お前の顔など見たくもない!と言われたので、仮面を被ったらヒロインに求婚される

恋の箱庭

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「……さ、寒い。なんだ、この異常な冷気は……」


シリウスは、ガチガチと歯を鳴らしながら、自分の肩を抱いた。


つい数分前まで、中庭はうららかな陽気に包まれていたはずだ。

しかし、ミニスカート姿のシャリーが絶望に打ちひしがれた瞬間、周囲の空気は一変した。


彼女の足元から、白い霧のような冷気が這い出し、芝生をまたたく間に白く凍らせていく。


(……恥ずかしい。……消えてしまいたい。……こんな格好をシリウス様に見せて、しかも『格闘家』だなんて思われるなんて……!)


シャリーの心は、北極の氷山よりも深く、冷たく沈んでいた。


彼女の魔力は、感情の暴走に呼応して物理現象を引き起こす。

不器用すぎる彼女が「心を閉ざしたい」と願えば願うほど、周囲の温度は急降下していくのだ。


「フォ、フォンス令嬢……! やめてくれ、凍死する! 僕を冷凍保存して、一生飾っておくつもりか!?」


「……しりうす、さま……。……ちがい、ます……」


シャリーが顔を上げると、その瞳からは氷の粒のような涙がこぼれ落ちた。


しかし、露出度の高い服装で、周囲に吹雪を撒き散らしながら迫る彼女の姿は、もはや「雪女」か「氷の魔王」の降臨にしか見えない。


「ひいいいっ! 近づくな! その脚、その脚から冷気が出ているぞ! 絶対零度のキックを繰り出す準備だろう!?」


「……あし……? ……ああっ!」


シャリーは、自分がまだミニスカートであることを思い出し、慌てて手で脚を隠そうとした。


だが、焦れば焦るほど魔力は暴走する。


「……パキパキパキッ!」


シャリーが触れた地面から、巨大な氷の柱が突き立ち、シリウスを囲い込むようにそり立つ壁となった。


「閉じ込められたーーー! 氷の檻だ! 僕はここで、氷像にされるんだ!」


「シャリー様! 素晴らしいです! その露出度と氷のコンボ! まさに『クール&セクシー』の極みですよ!」


ララが、どこから持ってきたのか防寒用の厚手のコートを羽織りながら、親指を立てた。


「……ら、らら様……。……そんなこと言っている、場合じゃ……。……シリウス様が、凍えて……」


「大丈夫です! これはシャリー様の『愛のクーラー』です! 王子の情熱がヒートアップしすぎないように、あなたが優しく冷やしてあげている……そうですよね!?」


(……違うわよ! ただのパニックよ!)


シャリーは、氷の壁を溶かそうとして、壁に手を触れた。


「……とけて。……おねがい……」


情熱を込めれば溶けるはず――そう信じて、彼女は壁に熱視線を送った。


だが、彼女の「熱視線」は、周囲には「……逃がさない。芯まで凍らせてあげる」という、獲物を凍結処分する際の冷酷な眼光にしか見えなかった。


「……っ! 壁が……さらに厚くなっている気がする……!」


シリウスは氷の壁の中で、震えながら丸まった。


シャリーの純粋な願いは、強すぎる魔力のフィルターを通ることで、全てが「強化魔法」へと変換されてしまう。


「……シリウス、さま。……いま、だします……から……」


シャリーは、拳を握りしめた。


(こうなったら、物理的に壊すしかないわ!)


「……はぁぁぁっ!」


シャリーの拳が、氷の壁を直撃した。


「ドゴォォォォン!!」


凄まじい衝撃音と共に、巨大な氷の壁が粉々に砕け散った。

砕けた氷の破片が、ダイヤモンドダストのようにキラキラと宙に舞う。


その中心で、短いスカートをなびかせ、拳を突き出したままのシャリー。


それは、震えるほどに美しく、そして、震えるほどに恐ろしい光景だった。


「……た、助かった……? いや、今、壁ごと僕を粉砕しようとしたよね!?」


シリウスは、氷の破片を浴びながら、這いつくばって逃げ出した。


「……まって……! ……シリウス、さま! ……お風邪を、引いて……しまいます……!」


シャリーが追いかけようと一歩踏み出すたびに、廊下はスケートリンクのように凍りつき、追跡を阻む。


「くるなぁぁぁ! 氷の女王様ぁぁぁーーー!」


シリウスの悲鳴が、凍てついた学園に響き渡った。


「……ああ。……また、やってしまったわ……」


シャリーは、氷の上にペタンと座り込んだ。


(ミニスカートで誘惑するはずが、学園を氷河期にしてしまうなんて。……私、もう、お嫁に行けないかもしれない……)


「シャリー様、元気を出してください! 見てください、あの王子の滑走! あんなに速く走れるなんて、あなたの冷気が彼の身体能力を引き出したんですよ!」


ララが氷の上を器用に滑りながら、シャリーの肩を叩いた。


「……でも。……シリウス様、くしゅん、って……言っていたわ……」


「おや、それはチャンスです! 次は『看病』という名の、至近距離アタックの出番ですね!」


不器用すぎる氷の令嬢の、冷たくて熱い恋の暴走。

その影響で、翌日、シリウス王子が学園を欠席することになろうとは、まだ誰も予想していなかった。
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