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「……お父様、ごきげんよう。朝から物々しい格好で、どちらへお出かけですの?」
バラの花びらが舞い散る中、私は黄金に磨き上げられた馬車(ゼクスさんたちが徹夜で磨いてくれましたわ)から、ゆっくりと降り立った。
目の前には、軍装に身を固めたお父様と、腰を抜かして震えているウィルフレッド王子。
そして、槍を構えながらも、私の後ろに続く「バラの香りの二日酔い軍勢」を見て困惑している近衛兵たち。
「あ、あ、アマリリス……! 貴様、どの面下げて戻ってきた! その背中の不気味な羽は何だ! やはり魔王の眷属になったのか!」
王子が震える指で私を指差す。カラスの羽、そんなに怖いですのね。
「あら、これは最新の『おもてなしスタイル』ですわ。それより王子、そんなに大声を出すと喉を痛めますわよ? ほら、こちらの特製ハーブティーをお飲みになって」
「飲むか! 毒だろう! 陛下、ご覧ください! 彼女はバルカス将軍の軍を術で操り、本陣を壊滅させに来たのです!」
お父様は、鋭い目で私とバルカス将軍を交互に見た。
「……バルカス。説明せよ。貴殿の部下たちは、なぜ武器も持たずに鼻歌を歌いながら行進しているのだ?」
「陛下。……正直に申し上げます。我々は、アマリリス様の『厚すぎるおもてなし』に完敗いたしました。昨夜の肉の味を思い出すだけで、もう剣を握る気になれません」
将軍が清々しい顔で敬礼すると、お父様は絶句した。
「……肉の味だと?」
「左様ですわ、お父様。さあ、皆様も朝食にいたしましょう。丁度、カリカリに焼いたベーコンと、エッグベネディクトをご用意させましたの」
私はパチンと指を鳴らした。
すると、ゼクスさんやギデオン様たちが、白いクロスをかけたテーブルを手際よく広げ始めた。
戦場のど真ん中に現れた、場違いなほど優雅なテラス席。
「な、なんなんだこの展開は! アマリリス、貴様は王宮から財宝を盗んで逃げた大罪人だろうが!」
王子が必死に叫ぶが、私は首を傾げた。
「財宝、ですの? もしかして、私の馬車に積んであった『フローライト家秘伝の茶器セット』のことかしら? あれは私物ですわよ」
「違う! 私が預けていた『建国の宝玉』が消えているのだ! お前が盗んだに決まっている!」
「まあ。宝玉なら、王子の寝室のクローゼットの、三番目の引き出しの奥にあるはずですわよ? お掃除が行き届いていないから、埃に紛れていたのではありませんこと?」
「な……!? な、なぜそれを……!」
王子の顔が、一瞬にして土色に変わった。
実は、馬車ジャックに遭う数日前、王子のあまりに汚い部屋を見かねて、こっそり整理整頓のアドバイスを書き置きした時に見かけていたのだ。
「……ウィルフレッド王子。今の言葉、聞き捨てなりませんな」
お父様が、冷徹な声で王子を睨みつけた。
「娘が盗んだと言い張り、国を挙げて討伐軍を出させたその根拠が、貴殿の『失くしもの』だったというのか?」
「い、いや、これは……! 陛下、騙されてはいけません! 彼女は隣国と共謀して侵略を――」
「侵略なら、もう終わっていますわよ。王子の胃袋の。……ほら、ゼクスさん」
ゼクスさんが、銀のトレイに乗った「特製・超大盛りベーコンエッグサンド」を王子の鼻先に突きつけた。
「……っ。なんだ、この……抗いがたい香りは……!」
「召し上がれ。嘘をつくには、相当なエネルギーが必要ですもの。お腹が空いていると、すぐにボロが出てしまいますわよ?」
「ぐ、ぬぬぬ……。……あむっ」
王子は、誘惑に負けてサンドイッチにかじりついた。
そして、あまりの美味しさに白目を剥いて、その場に膝をついた。
「……う、美味すぎる。……。……申し訳ありませんでした! 全部、私の嘘です! アマリリスがいなくなって清々したから、適当に悪評を流して婚約破棄を正当化しようとしましたぁ!」
王子の絶叫が、静かな本陣に響き渡った。
お父様は深い溜息をつき、頭を抱えた。
「……情けない。我が国を代表する王子が、食欲に負けて真実を吐くとは」
「よろしいではありませんか。これで、私が『魔王』ではないと証明されましたわね」
私は優雅に一礼し、お父様に微笑みかけた。
「さて、お父様。誤解も解けましたし、私はこのまま『野良犬騎士団』の皆様と一緒に、隣国の砦へ帰りますわ。あちらの方が、お掃除のしがいがありますもの」
「帰るだと? アマリリス、お前は公爵令嬢なのだぞ!」
「いいえ、私は『婚約破棄された元・悪役令嬢』ですわ。自由の身を、存分に楽しませていただきます」
私はゼクスさんの腕を取り、驚くお父様たちを残して、颯爽とパレードへと戻っていった。
