15 / 28
15
「……お父様、ごきげんよう。朝から物々しい格好で、どちらへお出かけですの?」
バラの花びらが舞い散る中、私は黄金に磨き上げられた馬車(ゼクスさんたちが徹夜で磨いてくれましたわ)から、ゆっくりと降り立った。
目の前には、軍装に身を固めたお父様と、腰を抜かして震えているウィルフレッド王子。
そして、槍を構えながらも、私の後ろに続く「バラの香りの二日酔い軍勢」を見て困惑している近衛兵たち。
「あ、あ、アマリリス……! 貴様、どの面下げて戻ってきた! その背中の不気味な羽は何だ! やはり魔王の眷属になったのか!」
王子が震える指で私を指差す。カラスの羽、そんなに怖いですのね。
「あら、これは最新の『おもてなしスタイル』ですわ。それより王子、そんなに大声を出すと喉を痛めますわよ? ほら、こちらの特製ハーブティーをお飲みになって」
「飲むか! 毒だろう! 陛下、ご覧ください! 彼女はバルカス将軍の軍を術で操り、本陣を壊滅させに来たのです!」
お父様は、鋭い目で私とバルカス将軍を交互に見た。
「……バルカス。説明せよ。貴殿の部下たちは、なぜ武器も持たずに鼻歌を歌いながら行進しているのだ?」
「陛下。……正直に申し上げます。我々は、アマリリス様の『厚すぎるおもてなし』に完敗いたしました。昨夜の肉の味を思い出すだけで、もう剣を握る気になれません」
将軍が清々しい顔で敬礼すると、お父様は絶句した。
「……肉の味だと?」
「左様ですわ、お父様。さあ、皆様も朝食にいたしましょう。丁度、カリカリに焼いたベーコンと、エッグベネディクトをご用意させましたの」
私はパチンと指を鳴らした。
すると、ゼクスさんやギデオン様たちが、白いクロスをかけたテーブルを手際よく広げ始めた。
戦場のど真ん中に現れた、場違いなほど優雅なテラス席。
「な、なんなんだこの展開は! アマリリス、貴様は王宮から財宝を盗んで逃げた大罪人だろうが!」
王子が必死に叫ぶが、私は首を傾げた。
「財宝、ですの? もしかして、私の馬車に積んであった『フローライト家秘伝の茶器セット』のことかしら? あれは私物ですわよ」
「違う! 私が預けていた『建国の宝玉』が消えているのだ! お前が盗んだに決まっている!」
「まあ。宝玉なら、王子の寝室のクローゼットの、三番目の引き出しの奥にあるはずですわよ? お掃除が行き届いていないから、埃に紛れていたのではありませんこと?」
「な……!? な、なぜそれを……!」
王子の顔が、一瞬にして土色に変わった。
実は、馬車ジャックに遭う数日前、王子のあまりに汚い部屋を見かねて、こっそり整理整頓のアドバイスを書き置きした時に見かけていたのだ。
「……ウィルフレッド王子。今の言葉、聞き捨てなりませんな」
お父様が、冷徹な声で王子を睨みつけた。
「娘が盗んだと言い張り、国を挙げて討伐軍を出させたその根拠が、貴殿の『失くしもの』だったというのか?」
「い、いや、これは……! 陛下、騙されてはいけません! 彼女は隣国と共謀して侵略を――」
「侵略なら、もう終わっていますわよ。王子の胃袋の。……ほら、ゼクスさん」
ゼクスさんが、銀のトレイに乗った「特製・超大盛りベーコンエッグサンド」を王子の鼻先に突きつけた。
「……っ。なんだ、この……抗いがたい香りは……!」
「召し上がれ。嘘をつくには、相当なエネルギーが必要ですもの。お腹が空いていると、すぐにボロが出てしまいますわよ?」
「ぐ、ぬぬぬ……。……あむっ」
王子は、誘惑に負けてサンドイッチにかじりついた。
そして、あまりの美味しさに白目を剥いて、その場に膝をついた。
「……う、美味すぎる。……。……申し訳ありませんでした! 全部、私の嘘です! アマリリスがいなくなって清々したから、適当に悪評を流して婚約破棄を正当化しようとしましたぁ!」
王子の絶叫が、静かな本陣に響き渡った。
お父様は深い溜息をつき、頭を抱えた。
「……情けない。我が国を代表する王子が、食欲に負けて真実を吐くとは」
「よろしいではありませんか。これで、私が『魔王』ではないと証明されましたわね」
私は優雅に一礼し、お父様に微笑みかけた。
「さて、お父様。誤解も解けましたし、私はこのまま『野良犬騎士団』の皆様と一緒に、隣国の砦へ帰りますわ。あちらの方が、お掃除のしがいがありますもの」
「帰るだと? アマリリス、お前は公爵令嬢なのだぞ!」
「いいえ、私は『婚約破棄された元・悪役令嬢』ですわ。自由の身を、存分に楽しませていただきます」
私はゼクスさんの腕を取り、驚くお父様たちを残して、颯爽とパレードへと戻っていった。
