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「……お嬢様。これ、本当に結婚式場の設計図ですか? ……どう見ても、北方国境を守る要塞の強化案にしか見えませんが」
アンが、机の上に広げられた巨大な羊皮紙を、指先でつつきながら尋ねてきました。
「あら、アン。失礼ね。……これは、私とカイン卿が永遠の愛を誓うための、神聖な聖堂ですわよ? ……ただ少しばかり、参列者の安全と、カイン卿の毛髪一本すら傷つけさせないための『配慮』を加えただけですわ」
「……配慮(自動迎撃バリスタ)。……配慮(侵入者の体重を検知して底が抜ける落とし穴)。……配慮(聖歌隊の歌声に紛れさせた超音波による精神攻撃デバイス)。……お嬢様、これでは神父様が命懸けで入場することになりますよ」
いけませんわ。……私としたことが、神父様の回避能力を過大評価しておりました。
そこへ、建築家たちが顔を真っ青にして飛び込んできました。
「ノワール様! ……無理です! ……バージンロードに地雷を埋めるなんて、そんな工事、どこのギルドも受けてくれません!」
「あら。……地雷ではありませんわ、あれは。……新郎新婦以外の足音を検知して、自動的に粘着ネットを射出する『愛の拘束具』ですわ。……安全第一ではありませんこと?」
「その安全のために、招待客が全員捕獲されることになります!」
建築家が泣き崩れたその時、背後から力強い足音が響きました。
「……いいではないか。……素晴らしい設計だ」
カイン卿です。彼は設計図をじっくりと眺めると、満足げに頷きました。
「カイン卿! ……貴方なら、分かってくださると思いましたわ!」
「……ああ。……特に、この祭壇の裏に配置された『緊急脱出用カタパルト』。……万が一、私が式中に拉致されそうになっても、これなら君の腕の中に一直線に射出されるわけだな? ……合理的だ」
「……合理的、ですかねぇ……」
建築家たちが絶望する中、王宮の庭園では、密かに不穏な動きがありました。
「……ククク。……ノワール・ド・ブラッディ。……貴様の幸せなど、長くは続かんぞ。……これこそが、アイゼン王国の残党が開発した最終兵器、『愛冷却魔導具(コールド・ハート)』だ!」
植え込みの影から、怪しい魔導師たちが奇妙なクリスタルを掲げました。
「これを起動すれば、どんなに熱烈な恋人たちも、一瞬にして冷めきった仮面夫婦へと変貌する。……愛が重すぎるあの女も、これを受ければカイン卿への執着を失い、ただの抜け殻になるはずだ!」
魔導師たちが呪文を唱えると、クリスタルから凍てつくような冷気の波動が、ノワールの元へと放たれました。
……しかし。
「……? ……あら、アン。……なんだか今、少しだけ涼しい風が吹きませんでしたこと? ……冷房の魔道具の調子が良いのかしら」
私は、扇子でパタパタと顔を仰ぎながら、何食わぬ顔でカイン卿に微笑みかけました。
「な、なぜだ!? ……最大出力の『愛冷却』だぞ!? ……なぜ、あの二人は見つめ合ったまま、鼻の下を伸ばしているんだ!」
「……お、親分! ……魔計器の針が振り切れています! ……対象の愛の熱量が、絶対零度の冷気を上回って……逆流してきます! ……ひ、ひぎぃぃぃ!」
ボボォォン! という音と共に、クリスタルが自爆しました。
魔導師たちは、自分たちが放った冷気を倍返しで浴び、氷漬けになってその場に転がりました。
「あらあら。……あちらの植え込み、お掃除が必要なようですわね。……アン、氷像を速やかに撤去してちょうだい。……結婚式の庭園に、センスの悪いオブジェは不要よ」
「了解いたしました。……粉砕して、カキ氷の材料にでもしておきます」
一方、一部始終を遠くから眺めていたセドリック殿下は。
「……あああ! ……愛の熱量で物理法則をねじ伏せたぞ、あの女! ……魔道具すら、あいつの重すぎる想いには勝てないのか!」
セドリック殿下は、震える手で『元婚約者への未練(全四十巻)』のノートを抱きしめていました。
「……ルルネ。……私があの冷気を浴びていれば、ノワールへのこの苦しみも消えたのだろうか?」
「殿下……。……殿下の場合は、愛というより『依存』ですから、冷気を浴びたら凍死するだけですわよ」
ルルネさんは冷たく言い放つと、手元のスケッチブックに「ノワール様、愛の沸点:計測不能」と書き込みました。
「……ノワール。……式場には、さらに『私の視線から逃れられない監視カメラ』を百台増設しておいた。……君がどこにいても、私は君を見守り続ける」
「まあ、カイン卿! ……なんて素敵なサプライズ! ……私も、カイン卿の全ての毛穴の状態を把握できる『超高解像度レンズ』を設置しますわね!」
「……ああ。……愛している、ノワール」
「私もですわ、カイン卿」
