28 / 28
28
しおりを挟む
「ララ・フォン・アークライト! 貴様のような冷酷な女との婚約は、今ここで破棄する!」
デジャヴだろうか。
数十年ぶりの王城の大広間。
かつて私が立っていた場所に、今は成長した娘のララが立っている。
そして、その目の前には、どこかの国のバカ王子(名前は忘れた)が、顔を真っ赤にして叫んでいた。
「聞こえているのか! 貴様はいつも金の話ばかり! 少しは可愛げのある態度をとったらどうだ!」
歴史は繰り返す、とはよく言ったものだ。
私はバルコニー席から、その光景をワイン片手に見下ろしていた。
「……あなた。あの王子、誰でしたっけ?」
「隣国の第四王子だな。資源目当てでララに近づいてきたが、ララに完全に手玉に取られてプライドが傷ついたのだろう」
隣で同じくワインを揺らす夫――アレクセイが、呆れたように答える。
彼の髪には少し白いものが混じったが、その美貌と威圧感は衰えるどころか、渋みを増して「国宝級」になっている。
「しかし、ララのやつ、詰めが甘いな」
反対側に座っていた息子のアルヴィンが、眼鏡をクイッと押し上げた。
彼は現在、最年少で財務大臣の座に就いている。
「あの王子、先週の先物取引で失敗して資産が目減りしている。今、慰謝料を請求しても回収率が悪いよ」
「あら、そう? でもララのことだから、そこも計算済みでしょう」
私が言うと、眼下のララが動いた。
彼女は扇をパチリと閉じ、懐から愛用の「魔導電卓(最新モデル)」を取り出した。
「……殿下。今、なんと仰いましたか?」
「だ、だから婚約破棄だ!」
「承りました。では、こちらの請求書にサインをお願いします」
ララは虚空から書類を取り出した。
「婚約期間中に私がコンサルティングした貴国の財政再建プランの報酬、および今回の手切れ金。締めて金貨二十億枚になります」
「に、二十億!? ふざけるな!」
「払えないのであれば、貴国の北にある鉱山開発権を譲渡していただきます。契約書の準備はできておりますので」
「き、貴様ぁ……! 初めからそれが狙いか!」
「人聞きの悪い。私はただ、無駄な投資(あなたとの婚約)を損切りして、優良資産(鉱山)に切り替えただけです」
ララはニッコリと微笑んだ。
その笑顔は、かつての私にそっくりだ(と、よく言われる)。
「くっ、くそぉぉぉ! 覚えてろよアークライト家ぇぇぇ!」
王子は捨て台詞を吐いて逃げ出した。
会場から割れんばかりの拍手が起こる。
「さすがララ様!」
「宰相閣下の娘さんだ、格が違う!」
「あの王子、カモにされたな……」
ララは優雅にカーテシーをして、私たちの方へ手を振った。
「……見事な手腕だ」
アレクセイが満足げに頷く。
「誰に似たのやら」
「君だろう」
「あなたですよ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
***
その夜。宰相公邸のテラスにて。
騒がしい子供たち(ララ、アルヴィン、そして末っ子の少年)は部屋に戻り、私とアレクセイは二人きりで夜風に当たっていた。
「……終わったな」
アレクセイがぽつりと呟く。
「何がですか?」
「私の子育てプロジェクトだ。ララがあれだけ逞しくなれば、もう心配はいらん」
「そうですね。これからは、彼らがこの国を回していくでしょう」
私は手すりにもたれかかり、輝く王都の夜景を見下ろした。
この街の明かり一つ一つが、私たちが積み上げてきた「黒字」の証だ。
「……リーナ」
「はい」
「私の人生最大の投資は、成功だったと思うか?」
彼は改まって尋ねてきた。
投資。
かつて、婚約破棄された私を拾い、五億枚の慰謝料を肩代わりし、全てを与えてくれた彼。
私は電卓を取り出したくなる衝動を抑え、指折り数えてみた。
「そうですね。私が実施した財政改革による経済効果、子供たちの優秀な頭脳による将来利益、そして何より……」
私は彼の方を向き、悪戯っぽく微笑んだ。
「あなたが毎日感じている『幸福度』。これらを総合的に勘案しますと……」
「勘案しますと?」
「投資利益率(ROI)は、測定不能(インフィニティ)。……大成功、と言えるでしょう」
「……ははっ」
アレクセイは声を上げて笑った。
「測定不能か。君の計算機でも弾き出せない数値があるとはな」
「ええ。愛の計算式だけは、まだ解明できていませんので」
「なら、一生かけて解明していこう。……私の隣でな」
彼は私の腰を引き寄せ、優しく口づけを落とした。
数十年前。
絶望の淵にいた悪役令嬢は、一人の「共犯者」の手を取り、運命を覆した。
そして今、ここには「計算外」の幸せが溢れている。
「……ねえ、あなた」
「なんだ」
「明日、老後の世界一周旅行の計画を立てましょうか。予算は青天井で」
「許可する。……君となら、地獄の果てまで黒字にできそうだ」
私たちは寄り添い、月を見上げた。
悪役令嬢リーナの物語。
これにて、一件落着。
そして、私たちの「愛と計算の日々」は、これからも永遠に続いていく。
デジャヴだろうか。
数十年ぶりの王城の大広間。
かつて私が立っていた場所に、今は成長した娘のララが立っている。
そして、その目の前には、どこかの国のバカ王子(名前は忘れた)が、顔を真っ赤にして叫んでいた。
「聞こえているのか! 貴様はいつも金の話ばかり! 少しは可愛げのある態度をとったらどうだ!」
歴史は繰り返す、とはよく言ったものだ。
私はバルコニー席から、その光景をワイン片手に見下ろしていた。
「……あなた。あの王子、誰でしたっけ?」
「隣国の第四王子だな。資源目当てでララに近づいてきたが、ララに完全に手玉に取られてプライドが傷ついたのだろう」
