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帝国大聖堂。
高くそびえるステンドグラスから、七色の光が降り注ぐ神聖な空間。
今日は、私とレオンハルト殿下の正式な婚約式。
帝国の貴族、さらには諸外国の使節団までが見守る、まさに国家規模のビッグイベントです。
(……今日、今日こそは! 私は完璧な令嬢を演じ切ってみせますわ!)
私は、幾重にも重なる純白のドレスの重みに耐え、一歩一歩、祭壇へと続くバージンロードを歩いていた。
これまでの私の「悪役(笑)」活動や、数々の「無能」エピソードは、すべて殿下の手によって「美談」に書き換えられてしまいました。
せめて、この神聖な式の最中だけは、一度も転ばず、一度も噛まず、淑女の鑑として歴史に名を刻むのです!
祭壇の前では、軍服を正装に着替えたレオンハルト殿下が、見たこともないほど神々しい笑みを浮かべて待っていた。
「……美しい。マリア、今日の君は、神が僕に与えてくれた最高の奇跡だ」
「殿下、今は私語は慎んでくださいまし……」
私は扇……ではなく、今日は聖なる祈祷書を握りしめ、小声で答えた。
式は順調に進んだ。
指輪の交換も、私の手が震えすぎて殿下の指に刺さりそうになったけれど、殿下が超人的な反射神経で受け止めてくれたのでセーフ。
そして、最大の山場。
「真実の誓い」の時間がやってきた。
これは、婚約者が神の前で、相手に対する想いを独自の言葉で捧げるという、帝国に伝わる伝統的な儀式だ。
(……大丈夫。練習は千回しましたわ。あの長くて難解な古語の誓辞、完璧に暗記していますもの!)
私は大きく深呼吸をし、高僧の前で口を開いた。
「……あ、あの。ええと……」
沈黙。
……頭の中が、真っ白になった。
(……嘘でしょう!? 出てきませんわ! 最初の『光り輝く栄光の……』の次が、何一つ思い出せませんわ!!)
冷や汗が背中を流れる。
会場中の視線が私に突き刺さる。
高僧が不思議そうに私を覗き込み、隣でケイン様が「あ、これいつものやつだ」という顔で胃を押さえているのが見えた。
「……マリア?」
レオンハルト様が、心配そうに私の手を握る。
その温もりに触れた瞬間、私の脳内の回路がパチンとショートした。
「……殿下! 私は、私は……あなたが、誠実すぎて、重すぎて、変態なところが……っ!」
「……え?」
私は、暗記した誓辞ではなく、心の底に溜まっていた「本音」を、全参列者の前で叫んでしまった。
「あなたが何をしても愛に変換するせいで、私は悪役令嬢になれなくて、毎日が大変で……! でも、あなたがいないと、私、多分まともに歩くことも忘れてしまうほど、無能なんですわ! だから……もう、責任をとって、一生私を甘やかして、閉じ込めておいてくださいまし!!」
言い切った。
やってしまった。
古風で格調高い誓いの言葉どころか、ただの「重すぎる愛の告白(逆ギレ風)」である。
会場は、墓場のような静寂に包まれた。
私は顔から火を噴きそうになりながら、自分の失態に絶望した。
ああ、最後の最後に、国家レベルの恥をさらしてしまった……。
ところが。
「……っ! ああ……マリア!!」
レオンハルト殿下が、人目も憚らず、私を強く、強く抱きしめた。
その瞳からは、ボロボロと大粒の涙が溢れている。
「なんて……なんて誠実で、飾らない言葉なんだ! 君は、古臭い形式(誓辞)を捨てて、心そのものを僕に差し出してくれたんだね!」
「……はい?」
「聞いたか、皆! 彼女は、僕という人間を丸ごと受け入れ、僕の愛に『閉じ込められたい』と言ってくれた! これ以上の『真実の誓い』が、この世にあるだろうか!」
殿下の叫びに呼応するように、高僧が感極まった声を上げた。
「……おお! 神よ! 文字に頼らず、魂で語る花嫁を私は初めて見ました! これぞ、真の『聖なる誓い』です!!」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
参列していた貴族たちが、一斉に立ち上がり、嵐のような拍手を送ってきた。
中には、あまりの感動に号泣し、隣の人と抱き合っている使節団の姿まである。
「……殿下。今の、ただの告白……というか、八つ当たりですわよ?」
「いいや、愛だ。マリア、君の言葉で、僕は今、完全に神と一つになった気分だよ」
「殿下、落ち着いてください。あなたはまだ人間です」
ケイン様が呆れたように言ったが、もう誰にもこの熱狂は止められない。
「さあ、誓いのキスを! 帝国の新しい太陽に、神の祝福を!」
高僧の声に促され、レオンハルト殿下は私の顔を両手で包み込んだ。
「マリア。君を二度と、この腕の中から出さない。君がどれだけ無能でも、どれだけ失敗しても、そのすべてを僕がこの国の伝説に変えてあげるよ」
「……もう、どうにでもなれですわ。大好きですわ、殿下!」
私は半ば自棄(やけ)気味に、彼の首に腕を回した。
重なり合う唇。
降り注ぐ花の香りと、地鳴りのような歓声。
私の「無能」によって台無しになるはずだった婚約式は、こうして帝国の歴史上「最も情熱的で、最も誠実な式」として、千年後まで語り継がれる聖なる伝説となったのである。
悪役令嬢への道。
自らの不手際すらも王子の愛で聖域へと変えられ、マリアはもはや、幸せになる以外の選択肢をすべて失ったのであった。
高くそびえるステンドグラスから、七色の光が降り注ぐ神聖な空間。
今日は、私とレオンハルト殿下の正式な婚約式。
帝国の貴族、さらには諸外国の使節団までが見守る、まさに国家規模のビッグイベントです。
(……今日、今日こそは! 私は完璧な令嬢を演じ切ってみせますわ!)
