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「……決めたわ。ここを買い取るわよ」
王都の一等地、目抜き通りに面した三階建ての瀟洒な石造りの建物。
私は扇でその建物を指し示し、事も無げに言い放った。
「お、お姉様……。ここ、王都で一番地価が高い場所ですよ!? お城の塔が買えるくらいの値段だって聞きました!」
クララが目を丸くして、建物の壁を恐る恐る指でつついている。
「あら、お城の塔なんて狭くて湿っぽくて嫌だわ。それよりも、ここよ。一階は最高級のスイーツを楽しめるティーサロン。二階は、私がプロデュースする最新の美容サロン。そして三階は……愚痴聞き部屋よ」
「ぐ、愚痴聞き部屋……?」
「そうよ。この国の貴婦人たちはストレスが溜まっているの。誰にも言えない旦那様の不満や、姑の嫌がらせを、美味しいお菓子を食べながら吐き出す場所が必要だわ。名付けて『サロン・ド・ミルフィーユ』。重なる層のように、美しさと毒を蓄える場所よ」
私は不敵に微笑んだ。
悪役令嬢として培った「他人の欠点を見抜く目」と、王妃教育で叩き込まれた「経済学」。
そして、有り余る慰謝料。
商売を始めるためのピースは、最初から全て揃っていた。
「お嬢様、既に内装業者と専属パティシエの手配は済ませてあります。パティシエは『あまりに妥協を許さないレシピに、三人が胃潰瘍になった』という伝説の持ち主です」
エクレアが、相変わらず物騒な報告を上げてくる。
「いいわ、そのくらいこだわりが強くないと。……さて、クララ。貴女の出番よ」
「は、はい! 私、何をすればいいですか! ビラ配りですか? それとも呼び込みのダンスですか?」
「ダンスなんてしなくていいわ。貴女はただ、毎日ここで私と一緒に、最高に楽しそうにお菓子を食べていなさい。そして、私が選んだ服を着て、私が選んだ化粧をすること。……貴女が幸せそうであればあるほど、客は『自分もああなりたい』と思うものよ」
「……それだけでいいんですか? 食べるだけでお給料がもらえるなんて、天国を超えて宇宙です!」
「その代わり、食べ方はミリ単位で指導するから覚悟なさい。口角の上げ方一つで、売り上げが変わるのよ」
そして一ヶ月後。
『サロン・ド・ミルフィーユ』のオープン当日。
店の前には、開店前から王都中の貴婦人たちが長蛇の列を作っていた。
「あの悪役令嬢が店を開いた」「どんな恐ろしい毒が出るのか」という好奇心と、窓から見える「キラキラと輝くクララ」の姿に引き寄せられたのだ。
「お姉様! もうケーキが完売しそうです! 二階の美容パックも三ヶ月先まで予約が埋まったってエクレアさんが!」
クララが頬を紅潮させて、レジ裏へ飛び込んできた。
「落ち着きなさい、クララ。……ふん、当然の結果だわ。私が良いと言ったものが、流行らないはずがないでしょう?」
私は優雅に椅子に腰掛け、本日の売り上げ報告書に目を通した。
……数字が、笑いが止まらないほど積み上がっている。
「お嬢様。これだけの利益があれば、近いうちに王家の負債をまるごと買い取って、あのカボチャ殿下を小作人として雇うことも可能かと思われます」
「……エクレア、貴女、時々私より過激なことを言うわね。まあ、それも面白そうだけど」
私は窓の外、行列の最後尾を眺めた。
そこには、明らかに不審な動きをしている「変装した男」の姿があった。
(……あら。あの金ピカなオーラ、隠しきれていないわよ?)