隣で同じくワインを揺らす夫――アレクセイが、呆れたように答える。
彼の髪には少し白いものが混じったが、その美貌と威圧感は衰えるどころか、渋みを増して「国宝級」になっている。
「しかし、ララのやつ、詰めが甘いな」
反対側に座っていた息子のアルヴィンが、眼鏡をクイッと押し上げた。
彼は現在、最年少で財務大臣の座に就いている。
「あの王子、先週の先物取引で失敗して資産が目減りしている。今、慰謝料を請求しても回収率が悪いよ」
「あら、そう? でもララのことだから、そこも計算済みでしょう」
私が言うと、眼下のララが動いた。
彼女は扇をパチリと閉じ、懐から愛用の「魔導電卓(最新モデル)」を取り出した。
「……殿下。今、なんと仰いましたか?」
「だ、だから婚約破棄だ!」
「承りました。では、こちらの請求書にサインをお願いします」
ララは虚空から書類を取り出した。
「婚約期間中に私がコンサルティングした貴国の財政再建プランの報酬、および今回の手切れ金。締めて金貨二十億枚になります」
「に、二十億!? ふざけるな!」
「払えないのであれば、貴国の北にある鉱山開発権を譲渡していただきます。契約書の準備はできておりますので」
「き、貴様ぁ……! 初めからそれが狙いか!」
「人聞きの悪い。私はただ、無駄な投資(あなたとの婚約)を損切りして、優良資産(鉱山)に切り替えただけです」
ララはニッコリと微笑んだ。
その笑顔は、かつての私にそっくりだ(と、よく言われる)。
「くっ、くそぉぉぉ! 覚えてろよアークライト家ぇぇぇ!」
王子は捨て台詞を吐いて逃げ出した。
会場から割れんばかりの拍手が起こる。
「さすがララ様!」
「宰相閣下の娘さんだ、格が違う!」
「あの王子、カモにされたな……」
ララは優雅にカーテシーをして、私たちの方へ手を振った。
「……見事な手腕だ」
アレクセイが満足げに頷く。
「誰に似たのやら」
「君だろう」
「あなたですよ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
***
その夜。宰相公邸のテラスにて。
騒がしい子供たち(ララ、アルヴィン、そして末っ子の少年)は部屋に戻り、私とアレクセイは二人きりで夜風に当たっていた。
「……終わったな」
アレクセイがぽつりと呟く。
「何がですか?」
「私の子育てプロジェクトだ。ララがあれだけ逞しくなれば、もう心配はいらん」
「そうですね。これからは、彼らがこの国を回していくでしょう」
私は手すりにもたれかかり、輝く王都の夜景を見下ろした。
この街の明かり一つ一つが、私たちが積み上げてきた「黒字」の証だ。
「……リーナ」
「はい」
「私の人生最大の投資は、成功だったと思うか?」
彼は改まって尋ねてきた。
投資。
かつて、婚約破棄された私を拾い、五億枚の慰謝料を肩代わりし、全てを与えてくれた彼。
私は電卓を取り出したくなる衝動を抑え、指折り数えてみた。
「そうですね。私が実施した財政改革による経済効果、子供たちの優秀な頭脳による将来利益、そして何より……」
私は彼の方を向き、悪戯っぽく微笑んだ。
「あなたが毎日感じている『幸福度』。これらを総合的に勘案しますと……」
「勘案しますと?」
「投資利益率(ROI)は、測定不能(インフィニティ)。……大成功、と言えるでしょう」
「……ははっ」
アレクセイは声を上げて笑った。
「測定不能か。君の計算機でも弾き出せない数値があるとはな」
「ええ。愛の計算式だけは、まだ解明できていませんので」
「なら、一生かけて解明していこう。……私の隣でな」
彼は私の腰を引き寄せ、優しく口づけを落とした。
数十年前。
絶望の淵にいた悪役令嬢は、一人の「共犯者」の手を取り、運命を覆した。
そして今、ここには「計算外」の幸せが溢れている。
「……ねえ、あなた」
「なんだ」
「明日、老後の世界一周旅行の計画を立てましょうか。予算は青天井で」
「許可する。……君となら、地獄の果てまで黒字にできそうだ」
私たちは寄り添い、月を見上げた。
悪役令嬢リーナの物語。
これにて、一件落着。
そして、私たちの「愛と計算の日々」は、これからも永遠に続いていく。
181
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
婚約破棄ありがとう!と笑ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました
ほーみ
恋愛
「――婚約を破棄する!」
大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。
けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。
王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。
婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。
だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!
パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。
八雲
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。
普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる