とか「ふざけるな!」という声が聞こえた気がしたが、雑音として処理する。
今の私には、やらねばならないことが山ほどあるのだ。
まずは実家に戻り、勘当される前に私財を確保すること。
そして、この素晴らしい「バツイチ(予定)」という自由な身分を謳歌するための資金計画を練ること。
大広間の扉を勢いよく開け放つ。
夜風が心地よい。
自由の味がする。
そう思った瞬間だった。
「くくっ……あははははは!」
どこからか、低く、しかしよく響く笑い声が聞こえてきた。
驚いて足を止める。
声の主は、会場の隅にある柱の陰にいた。
夜会服をだらしなく着崩し、グラスを片手に持った長身の男。
銀色の髪に、氷のように冷ややかな青い瞳。
隣国から来賓として招かれていた、「氷の公爵」ことジェラルド・アイゼンハルトその人だった。
彼は私を見て、腹を抱えて笑っている。
「傑作だ。断罪の瞬間にガッツポーズをした令嬢など、初めて見たぞ」
「……お見苦しいところをお見せしました、ジェラルド公爵閣下」
私は一応、礼儀正しく頭を下げた。
彼に見られたのは計算外だった。
冷徹で他人に興味を持たないと噂の彼に目をつけられるのは、あまり効率的ではない。
「いや、謝ることはない。退屈な茶番劇だと思って帰ろうとしていたところだが……最後に最高の余興を見せてもらった」
ジェラルドは柱から背を離し、ゆっくりと私に近づいてきた。
その威圧感に、思わず後ずさりそうになる。
だが、彼の瞳に宿っているのは侮蔑や怒りではなかった。
まるで、珍しい玩具を見つけた子供のような、好奇心。
「金貨六千枚、か。あの馬鹿王子に払えると思うか?」
「払えなければ、王家の宝物庫から適当な美術品を差し押さえるまでです」
「ははっ! 王家相手に差し押さえか。肝が据わっているな」
彼は私の目の前で立ち止まると、楽しそうに目を細めた。
「気に入った」
「はい?」
「その商魂、実にたくましい。どうだ、俺に買われてみないか?」
「……は?」
思考が停止した。
買われる? 私が?
「誤解するな。愛人になれという意味ではない。私の領地では今、有能な経理係が不足していてな。君のような、数字に強くて心臓に毛が生えた人材を探していた」
「……雇用、ということでしょうか?」
「そうだ。給与は弾むぞ? 王子の提示した慰謝料よりも、現実的で確実な額を約束しよう」
給与。確実。
その言葉の響きに、私の心がグラリと揺れた。
実家に帰っても、婚約破棄された娘など厄介者扱いされるのは目に見えている。
下手をすれば修道院行きだ。修道院ではお金儲けはできない。
それに比べて、目の前の公爵からの提案は……。
「……条件によります」
私は即座に答えた。
「週休二日制、残業代は全額支給。ボーナスは年二回。そして、私の食事に関してはカロリー制限を一切口出ししないこと。これが最低条件です」
ジェラルドは一瞬きょとんとした後、再び声を上げて笑った。
「いいだろう! その条件、飲んだ!」
こうして。
私の婚約破棄騒動は、わずか十分足らずで「隣国の公爵への再就職」という、誰も予想しなかった結末へと着地したのである。
(待ってらっしゃい、私の輝かしい貯金残高!)
