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「……皆様、本日はようこそ我が砦へ。本日の首脳会談の議題は『特区産・完熟桃のタルトをいかに公平に切り分けるか』ですわ!」
私は、砦の最上階にある展望サロンに集まった最高権力者たちへ、にっこりと微笑みかけた。
右側には、母国フローライト王国の国王陛下――私のお父様。左側には、隣国のエメリン女王陛下。
かつては国境を挟んで睨み合っていた二人が、今は同じテーブルを囲み、真剣な表情でフォークを握っている。
「アマリリスよ。このタルト、切り分け方は私が考案しよう。国家の予算配分より、よっぽど慎重な計算が必要な案件だからな」
お父様が、眼鏡をかけ直してタルトを凝視する。
「お黙りなさい、公爵。この桃の産地は我が国の南側でしょう? 優先権は我が方にありますわ。……ああ、でもこのサクサクの生地は、貴国の小麦の力ね。認めざるを得ないわ」
エメリン陛下が、うっとりとタルトの香りを吸い込んだ。
平和ですわ。世界は、たった一皿のデザートでこれほどまでに丸く収まるのですもの。
「……おい、アマリリス。お前、さっきから『議題』だの何だの言ってるけど、これただのホームパーティーだろ?」
私の後ろで控えていたゼクスさんが、小声でツッコミを入れてきた。
「あら、いいではありませんか。お掃除が終わった後の世界には、こういう『ゆとり』が必要ですのよ」
私はゼクスさんにウインクをした。
彼もまた、以前のボロボロな騎士服ではなく、今や特区の守護者として、銀の刺繍が施された立派な礼服に身を包んでいる。
その立ち姿は、どこの国の王族よりも凛々しく、私の自慢のパートナー……いえ、従業員ですわ。
「ところでアマリリス様。あのウィルフレッド王子は、今どうなっていますの?」
エメリン陛下が、紅茶を楽しみながら尋ねてきた。
「王子でしたら、我が校の『お掃除特別更生プログラム』の真っ最中ですわ。……先日の報告では、ついに素手でトイレを磨くことに喜びを見出し始めたとか」
「……。あのプライドの塊だった男が、そこまで」
お父様が遠い目をして呟いた。
「ええ。ポエムを書く暇があるなら、タイルの隙間のカビを落としなさい、と指導しましたの。今では『白さが私の正義だ!』と叫びながら、夜通しブラシを振るっているそうですわよ」
「……。お前、本当に恐ろしい教育者になったな」
ゼクスさんが呆れたように頭を振った。
宴が一段落し、お父様とエメリン陛下が「特区の税制(という名の新作スイーツの提供数)」について密談を始めた頃。
ゼクスさんが、私の袖をそっと引いた。
「……アマリリス。ちょっといいか。バルコニーへ来てくれ」
「あら、どうなさいましたの? まだお腹が空いていますの?」
「違う! ……いいから、来い」
ゼクスさんの顔が、夕焼けの空よりも赤くなっている。
私は不思議に思いながらも、彼に連れられてバルコニーへ出た。
夜風が心地よく、砦の下に広がる特区の灯りが、まるで宝石箱をひっくり返したように輝いている。
「……アマリリス。俺は、お前がこの砦に迷い込んできたあの日から、ずっと考えてたんだ」
ゼクスさんは、私の目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、かつての誘拐犯としての迷いはなく、一人の男としての強い決意が宿っていた。
「俺は、お前の作るメシに救われた。お前が磨き上げたこの場所に、俺の居場所を見つけた。……でも、もう『従業員』や『騎士団長』っていう肩書きじゃ、満足できなくなったんだ」
「……ゼクスさん?」
「俺は……。俺は、お前の隣にいたい。……お前の料理を一番に食べる特権を、一生、俺だけに独占させてくれないか」
ゼクスさんは、私の手を取り、その甲にそっと唇を寄せた。
「アマリリス・フローライト。……俺の、妻になってくれ。……いや、俺をお前の『一生の専属騎士』にしてくれ!」
静かな夜の空気に、彼の告白が溶けていく。
私は、驚きのあまり扇子を落としてしまった。
「……。……。……。……あら」
私は、熱くなる頬を押さえながら、ふふ、と喉を鳴らした。
「専属騎士、ですのね? ……それなら、まずはお掃除の合格点を取っていただかなければなりませんわ」
「……。はぁ!? 今、このタイミングで掃除の話かよ!」
「当然ですわ。私の夫となる方が、埃一つ見逃すようでは困りますもの。……でも」
私は、彼の手をギュッと握り返した。
「……合格点は、もうとっくに出ていますわよ。……ゼクスさん。貴方になら、私のキッチンの鍵を預けてもよろしくてよ?」
「……! アマリリス……!」
ゼクスさんが私を強く抱きしめた。
その瞬間、展望サロンのカーテンがバッと開いた。
「おめでとう、アマリリス! これでフローライト公爵家と、この特区の絆は安泰だな!」
「あら、ゼクス。私の元騎士が、ついに魔女を仕留めたわね。お祝いのワイン、一番いいのを開けましょう!」
……お父様と陛下、覗き見していましたわね?
