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馬車が国境の検問所に到着し、一時停止しました。
窓から差し込む月光が、カイル殿下の彫刻のように整った、しかし暑苦しい顔を照らし出します。
殿下は突然、私の手を取り、その大きな掌で包み込みました。
先ほどまでの快活な笑みは消え、その瞳には真剣な光が宿っています。
「ミクル殿、改めて言わせてほしい。私は君を、我がヴァルハルト王国の王妃として迎えたい。これは単なるスカウトではなく、一人の男としての求婚だ」
(……はえ?)
私はあまりの急展開に、変な声が出てしまいました。
悪役令嬢としての仮面が剥がれそうになるのを必死で抑え、私は扇子で顔を半分隠します。
「で、殿下。冗談が過ぎましてよ? わたくしは先ほど、婚約を破棄されたばかりの『傷物』ですのよ? それに、数々の悪逆非道を働いた(設定の)女ですわ!」
私はわざと目を細め、冷酷な魔女のような微笑みを浮かべてみせました。
さあ、これで「なんて恐ろしい女だ、やはり求婚は撤回する」と言わせるのです。
「その目だ! その、すべてを見透かし、蹂躙しようとする強者の眼差し! 今の君から溢れ出ている凄まじい覇気が、私の魂を震わせるのだ!」
カイル殿下は頬を赤らめ、感動に打ち震えています。
……覇気? 何をおっしゃっているのかしら、この方は。
「覇気……? 殿下、これはただの、わたくしの優雅な微笑みですわ。どこをどう見れば、そんな物騒なものに見えるのですか?」
「謙遜するな! 君が今、口角をわずかに上げた瞬間、馬車の周囲の空気がピりついたぞ! 並の兵士なら、今のプレッシャーだけで卒倒しているはずだ」
私は思わず自分の顔を鏡で確認したくなりました。
私はただ、性悪女っぽく口角を歪めただけです。
それがこの筋肉王子フィルターを通すと、どうして「周囲を威圧する達人のオーラ」に変換されてしまうのでしょうか。
「わ、わたくしはただの、性格の悪い公爵令嬢ですわよ? 趣味は嫌がらせ(の演技)と、高笑いですわ!」
「ああ、知っている! 君がパーティー会場で放ったあの高笑い……あれは敵の戦意を喪失させるための『咆哮』だろう? 見事な技術だった!」
(違いますわ! あれはただの悪役令嬢のテンプレートですわ!)
私は心の中で叫びましたが、殿下の猛烈なアプローチは止まりません。
彼は私の手を、まるで宝物でも扱うかのように、しかし万力のような力で握りしめています。
「ミクル殿、君のような『最強の悪女』が私の隣にいれば、我が国の軍勢は無敵だ。君に罵倒されるだけで、兵士たちの士気は爆上がりするだろう!」
「……罵倒されて喜ぶのは、一部の特殊な方々だけではないかしら?」
「いや、我が国の男たちは皆、強い女性に屈服させられるのが好きなのだ! さあ、返事を聞かせてくれ。私の王妃となり、共に世界を……いや、まずは我が国の練兵場を支配してくれないか!」
あまりに真っ直ぐな、そしてあまりにズレたプロポーズ。
私は混乱の極致にいました。
(どうしましょう。断れば、このままこの怪力で握りつぶされそうですし……かと言って、この筋肉地獄に嫁ぐのも……)
しかし、ふと考えました。
アストレア王国に戻れば、私は「リリィを害そうとした毒婦」として裁判にかけられるかもしれません。
それなら、この「覇気」を勘違いしている王子の元へ逃げ込む方が、生存率は高いのではないでしょうか。
「……おーっほっほっほ! いいでしょう。そこまでおっしゃるなら、わたくしが貴方の国を『悪の華』で染め上げてさしあげますわ!」
私はヤケクソ気味に、最大限の悪役令嬢ポーズを決めて承諾しました。
「おおっ! 受けてくれるか! では決まりだ!」
カイル殿下は歓喜の咆哮を上げ、私を馬車の中で高く抱き上げました。
天井に頭をぶつけそうになりながら、私は確信しました。
(わたくしの前世の記憶はありませんが……断言できますわ。わたくしの人生、ここからが本当の『ハードモード』ですわね!)
