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王宮のテラスでの劇的な「再就職」決定から一時間後。
私は実家であるヴァイオレット伯爵邸への帰路についていた。
ジェラルド公爵とは「明日、迎えの馬車を寄越す」という約束を取り付け、一旦別れた。
あのまま公爵邸に行ってもよかったのだが、私にはまだ回収しなければならない資産――もとい、私物が実家に残されている。
揺れる馬車の中で、私は手帳を開き、猛烈な勢いでペンを走らせていた。
「……王宮への馬車代、往復分。これは当然、経費で落ちるわよね。婚約破棄を言い渡すために呼び出したのだから、呼び出した側が負担すべきだわ」
カツカツカツ、とペンの音が響く。
「ドレスのレンタル代も請求しましょう。あんな趣味の悪いピンク色のドレス、ロナルド殿下の指定でなければ絶対に着ませんでしたもの。精神的苦痛への慰謝料に上乗せして……」
もはや婚約破棄のショックなど欠片もない。
あるのは、いかにして損失を補填し、黒字転換するかという執念のみ。
やがて馬車が伯爵邸に到着した。
玄関ホールに入ると、そこにはすでに鬼の形相をした父――ヴァイオレット伯爵が待ち構えていた。
「キャンディ!! 貴様、一体何をしでかしたか分かっているのか!」
雷のような怒号。
使用人たちが怯えて縮こまる中、私は優雅に手袋を外しながら応じた。
「あらお父様、耳が遠くなりました? そんな大声を出さなくても聞こえていますわ」
「ふざけるな! 先ほど王宮から使いが来たぞ! ロナルド殿下との婚約が破棄されたそうではないか! しかも、殿下に暴言を吐いて逃げ出したと!」
「訂正いたします。暴言ではなく事実陳列、逃亡ではなく戦略的撤退です」
「屁理屈を言うな! 王家との縁談をフイにするなど、万死に値する! 我が家の恥さらしめ! 今すぐ王宮に戻って土下座してこい!」
父の顔は怒りで真っ赤だ。
貴族としての体面しか頭にない父にとって、娘が「王太子の婚約者」という座を失うことは、自己資産の暴落を意味するのだろう。
だが、私にとって今の父は、すでに「損切りすべき株主」でしかなかった。
「お父様。冷静に損益分岐点を考えてください」
「は? そん……なんだと?」
「ロナルド殿下は浪費家で、王としての資質も怪しい。あのまま私が嫁いだとしても、将来的にヴァイオレット家が借金の肩代わりをさせられるリスクは九割を超えています」
私は指を折りながら淡々と説明する。
「対して、今回の婚約破棄。慰謝料として金貨六千枚を請求済みです。これは我が領地の年間税収の三年分に相当します」
「き、金貨六千枚だと……!?」
「はい。つまり、私は不良債権(ロナルド殿下)を処分しつつ、莫大な現金資産を確保したのです。褒められこそすれ、怒られる筋合いはありませんわ」
父は口をパクパクと開閉させている。
理解が追いついていないようだ。
「と、とにかく! そんな金が手に入るわけがないだろう! 王家を敵に回して、この家がタダで済むと思っているのか! お前など勘当だ! 今すぐ出て行け!」
「ええ、そのつもりです」
「……は?」
「ですから、出て行きますと言いました。幸い、次の就職先は決まりましたので」
私はニッコリと微笑んだ。
「これより荷造りを開始します。一時間で退去しますので、お父様も血圧にお気をつけて」
言い捨てて、私は階段を駆け上がった。
背後で「ま、待て! 就職先とはどこだ!」と叫ぶ声が聞こえたが、無視する。
タイム・イズ・マネー。
私の部屋に入ると、専属メイドのアンナが心配そうな顔で立っていた。
「お嬢様……! 婚約破棄というのは本当ですか……?」
「ええ、本当よアンナ。それよりトランクを用意して。一番大きいのを三つ」
「は、はい! ……えっと、夜逃げですか?」
「栄転よ。さあ、手伝ってちょうだい。換金できそうなものは片っ端から詰めるわよ」
私はクローゼットを開け放ち、服の選別を始めた。
「このドレスは流行遅れだから古着屋へ。この毛皮はまだ値がつくわね。ああ、殿下からいただいたこの宝石箱……中身はイミテーションだけど、箱自体は象牙だから売れるわ」
「お嬢様、作業が早すぎます……涙とかないんですか……」
「涙で腹は膨れないわ。それよりアンナ、あなたはどうする? 私についてくるなら、給与は今の二割増しを約束するけれど」
アンナは一瞬きょとんとしたが、すぐに決意の表情で頷いた。
「行きます! お嬢様の計算高いところ、嫌いじゃありませんから!」
「交渉成立ね。では、急ぎましょう」
荷造りをアンナに任せ、私は机に向かった。
先ほど王宮で殿下に叩きつけたのは、あくまで概算のメモだ。
正式な請求書を作成し、内容証明で送りつけなければ、法的な効力(と私の気が済むこと)は得られない。
私は最高級の羊皮紙を取り出し、インク壺の蓋を開けた。
「さて……ここからが本番よ」
ペンの先が紙の上で踊る。
『請求書 殿 ロナルド・アークライト第一王子』
『件名:婚約破棄に伴う損害賠償請求の件』
まずは既定の項目。
王妃教育費、衣装代、交際費、etc...