「クララ。あそこにいる、変なヒゲをつけた大きな男。あれに『本日は満席ですので、お帰りはあちらのドブ川沿いからどうぞ』と伝えてきてちょうだい」
「えっ? ヒゲの男……。あ! なんだか見覚えのある、カボチャっぽいシルエット……!」
私の商売は、順調すぎる滑り出しを見せていた。
そして同時に、過去からの「遺物」が、また不穏な影を落とし始めていた。
王都の一等地、目抜き通りに面した三階建ての瀟洒な石造りの建物。
私は扇でその建物を指し示し、事も無げに言い放った。
「お、お姉様……。ここ、王都で一番地価が高い場所ですよ!? お城の塔が買えるくらいの値段だって聞きました!」
クララが目を丸くして、建物の壁を恐る恐る指でつついている。
「あら、お城の塔なんて狭くて湿っぽくて嫌だわ。それよりも、ここよ。一階は最高級のスイーツを楽しめるティーサロン。二階は、私がプロデュースする最新の美容サロン。そして三階は……愚痴聞き部屋よ」
「ぐ、愚痴聞き部屋……?」
「そうよ。この国の貴婦人たちはストレスが溜まっているの。誰にも言えない旦那様の不満や、姑の嫌がらせを、美味しいお菓子を食べながら吐き出す場所が必要だわ。名付けて『サロン・ド・ミルフィーユ』。重なる層のように、美しさと毒を蓄える場所よ」
私は不敵に微笑んだ。
悪役令嬢として培った「他人の欠点を見抜く目」と、王妃教育で叩き込まれた「経済学」。
そして、有り余る慰謝料。
商売を始めるためのピースは、最初から全て揃っていた。
「お嬢様、既に内装業者と専属パティシエの手配は済ませてあります。パティシエは『あまりに妥協を許さないレシピに、三人が胃潰瘍になった』という伝説の持ち主です」
エクレアが、相変わらず物騒な報告を上げてくる。
「いいわ、そのくらいこだわりが強くないと。……さて、クララ。貴女の出番よ」
「は、はい! 私、何をすればいいですか! ビラ配りですか? それとも呼び込みのダンスですか?」
「ダンスなんてしなくていいわ。貴女はただ、毎日ここで私と一緒に、最高に楽しそうにお菓子を食べていなさい。そして、私が選んだ服を着て、私が選んだ化粧をすること。……貴女が幸せそうであればあるほど、客は『自分もああなりたい』と思うものよ」
「……それだけでいいんですか? 食べるだけでお給料がもらえるなんて、天国を超えて宇宙です!」
「その代わり、食べ方はミリ単位で指導するから覚悟なさい。口角の上げ方一つで、売り上げが変わるのよ」
そして一ヶ月後。
『サロン・ド・ミルフィーユ』のオープン当日。
店の前には、開店前から王都中の貴婦人たちが長蛇の列を作っていた。
「あの悪役令嬢が店を開いた」「どんな恐ろしい毒が出るのか」という好奇心と、窓から見える「キラキラと輝くクララ」の姿に引き寄せられたのだ。
「お姉様! もうケーキが完売しそうです! 二階の美容パックも三ヶ月先まで予約が埋まったってエクレアさんが!」
クララが頬を紅潮させて、レジ裏へ飛び込んできた。
「落ち着きなさい、クララ。……ふん、当然の結果だわ。私が良いと言ったものが、流行らないはずがないでしょう?」
私は優雅に椅子に腰掛け、本日の売り上げ報告書に目を通した。
……数字が、笑いが止まらないほど積み上がっている。
「お嬢様。これだけの利益があれば、近いうちに王家の負債をまるごと買い取って、あのカボチャ殿下を小作人として雇うことも可能かと思われます」
「……エクレア、貴女、時々私より過激なことを言うわね。まあ、それも面白そうだけど」
私は窓の外、行列の最後尾を眺めた。
そこには、明らかに不審な動きをしている「変装した男」の姿があった。
(……あら。あの金ピカなオーラ、隠しきれていないわよ?)
「クララ。あそこにいる、変なヒゲをつけた大きな男。あれに『本日は満席ですので、お帰りはあちらのドブ川沿いからどうぞ』と伝えてきてちょうだい」
「えっ? ヒゲの男……。あ! なんだか見覚えのある、カボチャっぽいシルエット……!」
私の商売は、順調すぎる滑り出しを見せていた。
そして同時に、過去からの「遺物」が、また不穏な影を落とし始めていた。
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