私は、幾重にも重なる純白のドレスの重みに耐え、一歩一歩、祭壇へと続くバージンロードを歩いていた。
これまでの私の「悪役(笑)」活動や、数々の「無能」エピソードは、すべて殿下の手によって「美談」に書き換えられてしまいました。
せめて、この神聖な式の最中だけは、一度も転ばず、一度も噛まず、淑女の鑑として歴史に名を刻むのです!
祭壇の前では、軍服を正装に着替えたレオンハルト殿下が、見たこともないほど神々しい笑みを浮かべて待っていた。
「……美しい。マリア、今日の君は、神が僕に与えてくれた最高の奇跡だ」
「殿下、今は私語は慎んでくださいまし……」
私は扇……ではなく、今日は聖なる祈祷書を握りしめ、小声で答えた。
式は順調に進んだ。
指輪の交換も、私の手が震えすぎて殿下の指に刺さりそうになったけれど、殿下が超人的な反射神経で受け止めてくれたのでセーフ。
そして、最大の山場。
「真実の誓い」の時間がやってきた。
これは、婚約者が神の前で、相手に対する想いを独自の言葉で捧げるという、帝国に伝わる伝統的な儀式だ。
(……大丈夫。練習は千回しましたわ。あの長くて難解な古語の誓辞、完璧に暗記していますもの!)
私は大きく深呼吸をし、高僧の前で口を開いた。
「……あ、あの。ええと……」
沈黙。
……頭の中が、真っ白になった。
(……嘘でしょう!? 出てきませんわ! 最初の『光り輝く栄光の……』の次が、何一つ思い出せませんわ!!)
冷や汗が背中を流れる。
会場中の視線が私に突き刺さる。
高僧が不思議そうに私を覗き込み、隣でケイン様が「あ、これいつものやつだ」という顔で胃を押さえているのが見えた。
「……マリア?」
レオンハルト様が、心配そうに私の手を握る。
その温もりに触れた瞬間、私の脳内の回路がパチンとショートした。
「……殿下! 私は、私は……あなたが、誠実すぎて、重すぎて、変態なところが……っ!」
「……え?」
私は、暗記した誓辞ではなく、心の底に溜まっていた「本音」を、全参列者の前で叫んでしまった。
「あなたが何をしても愛に変換するせいで、私は悪役令嬢になれなくて、毎日が大変で……! でも、あなたがいないと、私、多分まともに歩くことも忘れてしまうほど、無能なんですわ! だから……もう、責任をとって、一生私を甘やかして、閉じ込めておいてくださいまし!!」
言い切った。
やってしまった。
古風で格調高い誓いの言葉どころか、ただの「重すぎる愛の告白(逆ギレ風)」である。
会場は、墓場のような静寂に包まれた。
私は顔から火を噴きそうになりながら、自分の失態に絶望した。
ああ、最後の最後に、国家レベルの恥をさらしてしまった……。
ところが。
「……っ! ああ……マリア!!」
レオンハルト殿下が、人目も憚らず、私を強く、強く抱きしめた。
その瞳からは、ボロボロと大粒の涙が溢れている。
「なんて……なんて誠実で、飾らない言葉なんだ! 君は、古臭い形式(誓辞)を捨てて、心そのものを僕に差し出してくれたんだね!」
「……はい?」
「聞いたか、皆! 彼女は、僕という人間を丸ごと受け入れ、僕の愛に『閉じ込められたい』と言ってくれた! これ以上の『真実の誓い』が、この世にあるだろうか!」
殿下の叫びに呼応するように、高僧が感極まった声を上げた。
「……おお! 神よ! 文字に頼らず、魂で語る花嫁を私は初めて見ました! これぞ、真の『聖なる誓い』です!!」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
参列していた貴族たちが、一斉に立ち上がり、嵐のような拍手を送ってきた。
中には、あまりの感動に号泣し、隣の人と抱き合っている使節団の姿まである。
「……殿下。今の、ただの告白……というか、八つ当たりですわよ?」
「いいや、愛だ。マリア、君の言葉で、僕は今、完全に神と一つになった気分だよ」
「殿下、落ち着いてください。あなたはまだ人間です」
ケイン様が呆れたように言ったが、もう誰にもこの熱狂は止められない。
「さあ、誓いのキスを! 帝国の新しい太陽に、神の祝福を!」
高僧の声に促され、レオンハルト殿下は私の顔を両手で包み込んだ。
「マリア。君を二度と、この腕の中から出さない。君がどれだけ無能でも、どれだけ失敗しても、そのすべてを僕がこの国の伝説に変えてあげるよ」
「……もう、どうにでもなれですわ。大好きですわ、殿下!」
私は半ば自棄(やけ)気味に、彼の首に腕を回した。
重なり合う唇。
降り注ぐ花の香りと、地鳴りのような歓声。
私の「無能」によって台無しになるはずだった婚約式は、こうして帝国の歴史上「最も情熱的で、最も誠実な式」として、千年後まで語り継がれる聖なる伝説となったのである。
悪役令嬢への道。
自らの不手際すらも王子の愛で聖域へと変えられ、マリアはもはや、幸せになる以外の選択肢をすべて失ったのであった。
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