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「待ってください! まだ終わりではありませんわ! 皆様、騙されないで!」
歓喜に沸く会場のど真ん中で、私は漆黒の扇を振り回しながら叫んだ。
レオンハルト殿下の「一生僕の隣に閉じ込める刑」などという、最高に誠実で恐ろしい求婚に流されてはなりません。
ここで認めれば、私の「悪役令嬢としての人生」は、ただの「愛に溢れた勘違いコメディ」として幕を閉じてしまう!
「マリア、どうしたんだい? まだ何か、僕への愛の誓いが残っているのかい?」
レオンハルト殿下は、跪いたまま私の手を離さず、潤んだ瞳で私を見上げている。
「いいえ! 逆ですわ! 殿下、私は……私はあなたに、とんでもない嘘をついていたのです!」
「嘘? 君の口から出る言葉なら、たとえそれが『太陽は西から昇る』であっても、僕は新説として学会に認めさせてみせるよ」
「そういう話ではありませんわ! 私は……私は実は、皆様が思っているような『無能な令嬢』ではないのです!」
会場が再び、水を打ったように静まり返った。
私はこれまでの「無能エピソード」を逆手に取ることにした。
自分が「無能」であることを認めると愛されてしまうなら、自分が「狡猾な天才」であることをアピールすればいい!
「私はわざと、刺繍を台無しにしてきましたの! 殿下の気を引くために、あえて計算し尽くした不器用さを演じていたのです! ダンスで足を踏んだのも、あなたの注意を私だけに向けるための高等戦術! 勉強ができないフリをしていたのも、あなたが私を教えざるを得ない状況を作るための、冷徹な計算の結果ですわ!」
私は高笑いを上げ、胸を張った。
「どうです!? 私は、自身の無能さすら武器にしてあなたを操ろうとした、卑劣で嘘つきな悪女なのです! こんな腹黒い女、帝国の母にはふさわしくありませんわよね!?」
さあ、これで決まりです。
「無能」は可愛げがあるかもしれませんが、「計算高い嘘つき」は王族として最も排除されるべき存在。
殿下、今度こそ私に失望して、その手を離してくださいまし!
レオンハルト殿下は、数秒間、驚いたように目を見開いていた。
……そして。
「……っ! なんてことだ……マリア、君は……君はやっぱり、僕の想像を遥かに超える逸材だったんだね!」
「……はい?」
殿下は感極まったように私の手を握りしめ、そのまま立ち上がって会場の貴族たちを振り返った。
「皆様、聞いたか! 彼女は、僕との時間を確保するために、長年にわたって『完璧な無能』を演じきったんだ! その驚異的な演技力、忍耐力、そして僕への執着心……! これほどまでに知略に長けた女性が、他にいるだろうか!」
「「「おおおぉぉ……!!」」」
会場から、今日一番のどよめきが上がった。
「殿下。一応言わせてください。マリア様のテスト用紙、名前の書き忘れで0点だったことが何度もありましたが、あれも計算だと言うのですか?」
ケイン様が、死んだような目でツッコミを入れる。
そうよ、ケイン様! 私はただのバカなのよ! 計算なんてできないわ!
「そうに決まっているじゃないか、ケイン! 名前を書かないことで、採点者に『この答案は一体誰の……?』というミステリアスな印象を植え付け、自分の存在を際立たせる……。マリア、君のブランディング能力は、もはや帝国の宣伝局を凌駕しているよ!」
「違います! 私はただ、名前を書くのを忘れるほどの本物のバカなんですの!!」
「ははは、またそうやって自分を低く見せようとする。マリア、君のその『嘘』は、僕への深い愛が生み出した、あまりにも高度な贈り物だ」
レオンハルト様は、私の腰をぐいと引き寄せ、耳元で熱く囁いた。
「嘘つきの悪女、大歓迎だよ。僕を騙すためにそれほどの手間をかけてくれた君を、僕は一生をかけて愛し、そして今度は僕が君を一生騙し続けてあげよう。……君が『自分は不幸な悪役令嬢だ』と勘違いしたまま、世界で一番幸せな王妃になれるようにね」
「…………」
勝てない。
この人、私の言葉をすべて、自分の都合の良い方向に捻じ曲げる「誠実な怪物」ですわ。
「さあ、マリア。君の『告白』によって、僕の決心はさらに固まった。君のような恐るべき知略家を野に放つわけにはいかない。……今すぐ、結婚の儀の準備を始めよう」
「断罪は!? 私の嘘に対する、厳罰はどこにいったのですか!?」
「君を一生愛し抜くことが、僕に与えられた最大の罰であり、最高の誉れだよ」
レオンハルト様の笑顔は、どこまでも澄み渡り、そしてどこまでも私を絶望させた。
「(……この嘘つき、私ではなくて殿下の方ですわーーー!!)」
私の「最後の告発」は、王子の「究極のポジティブ変換」によって、私が「知略に長けた慈愛の聖女候補」へと祭り上げられるという、想定外すぎる結末を迎えた。
悪役令嬢への道。
嘘すらも愛の証拠にされてしまい、マリアの退路はもはや、バージンロードへと続く道しか残されていなかったのである。
歓喜に沸く会場のど真ん中で、私は漆黒の扇を振り回しながら叫んだ。
レオンハルト殿下の「一生僕の隣に閉じ込める刑」などという、最高に誠実で恐ろしい求婚に流されてはなりません。
ここで認めれば、私の「悪役令嬢としての人生」は、ただの「愛に溢れた勘違いコメディ」として幕を閉じてしまう!