私はジェラルドの手を取り、力強く握手を交わした。
これが、すべての間違いと勘違いの始まりだとは、この時の私はまだ知る由もなかったのだ。
王宮の大広間。きらびやかなシャンデリアの下、第一王子ロナルドの絶叫が響き渡った。
突然の事態に、優雅に談笑していた貴族たちが一斉に静まり返る。生演奏の楽団さえもピタリと弓を止めた。
衆人環視の中、指を突きつけられた私――キャンディ・ヴァイオレット伯爵令嬢は、ゆっくりと扇を閉じた。
「……殿下。今、なんと仰いました?」
「耳まで悪いのか! 婚約破棄だと言ったんだ! これ以上、愛するリリィを虐げるお前の悪行には耐えられん!」
ロナルド王子の隣には、男爵令嬢のリリィが震えるように寄り添っている。
ピンク色のふわふわとしたドレスを着た彼女は、上目遣いで私を見て、わざとらしく怯えた声を上げた。
「ロナルド様……いけませんわ。キャンディ様にも何かお考えがあってのこと……きっと私の身分が低いから、教育してくださっただけですわ……」
「リリィ、君はなんて健気なんだ! 階段から突き落とされたり、噴水に突き飛ばされたりしたのが教育なものか! これは明確な殺意だ!」
王子は顔を真っ赤にして憤慨している。
周囲の貴族たちが「なんて恐ろしい」「やはり噂は本当だったのね」「氷の令嬢と呼ばれるだけはあるわ」とひそひそ噂をする声が聞こえてくる。
私は無表情のまま、その茶番劇を見つめていた。
(……階段から突き落とした? いいえ、彼女がヒールの高さと階段の傾斜角の計算を誤って自滅しそうになったのを、物理法則に従って支えようとしたら重すぎて支えきれなかっただけですわ)
(噴水? あれは彼女が『暑い』と騒ぐので、水冷効果が最も高い位置へ誘導した親切心ですのに)
私の行動原理は常に「効率」と「実益」だ。
感情論で動く彼らの思考回路は、私にとって理解不能な未開の言語に近い。
しかし、今の私にとって冤罪の是非など些末な問題だった。
重要なのは、たった一つのキーワードだ。
「……婚約、破棄。間違いなく、そう宣言されましたわね?」
私は確認のために問いかけた。
声が震えないように必死だった。
「ああ、そうだ! 父上である国王陛下の許可もすでに得ている! 正式な王命だと思え!」
「国王陛下の署名入り書類も、後日いただけるということですね?」
「くどい! そうだと言っているだろう! 貴様のような冷酷な女は、将来の国母にふさわしくないとな!」
その言葉を聞いた瞬間。
私の脳内で、巨大なソロバンが弾かれる音がした。
カシャン、カシャン、チャリーン!!
(毎朝五時の起床義務、なし!)
(意味のないお茶会での愛想笑い労働、免除!)
(王妃教育という名の、生産性ゼロの拘束時間、全廃!)
(そして何より――あの浪費家で頭の弱い王子のお守りからの、恒久的な解放!!)
あふれ出る喜びが、体の奥底からマグマのように湧き上がってくる。
私は知らず知らずのうちに、右手を固く握りしめていた。
「どうした、悔しくて声も出ないか? 今さら泣いて謝っても遅いぞ!」
勝ち誇ったように笑うロナルド王子。
リリィもハンカチで口元を隠しながら、勝ち誇った目で私を見ている。
私は、スゥッと息を吸い込んだ。
そして。
「よっしゃあああああああああああああ!!!」
淑女にあるまじき大音声とともに、天高く拳を突き上げた。
「え?」
ロナルド王子の笑顔が凍りつく。
会場中の視線が、私の突き上げられた右拳に集中した。
「あ、ありがとうございます殿下! いや、ロナルド様! 正直、どうやってこのブラック労働……いえ、婚約という名の奉仕活動から円満退職しようかと悩んでいたところですの!」
「は……? え……?」
「国王陛下の許可済みとは、なんと手回しの良い! さすがですわ! これでもう、実家の父に『王家に逆らう気か』と怒鳴られずに済みます! ああ、神よ! 自由の鐘は鳴り響きました!」
私は扇を放り出し、両手を広げてその場をくるくると回った。
重たいドレスの裾がふわりと舞う。
「な、なんだ? 気でも触れたのか……?」
「正気ですわ、これ以上ないほどに! ああ、そうだ。慰謝料の話をしましょう」
私は懐から、常に携帯しているメモ帳と万年筆を取り出した。
「婚約破棄はそちらからの有責による一方的な申し出です。当然、正当な慰謝料が発生しますわね」
「い、慰謝料だと? 貴様、自分が断罪されている立場だと分かっているのか!?」
「断罪? 証拠はありますの? 私が突き落としたという目撃証言は? ありませんわよね、だって突き落としていませんもの。逆に、私がリリィ様のために手配した家庭教師代、マナー講師代、それに壊されたドレスの修繕費……これらは全て領収書がございます」
