万歳!国外追放?まあ、なんて素敵なのでしょう!

恋の箱庭

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ギルベルト王子に連れられてやってきたのは、王宮の裏手にある使用人専用の入り口だった。
そこでアニエスを待っていたのは、銀縁の眼鏡を光らせた、岩のように厳格そうな老メイド長、マルタだった。

「ギルベルト様、また妙な方を連れてこられて……。この方は、どこからどう見ても高貴な身なりの令嬢ではございませんか」

マルタの鋭い視線が、アニエスの汚れた、しかし隠しきれない高級シルクのドレスを射抜く。
アニエスは即座に背筋を伸ばし、マルタに向かって完璧な淑女の礼(カーテシー)を繰り出した。

「ご機嫌よう、マスター・マルタ! お目が高いですわね。私、現在は正体を隠して活動中の『潜入エージェント』なんですの。このドレスは、敵を油断させるための高度な擬装(コスプレ)ですわ!」

「……はあ? せん入……?」

マルタが呆然とする中、ギルベルトが楽しげに追い打ちをかける。

「まあ、そう硬いことを言うな、マルタ。彼女はアニエス。訳あって祖国を追われたが、その根性とポジティブさは保証するよ。今日からここで、僕の特命スタッフとして働いてもらう」

「特命も何も、我が王宮のメイドになるには厳格な試験をパスしていただかねばなりません。アニエス様とおっしゃいましたか。あなたに掃除ができて?」

「ソウジ……。まあ、素敵な響きですわね! それはもしや、お城に潜む『グレーの妖精さん』たちを見つけて、優しくお外へご案内するエキサイティングなレクリエーションのことですわね!」

アニエスは期待に瞳を輝かせた。
マルタはこめかみを押さえながら、重い足取りで一室の扉を開けた。
そこは、長年使われていない、埃が積もりに積もった物置部屋だった。

「よろしいでしょう。日没までに、この部屋にあるすべての『妖精さん』とやらをお外へご案内し、床を鏡のように磨き上げなさい。それができれば、採用を検討いたします」

「分かりましたわ! これぞまさに、王宮主催の『隠れんぼ&お宝探し大会』ですわね! マルタさん、なんて遊び心のある試験官なのかしら!」

「……遊びではありません。では、始めなさい」

バタン、と扉が閉められ、アニエスは埃の舞う密室に一人残された。
普通なら絶望して泣き出すような不衛生な環境だが、アニエスは袖をまくり、ドレスの裾を大胆にたくし上げた。

「さあ、妖精さんたち! どこに隠れていらっしゃるのかしら? 私が見つけ出して、ピカピカの楽園へ連れて行って差し上げますわよ!」

アニエスは掃除用具入れからモップを取り出すと、それをバトンのようにくるくると回した。

「まずはこの床……。この積もった埃は、きっとお掃除をサボった結果ではなく、私を驚かせるための『人工雪』の演出に違いありませんわ。お父様、隣国の王宮にまで雪を降らせるなんて、どこまでロマンチストなんですの!」

アニエスは鼻歌を歌いながら、モップで床を滑るように踊り始めた。
彼女にとって、掃除は労働ではなく「華麗な演舞」だった。
窓から差し込む夕日に舞う埃を、「ダイヤモンド・ダスト」と称して追いかけ回し、棚の隅の蜘蛛の巣を「天然のレースカーテン」と呼びながら丁寧に回収していく。

「あら、こんなところに古い燭台が。これぞまさにお宝発見(トレジャーハント)ですわね! 磨けばきっと、中から願いを叶えてくれるランプの精が出てきてくださるに違いないわ!」

シュッシュ、と力強く布で磨き上げると、錆びていた燭台が眩いばかりの光を放ち始めた。
アニエスの「天然の集中力」は凄まじく、彼女が通った後は、魔法をかけたかのように清潔な空間が広がっていく。

数時間後。
マルタが様子を見に扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

「な……なんですの、これは……!」

物置だったはずの部屋は、貴賓室も驚くほどに光り輝いていた。
窓ガラスは存在を忘れるほど透明になり、床はマルタの驚愕の顔を完璧に映し出している。
その中心で、アニエスは窓枠にぶら下がりながら、最後の一片の汚れを愛おしそうに拭き取っていた。

「あ、マルタさん! 見てくださいまし。妖精さんたち、全員無事にお空へ帰っていきましたわ。おまけに、こんなに素敵なお宝もたくさん見つかりましたの!」

アニエスが指差したのは、綺麗に並べられたアンティークの数々だった。

「……信じられません。これほどの重労働を、たった一人で、しかもそんなに楽しそうに……。アニエス様、あなた、一体何者なんですの?」

「ふふっ、言いましたでしょう? 私はハッピーを届けるエージェントですわ! さあ、マルタさん。合格のお祝いに、今流行りの『ハイタッチ』をお願いできますかしら!」

アニエスが差し出した真っ白な手を、マルタはおずおずと握り返した。
その手は、掃除をしたとは思えないほど温かく、そして力強かった。

廊下で様子を伺っていたギルベルトが、壁に寄りかかりながら口角を上げた。

「くくっ……。マルタがあんな顔をするなんてな。アニエス、君はやっぱり最高だ。この退屈な王宮を、君の色で塗り替えてくれよ」

こうしてアニエスは、史上初(?)の「ポジティブすぎるメイド」として、正式にヴァンドーム王宮の一員となったのである。
彼女の新しい任務は、単なる掃除ではない。
それは、堅苦しい王宮そのものを「大掃除」することになるのだが、本人はまだそのことに全く気づいていなかった。
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