ここまではいい。問題はここからだ。
私は「精神的苦痛および機会損失」の項目に、太字で書き込んだ。
「……私の青春の損失、日割り計算で請求させていただきます」
口に出しながら書くと、より一層の怒りと金額への執着が湧いてくる。
「一五歳から一八歳までの三年間。これは女性にとって最も市場価値が高く、かつ自由を謳歌すべき『青春のゴールデンタイム』ですわ」
その貴重な時間を、あのアホ王子の機嫌取りと、浮気相手の尻拭いに費やしたのだ。
単なる労働対価では済まされない。
「青春プレミアム価格を適用。一日あたり金貨五枚……いえ、深夜の呼び出し対応も含めれば金貨八枚が妥当ね」
計算式を書き連ねる。
365日 × 3年 + うるう年1日 = 1096日。
1096日 × 金貨8枚 = 8768枚。
「……あら? さっきの概算(六千枚)より増えてしまったわ」
私は眉をひそめた。
だが、計算は嘘をつかない。これが正当な数字なのだ。
「仕方ありませんわね。端数は切り捨てて、キリよく金貨一万枚にしておきましょう。早期入金特典として、一週間以内に支払えば消費税分はサービスしてあげてもよろしくてよ」
完成した請求書は、もはや手紙というより殺害予告に近い圧力を放っていた。
私は満足げに頷き、封蝋を垂らして家紋のスタンプを押した。
「よし。これを明日、王宮へ送りつけるわよ」
「……お嬢様、その手紙、触るだけで火傷しそうです」
アンナが引きつった顔でトランクを閉じた。
「荷造り、完了しました。宝石類と当面の衣類、あとお嬢様が隠し持っていた『へそくり』の通帳も入れました」
「完璧よアンナ。あなたは最高の部下ね」
私たちは顔を見合わせて笑った。
その時、部屋のドアが激しく叩かれた。
「キャンディ! 開けなさい! 騎士団が来ているのよ!」
母の声だ。騎士団?
まさか、もう捕縛命令が出たというの?
私はアンナに目配せをし、窓を開けた。
「お母様、騎士団の方々には『請求書の宛先なら王宮です』とお伝えください!」
「えっ? ちょっと、何を……!?」
「アンナ、行くわよ!」
「はい、お嬢様!」
ここは二階だが、庭の大きな樫の木が窓のすぐそばまで枝を伸ばしている。
幼い頃、城壁の修繕費をケチる父に抗議するために何度も脱走したルートだ。
私はドレスの裾をまくり上げ、慣れた手つきで枝に飛び移った。
「ちょっ……キャンディ!? あなた、淑女が何という真似を!」
ドアが開いて母が入ってきた時には、私はすでに庭の芝生の上に着地していた。
続いてアンナがトランクを放り投げ、器用に降りてくる。
「さようなら、お父様、お母様! 老後の面倒はロナルド殿下に頼んでくださいませーっ!」
屋敷に向かって大きく手を振り、私たちは走り出した。
夜の闇に紛れ、裏門を抜ける。
目指すは市街地の宿屋。そして明日には、公爵邸だ。
「はぁ、はぁ……! お嬢様、本当にこれでよかったんですか?」
息を切らせながら走るアンナが尋ねる。
私は夜風を受けながら、懐の分厚い請求書を確かめた。
「よかったも何も、これがベストな選択よ」
未練? ない。
悲しみ? ゼロだ。
あるのは、これから始まる新生活への期待と、ジェラルド公爵が提示してくれるであろう給与額への興味だけ。
「待っていらっしゃい、私の黄金の未来! 一コインたりとも取り逃がしはしませんわ!」
満月の下、元悪役令嬢キャンディ・ヴァイオレットは高らかに笑った。
その笑顔は、どんな宝石よりも欲望に満ちて輝いていたという。
私は実家であるヴァイオレット伯爵邸への帰路についていた。
ジェラルド公爵とは「明日、迎えの馬車を寄越す」という約束を取り付け、一旦別れた。
あのまま公爵邸に行ってもよかったのだが、私にはまだ回収しなければならない資産――もとい、私物が実家に残されている。
揺れる馬車の中で、私は手帳を開き、猛烈な勢いでペンを走らせていた。
「……王宮への馬車代、往復分。これは当然、経費で落ちるわよね。婚約破棄を言い渡すために呼び出したのだから、呼び出した側が負担すべきだわ」
カツカツカツ、とペンの音が響く。
「ドレスのレンタル代も請求しましょう。あんな趣味の悪いピンク色のドレス、ロナルド殿下の指定でなければ絶対に着ませんでしたもの。精神的苦痛への慰謝料に上乗せして……」
