愛が重すぎると言われまして。婚約破棄された悪役令嬢。

恋の箱庭

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「……お嬢様。本日は王宮の庭園にて、隣国アイゼン王国の使者を迎える歓迎会がございます。……ですが、お嬢様の出席には、騎士団と隠密組織から『待った』がかかっています」


 朝のティータイム。アンが新聞よりも分厚い「各部署からの要望書」を机に置きました。


「あら、アン。私、ただの公爵令嬢として、隣国の方々に『ようこそ我が国へ』と微笑むだけですわよ? なぜそんな物々しいことに?」


「お嬢様が微笑むだけで、相手国のスパイが『正体を見破られた!』と自白して気絶するからです。……それから、カイン卿が『ノワールを他国の男の目に晒したくない』と、半ば私情で警備を固めています」


 まあ、カイン卿ったら。独占欲が強くていらっしゃること。

 殿下に「重すぎる」と言われていた私が、今や誰かに「重すぎる愛」を注がれているなんて、人生何が起きるか分かりませんわね。


 一方、王宮。歓迎会の会場では、セドリック殿下が手に入れたばかりの聖剣を腰に下げて、得意げにアイゼン王国の使者、ボルコフ伯爵と対峙していました。


「どうだ伯爵。これが我が王家に伝わる伝説の聖剣だ。……抜くのは一苦労だったが(※バター状になっていましたが)、勇者としての資質が認められた証拠だ」


「……ほう。それは見事な。……ですが殿下。我が国が真に興味があるのは、その剣よりも……『黒髪の死神』と恐れられる、一人の公爵令嬢なのですが」


「死神……? まさか、ノワールのことか?」


 ボルコフ伯爵の瞳が、鋭く光りました。


「我が国の情報部によれば、彼女は一晩で王都の不審者を一掃し、軍馬を片手で止め、さらには国家機密の防衛網を一人で再構築したとか。……殿下、あのような『戦略兵器級』の女性を野に放っておくのは、周辺諸国にとっての脅威ですな」


「へ、兵器……? あいつはただの、ストーカー気質の激しい、料理の見た目が暗黒物質なだけの女だぞ!」


「殿下は分かっておられない。……是非、彼女を我が国の軍事顧問として迎えたい。……報酬は、宝石鉱山一つ分でいかがかな?」


 セドリック殿下は、口をあんぐりと開けました。

 自分が「重い」と捨てた女が、隣国からは「鉱山一つ分」の価値があると査定されている。……この屈辱感は何でしょう。


 そこへ、私がカイン卿に伴われて入場しました。

 今日のドレスは、カイン卿の瞳の色に合わせた深紅。……そして、スカートの内側には緊急脱出用の煙幕弾を三発ほど忍ばせております。


「……お待たせいたしました、陛下。……それから、アイゼン王国の使者様。……初めまして、ノワール・ド・ブラッディですわ」


 私が優雅にカーテシーを披露すると、ボルコフ伯爵の表情が劇的に変わりました。


「……っ! 今の会釈、全身の急所を一切晒さない完璧な防御姿勢……! 噂以上だ!」


「あら、伯爵。私はただ、足腰を鍛えるために毎日五千回のスクワットを欠かさない、普通の令嬢ですわ」


「五千回!? ……殿下、やはり彼女を我が国へ! 彼女がいれば、我が国の国境警備は鉄壁になります!」


 伯爵が私に詰め寄ろうとした瞬間、カイン卿が音もなくその間に割って入りました。


「……伯爵。……私の婚約者(予定)に、あまり不躾な視線を向けないでいただきたい。……彼女は我が国の『宝』だ。他国に貸し出す予定はない」


「カイン卿! しかし、彼女のような人材は、一国の公爵家に収まる器ではない!」


「……器に収まらないなら、私が国を彼女の器に作り変えるだけだ」


 カイン卿のあまりに重すぎる、そして壮大な宣言。

 周囲の貴族たちは、その圧倒的な「重愛パワー」に気圧されて、誰も口を挟めません。


「……ちょ、ちょっと待て! カイン、お前、今なんて言った!? 国を作り変えるだと!? 反逆罪だぞ!」


 セドリック殿下が慌てて叫びましたが、カイン卿は鼻で笑いました。


「……殿下。貴方が彼女を愛せなかったのは、貴方の器が小さすぎたからです。……ノワールを制御(愛)できるのは、世界で私一人ですよ」


「……カイン卿。……そんなに私を『重要拠点』のように愛してくださるなんて。……私、今とっても幸せですわ」


 私はカイン卿の胸に、そっと(衝撃吸収を考慮した角度で)寄り添いました。


 ボルコフ伯爵は、私たちの周囲に漂う「愛という名の超高密度結界」を見て、がっくりと肩を落としました。


「……負けだ。……あの二人が揃えば、我が国が軍隊を差し向けても、三十分で全滅させられる。……愛の力とは、これほどまでに恐ろしいものか……」


 伯爵の勘違いは、もはや国家の危機レベルにまで達していました。


 一方、セドリック殿下は、自分が抜いた聖剣を握りしめながら、誰からも注目されない寂しさに打ち震えていました。


「……なぜだ。……なぜ、最強の武器を持っている私より、ただのストーカーと騎士団長の方が強そうに見えるんだ……!」


「殿下、それは……あの二人、もう人間を辞めているからですわよ」


 ルルネさんの冷静なツッコミ。……彼女は今日も、ノワールのドレスの裏地をスケッチするのに忙しそうでした。


 私の「普通の令嬢」への道は、ついに「国際情勢を左右する軍事バランス」という次元にまで突入してしまったのでした。
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