バラの花びらが舞い散る中、私は黄金に磨き上げられた馬車(ゼクスさんたちが徹夜で磨いてくれましたわ)から、ゆっくりと降り立った。
目の前には、軍装に身を固めたお父様と、腰を抜かして震えているウィルフレッド王子。
そして、槍を構えながらも、私の後ろに続く「バラの香りの二日酔い軍勢」を見て困惑している近衛兵たち。
「あ、あ、アマリリス……! 貴様、どの面下げて戻ってきた! その背中の不気味な羽は何だ! やはり魔王の眷属になったのか!」
王子が震える指で私を指差す。カラスの羽、そんなに怖いですのね。
「あら、これは最新の『おもてなしスタイル』ですわ。それより王子、そんなに大声を出すと喉を痛めますわよ? ほら、こちらの特製ハーブティーをお飲みになって」
「飲むか! 毒だろう! 陛下、ご覧ください! 彼女はバルカス将軍の軍を術で操り、本陣を壊滅させに来たのです!」
お父様は、鋭い目で私とバルカス将軍を交互に見た。
「……バルカス。説明せよ。貴殿の部下たちは、なぜ武器も持たずに鼻歌を歌いながら行進しているのだ?」
「陛下。……正直に申し上げます。我々は、アマリリス様の『厚すぎるおもてなし』に完敗いたしました。昨夜の肉の味を思い出すだけで、もう剣を握る気になれません」
将軍が清々しい顔で敬礼すると、お父様は絶句した。
「……肉の味だと?」
「左様ですわ、お父様。さあ、皆様も朝食にいたしましょう。丁度、カリカリに焼いたベーコンと、エッグベネディクトをご用意させましたの」
私はパチンと指を鳴らした。
すると、ゼクスさんやギデオン様たちが、白いクロスをかけたテーブルを手際よく広げ始めた。
戦場のど真ん中に現れた、場違いなほど優雅なテラス席。
「な、なんなんだこの展開は! アマリリス、貴様は王宮から財宝を盗んで逃げた大罪人だろうが!」
王子が必死に叫ぶが、私は首を傾げた。
「財宝、ですの? もしかして、私の馬車に積んであった『フローライト家秘伝の茶器セット』のことかしら? あれは私物ですわよ」
「違う! 私が預けていた『建国の宝玉』が消えているのだ! お前が盗んだに決まっている!」
「まあ。宝玉なら、王子の寝室のクローゼットの、三番目の引き出しの奥にあるはずですわよ? お掃除が行き届いていないから、埃に紛れていたのではありませんこと?」
「な……!? な、なぜそれを……!」
王子の顔が、一瞬にして土色に変わった。
実は、馬車ジャックに遭う数日前、王子のあまりに汚い部屋を見かねて、こっそり整理整頓のアドバイスを書き置きした時に見かけていたのだ。
「……ウィルフレッド王子。今の言葉、聞き捨てなりませんな」
お父様が、冷徹な声で王子を睨みつけた。
「娘が盗んだと言い張り、国を挙げて討伐軍を出させたその根拠が、貴殿の『失くしもの』だったというのか?」
「い、いや、これは……! 陛下、騙されてはいけません! 彼女は隣国と共謀して侵略を――」
「侵略なら、もう終わっていますわよ。王子の胃袋の。……ほら、ゼクスさん」
ゼクスさんが、銀のトレイに乗った「特製・超大盛りベーコンエッグサンド」を王子の鼻先に突きつけた。
「……っ。なんだ、この……抗いがたい香りは……!」
「召し上がれ。嘘をつくには、相当なエネルギーが必要ですもの。お腹が空いていると、すぐにボロが出てしまいますわよ?」
「ぐ、ぬぬぬ……。……あむっ」
王子は、誘惑に負けてサンドイッチにかじりついた。
そして、あまりの美味しさに白目を剥いて、その場に膝をついた。
「……う、美味すぎる。……。……申し訳ありませんでした! 全部、私の嘘です! アマリリスがいなくなって清々したから、適当に悪評を流して婚約破棄を正当化しようとしましたぁ!」
王子の絶叫が、静かな本陣に響き渡った。
お父様は深い溜息をつき、頭を抱えた。
「……情けない。我が国を代表する王子が、食欲に負けて真実を吐くとは」
「よろしいではありませんか。これで、私が『魔王』ではないと証明されましたわね」
私は優雅に一礼し、お父様に微笑みかけた。
「さて、お父様。誤解も解けましたし、私はこのまま『野良犬騎士団』の皆様と一緒に、隣国の砦へ帰りますわ。あちらの方が、お掃除のしがいがありますもの」
「帰るだと? アマリリス、お前は公爵令嬢なのだぞ!」
「いいえ、私は『婚約破棄された元・悪役令嬢』ですわ。自由の身を、存分に楽しませていただきます」
私はゼクスさんの腕を取り、驚くお父様たちを残して、颯爽とパレードへと戻っていった。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。