もはや婚約破棄のショックなど欠片もない。
あるのは、いかにして損失を補填し、黒字転換するかという執念のみ。
やがて馬車が伯爵邸に到着した。
玄関ホールに入ると、そこにはすでに鬼の形相をした父――ヴァイオレット伯爵が待ち構えていた。
「キャンディ!! 貴様、一体何をしでかしたか分かっているのか!」
雷のような怒号。
使用人たちが怯えて縮こまる中、私は優雅に手袋を外しながら応じた。
「あらお父様、耳が遠くなりました? そんな大声を出さなくても聞こえていますわ」
「ふざけるな! 先ほど王宮から使いが来たぞ! ロナルド殿下との婚約が破棄されたそうではないか! しかも、殿下に暴言を吐いて逃げ出したと!」
「訂正いたします。暴言ではなく事実陳列、逃亡ではなく戦略的撤退です」
「屁理屈を言うな! 王家との縁談をフイにするなど、万死に値する! 我が家の恥さらしめ! 今すぐ王宮に戻って土下座してこい!」
父の顔は怒りで真っ赤だ。
貴族としての体面しか頭にない父にとって、娘が「王太子の婚約者」という座を失うことは、自己資産の暴落を意味するのだろう。
だが、私にとって今の父は、すでに「損切りすべき株主」でしかなかった。
「お父様。冷静に損益分岐点を考えてください」
「は? そん……なんだと?」
「ロナルド殿下は浪費家で、王としての資質も怪しい。あのまま私が嫁いだとしても、将来的にヴァイオレット家が借金の肩代わりをさせられるリスクは九割を超えています」
私は指を折りながら淡々と説明する。
「対して、今回の婚約破棄。慰謝料として金貨六千枚を請求済みです。これは我が領地の年間税収の三年分に相当します」
「き、金貨六千枚だと……!?」
「はい。つまり、私は不良債権(ロナルド殿下)を処分しつつ、莫大な現金資産を確保したのです。褒められこそすれ、怒られる筋合いはありませんわ」
父は口をパクパクと開閉させている。
理解が追いついていないようだ。
「と、とにかく! そんな金が手に入るわけがないだろう! 王家を敵に回して、この家がタダで済むと思っているのか! お前など勘当だ! 今すぐ出て行け!」
「ええ、そのつもりです」
「……は?」
「ですから、出て行きますと言いました。幸い、次の就職先は決まりましたので」
私はニッコリと微笑んだ。
「これより荷造りを開始します。一時間で退去しますので、お父様も血圧にお気をつけて」
言い捨てて、私は階段を駆け上がった。
背後で「ま、待て! 就職先とはどこだ!」と叫ぶ声が聞こえたが、無視する。
タイム・イズ・マネー。
私の部屋に入ると、専属メイドのアンナが心配そうな顔で立っていた。
「お嬢様……! 婚約破棄というのは本当ですか……?」
「ええ、本当よアンナ。それよりトランクを用意して。一番大きいのを三つ」
「は、はい! ……えっと、夜逃げですか?」
「栄転よ。さあ、手伝ってちょうだい。換金できそうなものは片っ端から詰めるわよ」
私はクローゼットを開け放ち、服の選別を始めた。
「このドレスは流行遅れだから古着屋へ。この毛皮はまだ値がつくわね。ああ、殿下からいただいたこの宝石箱……中身はイミテーションだけど、箱自体は象牙だから売れるわ」
「お嬢様、作業が早すぎます……涙とかないんですか……」
「涙で腹は膨れないわ。それよりアンナ、あなたはどうする? 私についてくるなら、給与は今の二割増しを約束するけれど」
アンナは一瞬きょとんとしたが、すぐに決意の表情で頷いた。
「行きます! お嬢様の計算高いところ、嫌いじゃありませんから!」
「交渉成立ね。では、急ぎましょう」
荷造りをアンナに任せ、私は机に向かった。
先ほど王宮で殿下に叩きつけたのは、あくまで概算のメモだ。
正式な請求書を作成し、内容証明で送りつけなければ、法的な効力(と私の気が済むこと)は得られない。
私は最高級の羊皮紙を取り出し、インク壺の蓋を開けた。
「さて……ここからが本番よ」
ペンの先が紙の上で踊る。
『請求書 殿 ロナルド・アークライト第一王子』
『件名:婚約破棄に伴う損害賠償請求の件』
まずは既定の項目。
王妃教育費、衣装代、交際費、etc...
ここまではいい。問題はここからだ。
私は「精神的苦痛および機会損失」の項目に、太字で書き込んだ。
「……私の青春の損失、日割り計算で請求させていただきます」
口に出しながら書くと、より一層の怒りと金額への執着が湧いてくる。
「一五歳から一八歳までの三年間。これは女性にとって最も市場価値が高く、かつ自由を謳歌すべき『青春のゴールデンタイム』ですわ」
その貴重な時間を、あのアホ王子の機嫌取りと、浮気相手の尻拭いに費やしたのだ。
単なる労働対価では済まされない。
「青春プレミアム価格を適用。一日あたり金貨五枚……いえ、深夜の呼び出し対応も含めれば金貨八枚が妥当ね」
計算式を書き連ねる。
365日 × 3年 + うるう年1日 = 1096日。
1096日 × 金貨8枚 = 8768枚。
「……あら? さっきの概算(六千枚)より増えてしまったわ」
私は眉をひそめた。
だが、計算は嘘をつかない。これが正当な数字なのだ。
「仕方ありませんわね。端数は切り捨てて、キリよく金貨一万枚にしておきましょう。早期入金特典として、一週間以内に支払えば消費税分はサービスしてあげてもよろしくてよ」
完成した請求書は、もはや手紙というより殺害予告に近い圧力を放っていた。
私は満足げに頷き、封蝋を垂らして家紋のスタンプを押した。
「よし。これを明日、王宮へ送りつけるわよ」
「……お嬢様、その手紙、触るだけで火傷しそうです」
アンナが引きつった顔でトランクを閉じた。
「荷造り、完了しました。宝石類と当面の衣類、あとお嬢様が隠し持っていた『へそくり』の通帳も入れました」
「完璧よアンナ。あなたは最高の部下ね」
私たちは顔を見合わせて笑った。
その時、部屋のドアが激しく叩かれた。
「キャンディ! 開けなさい! 騎士団が来ているのよ!」
母の声だ。騎士団?
まさか、もう捕縛命令が出たというの?
私はアンナに目配せをし、窓を開けた。
「お母様、騎士団の方々には『請求書の宛先なら王宮です』とお伝えください!」
「えっ? ちょっと、何を……!?」
「アンナ、行くわよ!」
「はい、お嬢様!」
ここは二階だが、庭の大きな樫の木が窓のすぐそばまで枝を伸ばしている。
幼い頃、城壁の修繕費をケチる父に抗議するために何度も脱走したルートだ。
私はドレスの裾をまくり上げ、慣れた手つきで枝に飛び移った。
「ちょっ……キャンディ!? あなた、淑女が何という真似を!」
ドアが開いて母が入ってきた時には、私はすでに庭の芝生の上に着地していた。
続いてアンナがトランクを放り投げ、器用に降りてくる。
「さようなら、お父様、お母様! 老後の面倒はロナルド殿下に頼んでくださいませーっ!」
屋敷に向かって大きく手を振り、私たちは走り出した。
夜の闇に紛れ、裏門を抜ける。
目指すは市街地の宿屋。そして明日には、公爵邸だ。
「はぁ、はぁ……! お嬢様、本当にこれでよかったんですか?」
息を切らせながら走るアンナが尋ねる。
私は夜風を受けながら、懐の分厚い請求書を確かめた。
「よかったも何も、これがベストな選択よ」
未練? ない。
悲しみ? ゼロだ。
あるのは、これから始まる新生活への期待と、ジェラルド公爵が提示してくれるであろう給与額への興味だけ。
「待っていらっしゃい、私の黄金の未来! 一コインたりとも取り逃がしはしませんわ!」
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