愛の熱量が限界突破した二人の前では、世界中のどんな妨害も、ただのそよ風に過ぎないのでした。
アンが、机の上に広げられた巨大な羊皮紙を、指先でつつきながら尋ねてきました。
「あら、アン。失礼ね。……これは、私とカイン卿が永遠の愛を誓うための、神聖な聖堂ですわよ? ……ただ少しばかり、参列者の安全と、カイン卿の毛髪一本すら傷つけさせないための『配慮』を加えただけですわ」
「……配慮(自動迎撃バリスタ)。……配慮(侵入者の体重を検知して底が抜ける落とし穴)。……配慮(聖歌隊の歌声に紛れさせた超音波による精神攻撃デバイス)。……お嬢様、これでは神父様が命懸けで入場することになりますよ」
いけませんわ。……私としたことが、神父様の回避能力を過大評価しておりました。
そこへ、建築家たちが顔を真っ青にして飛び込んできました。
「ノワール様! ……無理です! ……バージンロードに地雷を埋めるなんて、そんな工事、どこのギルドも受けてくれません!」
「あら。……地雷ではありませんわ、あれは。……新郎新婦以外の足音を検知して、自動的に粘着ネットを射出する『愛の拘束具』ですわ。……安全第一ではありませんこと?」
「その安全のために、招待客が全員捕獲されることになります!」
建築家が泣き崩れたその時、背後から力強い足音が響きました。
「……いいではないか。……素晴らしい設計だ」
カイン卿です。彼は設計図をじっくりと眺めると、満足げに頷きました。
「カイン卿! ……貴方なら、分かってくださると思いましたわ!」
「……ああ。……特に、この祭壇の裏に配置された『緊急脱出用カタパルト』。……万が一、私が式中に拉致されそうになっても、これなら君の腕の中に一直線に射出されるわけだな? ……合理的だ」
「……合理的、ですかねぇ……」
建築家たちが絶望する中、王宮の庭園では、密かに不穏な動きがありました。
「……ククク。……ノワール・ド・ブラッディ。……貴様の幸せなど、長くは続かんぞ。……これこそが、アイゼン王国の残党が開発した最終兵器、『愛冷却魔導具(コールド・ハート)』だ!」
植え込みの影から、怪しい魔導師たちが奇妙なクリスタルを掲げました。
「これを起動すれば、どんなに熱烈な恋人たちも、一瞬にして冷めきった仮面夫婦へと変貌する。……愛が重すぎるあの女も、これを受ければカイン卿への執着を失い、ただの抜け殻になるはずだ!」
魔導師たちが呪文を唱えると、クリスタルから凍てつくような冷気の波動が、ノワールの元へと放たれました。
……しかし。
「……? ……あら、アン。……なんだか今、少しだけ涼しい風が吹きませんでしたこと? ……冷房の魔道具の調子が良いのかしら」
私は、扇子でパタパタと顔を仰ぎながら、何食わぬ顔でカイン卿に微笑みかけました。
「な、なぜだ!? ……最大出力の『愛冷却』だぞ!? ……なぜ、あの二人は見つめ合ったまま、鼻の下を伸ばしているんだ!」
「……お、親分! ……魔計器の針が振り切れています! ……対象の愛の熱量が、絶対零度の冷気を上回って……逆流してきます! ……ひ、ひぎぃぃぃ!」
ボボォォン! という音と共に、クリスタルが自爆しました。
魔導師たちは、自分たちが放った冷気を倍返しで浴び、氷漬けになってその場に転がりました。
「あらあら。……あちらの植え込み、お掃除が必要なようですわね。……アン、氷像を速やかに撤去してちょうだい。……結婚式の庭園に、センスの悪いオブジェは不要よ」
「了解いたしました。……粉砕して、カキ氷の材料にでもしておきます」
一方、一部始終を遠くから眺めていたセドリック殿下は。
「……あああ! ……愛の熱量で物理法則をねじ伏せたぞ、あの女! ……魔道具すら、あいつの重すぎる想いには勝てないのか!」
セドリック殿下は、震える手で『元婚約者への未練(全四十巻)』のノートを抱きしめていました。
「……ルルネ。……私があの冷気を浴びていれば、ノワールへのこの苦しみも消えたのだろうか?」
「殿下……。……殿下の場合は、愛というより『依存』ですから、冷気を浴びたら凍死するだけですわよ」
ルルネさんは冷たく言い放つと、手元のスケッチブックに「ノワール様、愛の沸点:計測不能」と書き込みました。
「……ノワール。……式場には、さらに『私の視線から逃れられない監視カメラ』を百台増設しておいた。……君がどこにいても、私は君を見守り続ける」
「まあ、カイン卿! ……なんて素敵なサプライズ! ……私も、カイン卿の全ての毛穴の状態を把握できる『超高解像度レンズ』を設置しますわね!」
「……ああ。……愛している、ノワール」
「私もですわ、カイン卿」
愛の熱量が限界突破した二人の前では、世界中のどんな妨害も、ただのそよ風に過ぎないのでした。
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