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ヴァルハルト王国での、初めての朝がやってきました。
慣れない硬いベッドでしたが、意外にもぐっすりと眠れたのは、移動の疲れのせいでしょうか。
私は鏡の前で、自分の顔を厳しくチェックしました。
よし、今日も隈一つない完璧な「悪役令嬢」の顔ですわ。
「失礼いたします、ミクル様。朝のお仕度にお伺いいたしました」
控えめなノックと共に部屋に入ってきたのは、昨日も顔を合わせた侍女長のヒルダさんです。
彼女のメイド服は、盛り上がった上腕二頭筋のせいで、今にも袖が弾け飛びそうになっています。
「おはよう、ヒルダ。随分と早いお出迎えですのね。わたくしを寝不足にさせて、美貌を損なわせるつもりかしら?」
私はあえて椅子に深く腰掛け、足を組みながら冷たく言い放ちました。
普通の侍女なら「申し訳ございません!」と縮み上がるはずです。
「……っ! 素晴らしい! 朝一番から、これほどまでに鋭い叱咤をいただけるとは! 身が引き締まる思いです!」
ヒルダさんは顔を上気させ、深々と頭を下げました。
……なぜでしょう。彼女の目が、尊敬と喜びにキラキラと輝いているように見えます。
「いいですか、ヒルダ。わたくしは、ぬるいサービスなど求めていませんの。わたくしの指示は絶対。少しでも遅れたら、ただではおきませんわよ?」
「承知いたしました! ミクル様のその『厳格さ』こそ、我が国の侍女たちに必要なものです! 早速、全員を集めて今の御言葉を共有し、特訓を開始いたします!」
「特訓……? 待ちなさい、わたくしはただ文句を言っただけで……」
私の制止も聞かず、ヒルダさんは風のような速さで(そして凄まじい足音を立てて)部屋を出て行ってしまいました。
残された私は、ただ呆然と立ち尽くすしかありません。
(……この国の人たち、もしかして全員、精神構造が筋肉でできているのかしら?)
気を取り直して、私は朝食を摂るためにダイニングへと向かいました。
そこには既に、カイル殿下が朝のトレーニングを終えたのか、汗を滴らせながら待っていました。
「おはよう、ミクル殿! 朝から君の叱咤が城中に響き渡ったと聞いたぞ。侍女たちが泣きながら喜んでいた。幸先のいいスタートだな!」
「……喜んでいたのなら、何よりですわ」
私は引き攣る頬を必死に抑え、席に着きました。
運ばれてきた朝食を見て、私は再び絶句しました。
皿の上には、山盛りの茹でた鶏肉、大量のゆで卵、そして謎の緑色のドロドロした液体。
……どこをどう見ても、公爵令嬢が口にする「朝食」ではありません。
「何かしら、この……野生動物の餌のようなものは」
「我が国自慢の『戦士の朝食』だ! その緑のスープには、疲労回復に効く薬草がこれでもかと練り込んであるぞ」
カイル殿下は自信満々に勧めますが、私はスプーンを持つ手が震えました。
しかし、ここで怯んでは「悪役」の名が廃ります。
「ふん、盛り付けのセンスが皆無ですわね。ですが、わたくしの強靭な胃袋を試そうというのなら、受けて立ちますわ」
私は優雅な手つきで、その得体の知れない液体を一口飲み込みました。
(――苦い! 土を煮詰めたような味がしますわ!)
あまりの不味さに意識が飛びそうになりましたが、私はあえて鼻で笑ってみせました。
「あら、意外と悪くないわ。わたくしが以前、毒見役を処刑した時に飲ませた劇薬に比べれば、甘いお菓子のようなものですわね。おーっほっほっほ!」
もちろん嘘です。処刑なんてしたことありません。
ですが、周囲に控えていた衛兵たちが一斉にどよめきました。
「聞いたか……! あの魔薬草スープを飲んで『甘い』と言い切ったぞ!」
「しかも、実体験に基づいた毒の知識まで……。ミクル様、底知れないお方だ!」
気づけば、私の周りには羨望の眼差しを向ける筋肉質の男女が増えていました。
ヴァルハルトの人々にとって、私の「高圧的な演技」や「毒舌」は、すべて「強者の余裕」と「高度な指導」として変換されてしまうようです。
「ミクル殿、やはり君はヴァルハルトの至宝だ。君が来てから、城全体の士気が明らかに上がっている。皆、君に一睨みされるのを今か今かと待っているのだぞ!」
カイル殿下が私の手を握り、熱い視線を送ってきます。
(……わたくし、悪役令嬢として嫌われたいのですけれど。どうして歩くたびにファンクラブが増えていくような状況になっていますの?)