「マリア、どうしたんだい? まだ何か、僕への愛の誓いが残っているのかい?」
レオンハルト殿下は、跪いたまま私の手を離さず、潤んだ瞳で私を見上げている。
「いいえ! 逆ですわ! 殿下、私は……私はあなたに、とんでもない嘘をついていたのです!」
「嘘? 君の口から出る言葉なら、たとえそれが『太陽は西から昇る』であっても、僕は新説として学会に認めさせてみせるよ」
「そういう話ではありませんわ! 私は……私は実は、皆様が思っているような『無能な令嬢』ではないのです!」
会場が再び、水を打ったように静まり返った。
私はこれまでの「無能エピソード」を逆手に取ることにした。
自分が「無能」であることを認めると愛されてしまうなら、自分が「狡猾な天才」であることをアピールすればいい!
「私はわざと、刺繍を台無しにしてきましたの! 殿下の気を引くために、あえて計算し尽くした不器用さを演じていたのです! ダンスで足を踏んだのも、あなたの注意を私だけに向けるための高等戦術! 勉強ができないフリをしていたのも、あなたが私を教えざるを得ない状況を作るための、冷徹な計算の結果ですわ!」
私は高笑いを上げ、胸を張った。
「どうです!? 私は、自身の無能さすら武器にしてあなたを操ろうとした、卑劣で嘘つきな悪女なのです! こんな腹黒い女、帝国の母にはふさわしくありませんわよね!?」
さあ、これで決まりです。
「無能」は可愛げがあるかもしれませんが、「計算高い嘘つき」は王族として最も排除されるべき存在。
殿下、今度こそ私に失望して、その手を離してくださいまし!
レオンハルト殿下は、数秒間、驚いたように目を見開いていた。
……そして。
「……っ! なんてことだ……マリア、君は……君はやっぱり、僕の想像を遥かに超える逸材だったんだね!」
「……はい?」
殿下は感極まったように私の手を握りしめ、そのまま立ち上がって会場の貴族たちを振り返った。
「皆様、聞いたか! 彼女は、僕との時間を確保するために、長年にわたって『完璧な無能』を演じきったんだ! その驚異的な演技力、忍耐力、そして僕への執着心……! これほどまでに知略に長けた女性が、他にいるだろうか!」
「「「おおおぉぉ……!!」」」
会場から、今日一番のどよめきが上がった。
「殿下。一応言わせてください。マリア様のテスト用紙、名前の書き忘れで0点だったことが何度もありましたが、あれも計算だと言うのですか?」
ケイン様が、死んだような目でツッコミを入れる。
そうよ、ケイン様! 私はただのバカなのよ! 計算なんてできないわ!
「そうに決まっているじゃないか、ケイン! 名前を書かないことで、採点者に『この答案は一体誰の……?』というミステリアスな印象を植え付け、自分の存在を際立たせる……。マリア、君のブランディング能力は、もはや帝国の宣伝局を凌駕しているよ!」
「違います! 私はただ、名前を書くのを忘れるほどの本物のバカなんですの!!」
「ははは、またそうやって自分を低く見せようとする。マリア、君のその『嘘』は、僕への深い愛が生み出した、あまりにも高度な贈り物だ」
レオンハルト様は、私の腰をぐいと引き寄せ、耳元で熱く囁いた。
「嘘つきの悪女、大歓迎だよ。僕を騙すためにそれほどの手間をかけてくれた君を、僕は一生をかけて愛し、そして今度は僕が君を一生騙し続けてあげよう。……君が『自分は不幸な悪役令嬢だ』と勘違いしたまま、世界で一番幸せな王妃になれるようにね」
「…………」
勝てない。
この人、私の言葉をすべて、自分の都合の良い方向に捻じ曲げる「誠実な怪物」ですわ。
「さあ、マリア。君の『告白』によって、僕の決心はさらに固まった。君のような恐るべき知略家を野に放つわけにはいかない。……今すぐ、結婚の儀の準備を始めよう」
「断罪は!? 私の嘘に対する、厳罰はどこにいったのですか!?」
「君を一生愛し抜くことが、僕に与えられた最大の罰であり、最高の誉れだよ」
レオンハルト様の笑顔は、どこまでも澄み渡り、そしてどこまでも私を絶望させた。
「(……この嘘つき、私ではなくて殿下の方ですわーーー!!)」
私の「最後の告発」は、王子の「究極のポジティブ変換」によって、私が「知略に長けた慈愛の聖女候補」へと祭り上げられるという、想定外すぎる結末を迎えた。
悪役令嬢への道。
嘘すらも愛の証拠にされてしまい、マリアの退路はもはや、バージンロードへと続く道しか残されていなかったのである。
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