万歳!国外追放?まあ、なんて素敵なのでしょう!

恋の箱庭

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ヴァンドーム王国の王都、ルミエール。
そこはアニエスが育った国よりもさらに活気に溢れ、街路樹には色鮮やかな花が咲き誇っていた。
馬車を降り、たった一人でこの大都会に降り立ったアニエスは、広場の中央にある巨大な噴水を見上げて感嘆の声を上げた。

「まあ……! なんて贅沢な『セルフサービス式の水飲み場』でしょう! おまけに、こんなに高くお水を打ち上げて……空を洗おうという試みかしら。素晴らしい志ですわ!」

アニエスは喉が渇いていたので、優雅な足取りで噴水の縁へ歩み寄った。
そして、周囲の視線も気にせず、両手で水を掬って美味しそうに飲み干す。

「ふう。冷たくて、とってもクリスタルなお味ですわ。これなら一晩中飲んでいられますわね」

そんな彼女の姿を、少し離れた場所から興味深そうに見つめる男がいた。
輝くような金髪を無造作に流し、瞳には悪戯っぽい光を宿した青年――この国の第三王子、ギルベルトである。
彼は退屈な公務を抜け出し、面白い「獲物」を探して街を徘徊していたところだった。

「……おいおい。あんなに綺麗な顔をして、噴水の水をあんなに幸せそうに飲む女、初めて見たぞ」

ギルベルトは面白さに口角を上げ、アニエスへと近づいていった。
彼は自慢の「落とせなかった女はいない」と自負する甘い微笑を浮かべ、アニエスの背後に立つ。

「お嬢さん。そんなところで喉を潤すなんて、随分とワイルドな楽しみ方だね。もし良ければ、もっと美味しいワインでも奢らせてくれないかな?」

アニエスはハッとして振り返った。
目の前に立つ輝かしいばかりの美男子を見て、彼女は即座に結論を出した。

「まあ! あなた、この噴水広場の『専属案内係』の方ですのね? ご親切にありがとうございます。ワインだなんて……このお水に魔法をかけて、ブドウジュースに変えてくださるという手品かしら!」

「……手品? いや、普通に店へ誘っているんだよ。君のような美しい女性が一人でいるのは、この街の美観を損ねるからね。僕がエスコートしてあげよう」

ギルベルトはアニエスの手を取ろうとしたが、アニエスはそれを「握手の儀式」だと勘違いし、力強くブンブンと上下に振った。

「素晴らしいわ! 『美観を損ねる』だなんて、私の存在が街の景色に馴染みすぎて、逆に浮いてしまっているという高度なジョークですわね! あなた、かなりのトークスキルをお持ちのスカウトマンとお見受けしましたわ!」

ギルベルトは、自分のナンパがこれほどまでに「ビジネスライク」に受け取られたことに、少しだけ戸惑った。

「……スカウト? ああ、まあ、ある意味ではそうかもしれないね。君、どこから来たんだい? そのドレス、泥だらけだけど相当な高級品だ」

「よくぞ聞いてくださいました! 私、お父様と元婚約者様が共同プロデュースしてくださった『国外追放・自分探しの旅』の最中なんですの。今、この国に入国したばかりで、ちょうど『新生活の拠点』を探していたところですわ!」

ギルベルトは、その言葉に一瞬だけ目を細めた。
国外追放。それは本来、悲劇のヒロインが口にする言葉だ。
だが、目の前の女は、まるで「豪華客船の旅」を自慢するかのような、眩しい笑顔を浮かべている。

「国外追放……。それをそんなに楽しそうに言う奴、世界中探しても君だけだよ。面白い。気に入ったぞ」

「まあ! 『面白い』だなんて、最高級の履歴書評価をありがとうございます! マスター、もしかして、私に何かお仕事のオファーでもありますの? 私、こう見えても公爵令嬢としての『おーっほっほっほ!』という高笑いなら自信がありますわよ!」

ギルベルトは思わず吹き出した。
彼が求めていた「退屈しのぎ」として、これ以上の人材はいない。

「いいだろう。君のその『高笑い』とやら、僕の城で試してみないか? ちょうど今、僕の身の回りを世話する新しいメイド……いや、特命スタッフを探していたんだ」

「まあ! お城での特命スタッフ! それはもしや、王宮の秘密を守る『シャドウ・エージェント』のような格好良いお仕事かしら!」

アニエスは感激のあまり、ギルベルトの両手を握りしめた。

「分かりましたわ! 私、アニエス・ド・ラ・メール。あなたの期待に応えて、お城をハッピーなエナジーで満たしてみせますわね!」

「アニエスか。いい名前だ。僕はギルベルト。よろしく、アニエス。君の新しい人生の契約成立だ」

ギルベルトは心の中でニヤリと笑った。
この女を王宮に連れて行けば、あの堅物な兄上たちや、口うるさい側近たちがどんな顔をするか、想像するだけで楽しくてたまらない。

「さあ、行こうか。我が『ヴァンドーム王宮・体験入社ツアー』へ!」

「はい、ギルベルト様! 私、全力で『体験』させていただきますわ!」

こうしてアニエスは、隣国の王子の手引きにより、今度は「メイド」という名の「特命エージェント」として、王宮へと乗り込むことになったのである。
彼女が去った後の噴水広場には、なぜか彼女が水を掬った跡がキラキラと輝いているような、そんな不思議な余韻が残っていた。
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