こうして私は、悪役令嬢としてのプライド(と演技力)だけを武器に、未知なる筋肉の国へと足を踏み入れることになったのです。
窓から差し込む月光が、カイル殿下の彫刻のように整った、しかし暑苦しい顔を照らし出します。
殿下は突然、私の手を取り、その大きな掌で包み込みました。
先ほどまでの快活な笑みは消え、その瞳には真剣な光が宿っています。
「ミクル殿、改めて言わせてほしい。私は君を、我がヴァルハルト王国の王妃として迎えたい。これは単なるスカウトではなく、一人の男としての求婚だ」
(……はえ?)
私はあまりの急展開に、変な声が出てしまいました。
悪役令嬢としての仮面が剥がれそうになるのを必死で抑え、私は扇子で顔を半分隠します。
「で、殿下。冗談が過ぎましてよ? わたくしは先ほど、婚約を破棄されたばかりの『傷物』ですのよ? それに、数々の悪逆非道を働いた(設定の)女ですわ!」
私はわざと目を細め、冷酷な魔女のような微笑みを浮かべてみせました。
さあ、これで「なんて恐ろしい女だ、やはり求婚は撤回する」と言わせるのです。
「その目だ! その、すべてを見透かし、蹂躙しようとする強者の眼差し! 今の君から溢れ出ている凄まじい覇気が、私の魂を震わせるのだ!」
カイル殿下は頬を赤らめ、感動に打ち震えています。
……覇気? 何をおっしゃっているのかしら、この方は。
「覇気……? 殿下、これはただの、わたくしの優雅な微笑みですわ。どこをどう見れば、そんな物騒なものに見えるのですか?」
「謙遜するな! 君が今、口角をわずかに上げた瞬間、馬車の周囲の空気がピりついたぞ! 並の兵士なら、今のプレッシャーだけで卒倒しているはずだ」
私は思わず自分の顔を鏡で確認したくなりました。
私はただ、性悪女っぽく口角を歪めただけです。
それがこの筋肉王子フィルターを通すと、どうして「周囲を威圧する達人のオーラ」に変換されてしまうのでしょうか。
「わ、わたくしはただの、性格の悪い公爵令嬢ですわよ? 趣味は嫌がらせ(の演技)と、高笑いですわ!」
「ああ、知っている! 君がパーティー会場で放ったあの高笑い……あれは敵の戦意を喪失させるための『咆哮』だろう? 見事な技術だった!」
(違いますわ! あれはただの悪役令嬢のテンプレートですわ!)
私は心の中で叫びましたが、殿下の猛烈なアプローチは止まりません。
彼は私の手を、まるで宝物でも扱うかのように、しかし万力のような力で握りしめています。
「ミクル殿、君のような『最強の悪女』が私の隣にいれば、我が国の軍勢は無敵だ。君に罵倒されるだけで、兵士たちの士気は爆上がりするだろう!」
「……罵倒されて喜ぶのは、一部の特殊な方々だけではないかしら?」
「いや、我が国の男たちは皆、強い女性に屈服させられるのが好きなのだ! さあ、返事を聞かせてくれ。私の王妃となり、共に世界を……いや、まずは我が国の練兵場を支配してくれないか!」
あまりに真っ直ぐな、そしてあまりにズレたプロポーズ。
私は混乱の極致にいました。
(どうしましょう。断れば、このままこの怪力で握りつぶされそうですし……かと言って、この筋肉地獄に嫁ぐのも……)
しかし、ふと考えました。
アストレア王国に戻れば、私は「リリィを害そうとした毒婦」として裁判にかけられるかもしれません。
それなら、この「覇気」を勘違いしている王子の元へ逃げ込む方が、生存率は高いのではないでしょうか。
「……おーっほっほっほ! いいでしょう。そこまでおっしゃるなら、わたくしが貴方の国を『悪の華』で染め上げてさしあげますわ!」
私はヤケクソ気味に、最大限の悪役令嬢ポーズを決めて承諾しました。
「おおっ! 受けてくれるか! では決まりだ!」
カイル殿下は歓喜の咆哮を上げ、私を馬車の中で高く抱き上げました。
天井に頭をぶつけそうになりながら、私は確信しました。
(わたくしの前世の記憶はありませんが……断言できますわ。わたくしの人生、ここからが本当の『ハードモード』ですわね!)
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