バラの花びらが舞い散る中、私は黄金に磨き上げられた馬車(ゼクスさんたちが徹夜で磨いてくれましたわ)から、ゆっくりと降り立った。
目の前には、軍装に身を固めたお父様と、腰を抜かして震えているウィルフレッド王子。
そして、槍を構えながらも、私の後ろに続く「バラの香りの二日酔い軍勢」を見て困惑している近衛兵たち。
「あ、あ、アマリリス……! 貴様、どの面下げて戻ってきた! その背中の不気味な羽は何だ! やはり魔王の眷属になったのか!」
王子が震える指で私を指差す。カラスの羽、そんなに怖いですのね。
「あら、これは最新の『おもてなしスタイル』ですわ。それより王子、そんなに大声を出すと喉を痛めますわよ? ほら、こちらの特製ハーブティーをお飲みになって」
「飲むか! 毒だろう! 陛下、ご覧ください! 彼女はバルカス将軍の軍を術で操り、本陣を壊滅させに来たのです!」
お父様は、鋭い目で私とバルカス将軍を交互に見た。
「……バルカス。説明せよ。貴殿の部下たちは、なぜ武器も持たずに鼻歌を歌いながら行進しているのだ?」
「陛下。……正直に申し上げます。我々は、アマリリス様の『厚すぎるおもてなし』に完敗いたしました。昨夜の肉の味を思い出すだけで、もう剣を握る気になれません」
将軍が清々しい顔で敬礼すると、お父様は絶句した。
「……肉の味だと?」
「左様ですわ、お父様。さあ、皆様も朝食にいたしましょう。丁度、カリカリに焼いたベーコンと、エッグベネディクトをご用意させましたの」
私はパチンと指を鳴らした。
すると、ゼクスさんやギデオン様たちが、白いクロスをかけたテーブルを手際よく広げ始めた。
戦場のど真ん中に現れた、場違いなほど優雅なテラス席。
「な、なんなんだこの展開は! アマリリス、貴様は王宮から財宝を盗んで逃げた大罪人だろうが!」
王子が必死に叫ぶが、私は首を傾げた。
「財宝、ですの? もしかして、私の馬車に積んであった『フローライト家秘伝の茶器セット』のことかしら? あれは私物ですわよ」
「違う! 私が預けていた『建国の宝玉』が消えているのだ! お前が盗んだに決まっている!」
「まあ。宝玉なら、王子の寝室のクローゼットの、三番目の引き出しの奥にあるはずですわよ? お掃除が行き届いていないから、埃に紛れていたのではありませんこと?」
「な……!? な、なぜそれを……!」
王子の顔が、一瞬にして土色に変わった。
実は、馬車ジャックに遭う数日前、王子のあまりに汚い部屋を見かねて、こっそり整理整頓のアドバイスを書き置きした時に見かけていたのだ。
「……ウィルフレッド王子。今の言葉、聞き捨てなりませんな」
お父様が、冷徹な声で王子を睨みつけた。
「娘が盗んだと言い張り、国を挙げて討伐軍を出させたその根拠が、貴殿の『失くしもの』だったというのか?」
「い、いや、これは……! 陛下、騙されてはいけません! 彼女は隣国と共謀して侵略を――」
「侵略なら、もう終わっていますわよ。王子の胃袋の。……ほら、ゼクスさん」
ゼクスさんが、銀のトレイに乗った「特製・超大盛りベーコンエッグサンド」を王子の鼻先に突きつけた。
「……っ。なんだ、この……抗いがたい香りは……!」
「召し上がれ。嘘をつくには、相当なエネルギーが必要ですもの。お腹が空いていると、すぐにボロが出てしまいますわよ?」
「ぐ、ぬぬぬ……。……あむっ」
王子は、誘惑に負けてサンドイッチにかじりついた。
そして、あまりの美味しさに白目を剥いて、その場に膝をついた。
「……う、美味すぎる。……。……申し訳ありませんでした! 全部、私の嘘です! アマリリスがいなくなって清々したから、適当に悪評を流して婚約破棄を正当化しようとしましたぁ!」
王子の絶叫が、静かな本陣に響き渡った。
お父様は深い溜息をつき、頭を抱えた。
「……情けない。我が国を代表する王子が、食欲に負けて真実を吐くとは」
「よろしいではありませんか。これで、私が『魔王』ではないと証明されましたわね」
私は優雅に一礼し、お父様に微笑みかけた。
「さて、お父様。誤解も解けましたし、私はこのまま『野良犬騎士団』の皆様と一緒に、隣国の砦へ帰りますわ。あちらの方が、お掃除のしがいがありますもの」
「帰るだと? アマリリス、お前は公爵令嬢なのだぞ!」
「いいえ、私は『婚約破棄された元・悪役令嬢』ですわ。自由の身を、存分に楽しませていただきます」
私はゼクスさんの腕を取り、驚くお父様たちを残して、颯爽とパレードへと戻っていった。
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