「……。ったく、台無しだよ」
ゼクスさんが照れくさそうに笑い、私の額に優しくキスをした。
こうして、悪役令嬢として追放された私の物語は、最高に甘くて清潔な「婚約」へと辿り着いたのである。
私は、砦の最上階にある展望サロンに集まった最高権力者たちへ、にっこりと微笑みかけた。
右側には、母国フローライト王国の国王陛下――私のお父様。左側には、隣国のエメリン女王陛下。
かつては国境を挟んで睨み合っていた二人が、今は同じテーブルを囲み、真剣な表情でフォークを握っている。
「アマリリスよ。このタルト、切り分け方は私が考案しよう。国家の予算配分より、よっぽど慎重な計算が必要な案件だからな」
お父様が、眼鏡をかけ直してタルトを凝視する。
「お黙りなさい、公爵。この桃の産地は我が国の南側でしょう? 優先権は我が方にありますわ。……ああ、でもこのサクサクの生地は、貴国の小麦の力ね。認めざるを得ないわ」
エメリン陛下が、うっとりとタルトの香りを吸い込んだ。
平和ですわ。世界は、たった一皿のデザートでこれほどまでに丸く収まるのですもの。
「……おい、アマリリス。お前、さっきから『議題』だの何だの言ってるけど、これただのホームパーティーだろ?」
私の後ろで控えていたゼクスさんが、小声でツッコミを入れてきた。
「あら、いいではありませんか。お掃除が終わった後の世界には、こういう『ゆとり』が必要ですのよ」
私はゼクスさんにウインクをした。
彼もまた、以前のボロボロな騎士服ではなく、今や特区の守護者として、銀の刺繍が施された立派な礼服に身を包んでいる。
その立ち姿は、どこの国の王族よりも凛々しく、私の自慢のパートナー……いえ、従業員ですわ。
「ところでアマリリス様。あのウィルフレッド王子は、今どうなっていますの?」
エメリン陛下が、紅茶を楽しみながら尋ねてきた。
「王子でしたら、我が校の『お掃除特別更生プログラム』の真っ最中ですわ。……先日の報告では、ついに素手でトイレを磨くことに喜びを見出し始めたとか」
「……。あのプライドの塊だった男が、そこまで」
お父様が遠い目をして呟いた。
「ええ。ポエムを書く暇があるなら、タイルの隙間のカビを落としなさい、と指導しましたの。今では『白さが私の正義だ!』と叫びながら、夜通しブラシを振るっているそうですわよ」
「……。お前、本当に恐ろしい教育者になったな」
ゼクスさんが呆れたように頭を振った。
宴が一段落し、お父様とエメリン陛下が「特区の税制(という名の新作スイーツの提供数)」について密談を始めた頃。
ゼクスさんが、私の袖をそっと引いた。
「……アマリリス。ちょっといいか。バルコニーへ来てくれ」
「あら、どうなさいましたの? まだお腹が空いていますの?」
「違う! ……いいから、来い」
ゼクスさんの顔が、夕焼けの空よりも赤くなっている。
私は不思議に思いながらも、彼に連れられてバルコニーへ出た。
夜風が心地よく、砦の下に広がる特区の灯りが、まるで宝石箱をひっくり返したように輝いている。
「……アマリリス。俺は、お前がこの砦に迷い込んできたあの日から、ずっと考えてたんだ」
ゼクスさんは、私の目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、かつての誘拐犯としての迷いはなく、一人の男としての強い決意が宿っていた。
「俺は、お前の作るメシに救われた。お前が磨き上げたこの場所に、俺の居場所を見つけた。……でも、もう『従業員』や『騎士団長』っていう肩書きじゃ、満足できなくなったんだ」
「……ゼクスさん?」
「俺は……。俺は、お前の隣にいたい。……お前の料理を一番に食べる特権を、一生、俺だけに独占させてくれないか」
ゼクスさんは、私の手を取り、その甲にそっと唇を寄せた。
「アマリリス・フローライト。……俺の、妻になってくれ。……いや、俺をお前の『一生の専属騎士』にしてくれ!」
静かな夜の空気に、彼の告白が溶けていく。
私は、驚きのあまり扇子を落としてしまった。
「……。……。……。……あら」
私は、熱くなる頬を押さえながら、ふふ、と喉を鳴らした。
「専属騎士、ですのね? ……それなら、まずはお掃除の合格点を取っていただかなければなりませんわ」
「……。はぁ!? 今、このタイミングで掃除の話かよ!」
「当然ですわ。私の夫となる方が、埃一つ見逃すようでは困りますもの。……でも」
私は、彼の手をギュッと握り返した。
「……合格点は、もうとっくに出ていますわよ。……ゼクスさん。貴方になら、私のキッチンの鍵を預けてもよろしくてよ?」
「……! アマリリス……!」
ゼクスさんが私を強く抱きしめた。
その瞬間、展望サロンのカーテンがバッと開いた。
「おめでとう、アマリリス! これでフローライト公爵家と、この特区の絆は安泰だな!」
「あら、ゼクス。私の元騎士が、ついに魔女を仕留めたわね。お祝いのワイン、一番いいのを開けましょう!」
……お父様と陛下、覗き見していましたわね?
「……。ったく、台無しだよ」
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