私は、完食した鶏肉の山を見つめながら、遠い目をして呟きました。
どうやらこの国での「悪役」の定義は、私の常識とは根本から異なっているようです。
慣れない硬いベッドでしたが、意外にもぐっすりと眠れたのは、移動の疲れのせいでしょうか。
私は鏡の前で、自分の顔を厳しくチェックしました。
よし、今日も隈一つない完璧な「悪役令嬢」の顔ですわ。
「失礼いたします、ミクル様。朝のお仕度にお伺いいたしました」
控えめなノックと共に部屋に入ってきたのは、昨日も顔を合わせた侍女長のヒルダさんです。
彼女のメイド服は、盛り上がった上腕二頭筋のせいで、今にも袖が弾け飛びそうになっています。
「おはよう、ヒルダ。随分と早いお出迎えですのね。わたくしを寝不足にさせて、美貌を損なわせるつもりかしら?」
私はあえて椅子に深く腰掛け、足を組みながら冷たく言い放ちました。
普通の侍女なら「申し訳ございません!」と縮み上がるはずです。
「……っ! 素晴らしい! 朝一番から、これほどまでに鋭い叱咤をいただけるとは! 身が引き締まる思いです!」
ヒルダさんは顔を上気させ、深々と頭を下げました。
……なぜでしょう。彼女の目が、尊敬と喜びにキラキラと輝いているように見えます。
「いいですか、ヒルダ。わたくしは、ぬるいサービスなど求めていませんの。わたくしの指示は絶対。少しでも遅れたら、ただではおきませんわよ?」
「承知いたしました! ミクル様のその『厳格さ』こそ、我が国の侍女たちに必要なものです! 早速、全員を集めて今の御言葉を共有し、特訓を開始いたします!」
「特訓……? 待ちなさい、わたくしはただ文句を言っただけで……」
私の制止も聞かず、ヒルダさんは風のような速さで(そして凄まじい足音を立てて)部屋を出て行ってしまいました。
残された私は、ただ呆然と立ち尽くすしかありません。
(……この国の人たち、もしかして全員、精神構造が筋肉でできているのかしら?)
気を取り直して、私は朝食を摂るためにダイニングへと向かいました。
そこには既に、カイル殿下が朝のトレーニングを終えたのか、汗を滴らせながら待っていました。
「おはよう、ミクル殿! 朝から君の叱咤が城中に響き渡ったと聞いたぞ。侍女たちが泣きながら喜んでいた。幸先のいいスタートだな!」
「……喜んでいたのなら、何よりですわ」
私は引き攣る頬を必死に抑え、席に着きました。
運ばれてきた朝食を見て、私は再び絶句しました。
皿の上には、山盛りの茹でた鶏肉、大量のゆで卵、そして謎の緑色のドロドロした液体。
……どこをどう見ても、公爵令嬢が口にする「朝食」ではありません。
「何かしら、この……野生動物の餌のようなものは」
「我が国自慢の『戦士の朝食』だ! その緑のスープには、疲労回復に効く薬草がこれでもかと練り込んであるぞ」
カイル殿下は自信満々に勧めますが、私はスプーンを持つ手が震えました。
しかし、ここで怯んでは「悪役」の名が廃ります。
「ふん、盛り付けのセンスが皆無ですわね。ですが、わたくしの強靭な胃袋を試そうというのなら、受けて立ちますわ」
私は優雅な手つきで、その得体の知れない液体を一口飲み込みました。
(――苦い! 土を煮詰めたような味がしますわ!)
あまりの不味さに意識が飛びそうになりましたが、私はあえて鼻で笑ってみせました。
「あら、意外と悪くないわ。わたくしが以前、毒見役を処刑した時に飲ませた劇薬に比べれば、甘いお菓子のようなものですわね。おーっほっほっほ!」
もちろん嘘です。処刑なんてしたことありません。
ですが、周囲に控えていた衛兵たちが一斉にどよめきました。
「聞いたか……! あの魔薬草スープを飲んで『甘い』と言い切ったぞ!」
「しかも、実体験に基づいた毒の知識まで……。ミクル様、底知れないお方だ!」
気づけば、私の周りには羨望の眼差しを向ける筋肉質の男女が増えていました。
ヴァルハルトの人々にとって、私の「高圧的な演技」や「毒舌」は、すべて「強者の余裕」と「高度な指導」として変換されてしまうようです。
「ミクル殿、やはり君はヴァルハルトの至宝だ。君が来てから、城全体の士気が明らかに上がっている。皆、君に一睨みされるのを今か今かと待っているのだぞ!」
カイル殿下が私の手を握り、熱い視線を送ってきます。
(……わたくし、悪役令嬢として嫌われたいのですけれど。どうして歩くたびにファンクラブが増えていくような状況になっていますの?)
私は、完食した鶏肉の山を見つめながら、遠い目をして呟きました。
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