私はサラサラと流れるような手つきでメモに数字を書き込んでいく。
「王妃教育に費やした私の時間単価を、伯爵家の宰相補佐官クラスの給与で換算しますと……過去五年分で、金貨三千枚」
「さ、三千……!?」
「さらに、精神的苦痛への慰謝料。これは殿下の浮気……あ、失礼、真実の愛による精神的摩耗を含みますので、倍額請求させていただきます。あわせて金貨六千枚。分割は金利一五パーセントでお受けしますわ」
私は書きなぐったメモを破り取り、呆然とするロナルド王子の胸ポケットにねじ込んだ。
「請求書は後日、内容証明郵便にて正式に送付させていただきます。支払期限は来月末とさせていただきますので、よろしくお願いいたしますね!」
「ま、待て! なんだその態度は! 少しは悲しくないのか!?」
「悲しい? どうしてですの? 損失が確定し、不良債権が処理できたのです。経営者として、これほど喜ばしいことはございませんわ!」
私は満面の笑みを浮かべた。
おそらく、彼と出会ってから一番美しく、心からの笑顔だったと思う。
「き、貴様……!」
「それでは皆様、お騒がせいたしました! 私はこれから引っ越しの荷造りと、新規事業の立ち上げ準備がございますので、これにて失礼いたします! ごきげんよう!」
私は完璧なカーテシーを披露すると、踵を返した。
背後で「待て!」とか「ふざけるな!」という声が聞こえた気がしたが、雑音として処理する。
今の私には、やらねばならないことが山ほどあるのだ。
まずは実家に戻り、勘当される前に私財を確保すること。
そして、この素晴らしい「バツイチ(予定)」という自由な身分を謳歌するための資金計画を練ること。
大広間の扉を勢いよく開け放つ。
夜風が心地よい。
自由の味がする。
そう思った瞬間だった。
「くくっ……あははははは!」
どこからか、低く、しかしよく響く笑い声が聞こえてきた。
驚いて足を止める。
声の主は、会場の隅にある柱の陰にいた。
夜会服をだらしなく着崩し、グラスを片手に持った長身の男。
銀色の髪に、氷のように冷ややかな青い瞳。
隣国から来賓として招かれていた、「氷の公爵」ことジェラルド・アイゼンハルトその人だった。
彼は私を見て、腹を抱えて笑っている。
「傑作だ。断罪の瞬間にガッツポーズをした令嬢など、初めて見たぞ」
「……お見苦しいところをお見せしました、ジェラルド公爵閣下」
私は一応、礼儀正しく頭を下げた。
彼に見られたのは計算外だった。
冷徹で他人に興味を持たないと噂の彼に目をつけられるのは、あまり効率的ではない。
「いや、謝ることはない。退屈な茶番劇だと思って帰ろうとしていたところだが……最後に最高の余興を見せてもらった」
ジェラルドは柱から背を離し、ゆっくりと私に近づいてきた。
その威圧感に、思わず後ずさりそうになる。
だが、彼の瞳に宿っているのは侮蔑や怒りではなかった。
まるで、珍しい玩具を見つけた子供のような、好奇心。
「金貨六千枚、か。あの馬鹿王子に払えると思うか?」
「払えなければ、王家の宝物庫から適当な美術品を差し押さえるまでです」
「ははっ! 王家相手に差し押さえか。肝が据わっているな」
彼は私の目の前で立ち止まると、楽しそうに目を細めた。
「気に入った」
「はい?」
「その商魂、実にたくましい。どうだ、俺に買われてみないか?」
「……は?」
思考が停止した。
買われる? 私が?
「誤解するな。愛人になれという意味ではない。私の領地では今、有能な経理係が不足していてな。君のような、数字に強くて心臓に毛が生えた人材を探していた」
「……雇用、ということでしょうか?」
「そうだ。給与は弾むぞ? 王子の提示した慰謝料よりも、現実的で確実な額を約束しよう」
給与。確実。
その言葉の響きに、私の心がグラリと揺れた。
実家に帰っても、婚約破棄された娘など厄介者扱いされるのは目に見えている。
下手をすれば修道院行きだ。修道院ではお金儲けはできない。
それに比べて、目の前の公爵からの提案は……。
「……条件によります」
私は即座に答えた。
「週休二日制、残業代は全額支給。ボーナスは年二回。そして、私の食事に関してはカロリー制限を一切口出ししないこと。これが最低条件です」
ジェラルドは一瞬きょとんとした後、再び声を上げて笑った。
「いいだろう! その条件、飲んだ!」
こうして。
私の婚約破棄騒動は、わずか十分足らずで「隣国の公爵への再就職」という、誰も予想しなかった結末へと着地したのである。
(待ってらっしゃい、私の輝かしい貯金残高!)
私はジェラルドの手を取り、力強く握手を交わした。
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