お前の顔など見たくもない!と言われたので、仮面を被ったらヒロインに求婚される

恋の箱庭

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ダンスパーティーの中盤。

華やかな旋律がホールに流れる中、会場の端では一触即発(と周囲は思っている)の空気が漂っていた。


「……ララ様。……もう、……帰りましょう。……私は、……ここにいないほうがいいわ」


シャリー・フォンスは、壁の花……どころか、その威圧感で「壁の守護神」と化していた。

彼女の周囲三メートルには誰も近づかず、まるで結界が張られているかのようだ。


「シャリー様、諦めるのが早すぎます! まだクライマックスの『吊り橋効果』が残っていますよ!」


巨大な装飾用花瓶の陰から、不敵な笑みを浮かべたララ・メルが這い出してきた。


「……つりばし? ……学園に、……そんな危険な場所、……あったかしら」


「物理的な吊り橋ではありません! 恐怖を愛のときめきと勘違いさせる、禁断の心理テクニックです!」


ララはカバンから、怪しげな歯車と魔力結晶が組み合わさったリモコンを取り出した。


「……ララ様。……それ、……何に使うの?」


「これですか? これは、ホールの天井に輝くあの大シャンデリアの『点検用落下スイッチ』をハッキングした特製デバイスです!」


(……ハッキング? ……点検用? ……ララ様、やっぱりこの学園の警備体制を掌握しているわ……)


「いいですか、シャリー様。今からあの大シャンデリアを、絶妙なタイミングで『寸止め』落下させます! その時、混乱の中で王子があなたを庇えば、愛の炎は一気に大爆発というわけです!」


「……そんな! ……危ないわ! ……シリウス様に、……怪我があったら……!」


シャリーは顔を真っ青にして(威圧的な蒼白)、首を激しく振った。


「大丈夫です、私の魔力計算は完璧です! 床から一メートルのところでピタリと止めますから! さあ、王子の近くへ移動して、最高に『可憐で弱々しい乙女』を演じる準備を!」


「……わ、……わかったわ。……シリウス様が、……私を……助けて……くれる……。……そんなこと、……あるかしら……」


シャリーは淡い期待を抱きながら、重厚な足取りで会場の中央、シリウスがいるエリアへと進んだ。


一方その頃、シリウスは近衛騎士たちに「退路の確保」を命じていた。


「……いいか、フォンス令嬢の視線がこちらを向いた瞬間に、この閃光弾を投下しろ。僕はその隙に、あそこのタペストリーの裏にある秘密通路から逃げる」


「王子、秘密通路なんてあったのですか!?」


「昨日、自分で掘ったんだよ! 命がかかっているんだぞ!」


シリウスが必死の形相で部下に指示を出していると、背後に「氷壁の魔王」のごときプレッシャーを感じた。


「……シリウス……さま」


シャリーが立っていた。

ララの教え通り、彼女は「今にも倒れそうな、儚い乙女」を演じようと、体を微かに震わせている。


だが、シャリーの震えは、周囲の空気を共振させ、床のシャンパングラスを「キチキチ」と鳴らした。


「ひっ……! 震えてる! 怒りで大気が振動しているぞ! ついにやる気か、この会場ごと僕を埋める気か!」


「……ちがい……ます。……わたし、……すこし……めまいが……。……きゃ……っ」


(……ここで、フラリと王子の腕の中に……!)


シャリーは、綿密に計算された「乙女のよろめき」を実行した。


しかし、彼女が踏み出した一歩は、あまりにも力が入りすぎていた。

「ドォォォォン!!」と、大理石の床を踏み抜かんばかりの重低音が会場に響き渡る。


「ひいぃぃっ! 地震だ! いや、あいつの足踏みだ! 地割れが起きるぞ!」


シリウスが叫んだ、その瞬間だった。


「……今です! 愛の衝撃、カモン!!」


会場の隅で、ララがスイッチを押し込んだ。


「ギギギギギ……パキィィィィィィン!!」


天井で悲鳴のような金属音が響き、数千のクリスタルを纏った巨大なシャンデリアが、支えを失って直下に自由落下を始めた。


「……っ!? 落ちてくる!? シャンデリアが!」


「逃げろ! 下敷きになるぞ!」


会場は一瞬でパニックに包まれた。

シリウスは、頭上から迫る巨大な「死」の塊を見上げ、腰が抜けて動けなくなった。


(……あ、……あかん。……死ぬ。……僕はここで、豪華なクリスタルの餌食になるんだ……)


「……っ! シリウス、さま!」


シャリーは見た。

恐怖で固まる、愛しい人の姿を。


ララの作戦では、ここで王子がシャリーを庇うはずだった。

しかし、現実は非情である。

王子はただの人間であり、目の前の令嬢は「素手で石壁を砕く」規格外の怪物だった。


(……守らなきゃ。……私が、……この命に代えても……!)


「……どいて……。……そこを、……どきなさぁぁぁぁぁい!!」


シャリーの叫びが、ホールのガラスを全て粉砕せんばかりの勢いで響き渡った。


落下するシャンデリア。

震える王子。

そして、ドレスの裾を翻し、弾丸のような速さで跳躍する「暗殺者(恋する乙女)」。


史上空前の「吊り橋効果」が、今、誰も予想しなかった方向へと爆発しようとしていた。
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