万歳!国外追放?まあ、なんて素敵なのでしょう!

恋の箱庭

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ヴァンドーム王宮の正面玄関に、土埃にまみれた一団が到着した。
その先頭に立つのは、かつてアニエスに「国外追放」という名の自由を授けた男、セドリック王子である。
彼は不眠不休で馬を飛ばしてきたのか、目の下に酷いクマを作り、執念に燃えた瞳で王宮を見上げていた。

「ここか……アニエスが、ギルベルトという軟派な王子の毒牙にかかっている場所は……!」

セドリックが重い足取りでエントランスへ踏み込むと、ちょうどそこでは、新しい「エージェント服(メイド服)」に身を包んだアニエスが、長いモップを槍のように構えて廊下のパトロールをしていた。

「あ、あら……? そこの隈取りが素敵な旅人さん、どこかでお見かけしたような……」

アニエスはモップを止めて、まじまじとセドリックを見つめた。
セドリックは、再会の喜びに声を震わせ、彼女の元へ駆け寄った。

「アニエス! ああ、アニエス、私だ! セドリックだ! 君を迎えに来た!」

セドリックがアニエスの肩を掴もうと手を伸ばしたが、アニエスはそれを「不審者による接触」と判断し、華麗なステップでかわした。

「まあ! セドリック殿下ではありませんか! なんて素晴らしいサプライズ! わざわざ隣国まで、『国外追放ツアー・シーズン2』の激励に来てくださったのですわね!」

「シーズン2だと!? 違う、アニエス。私は、自分の過ちに気づいたんだ。君がいなくなってから、噴水は詰まり、書類は山積み、リリアーヌは……リリアーヌはただのわがままな小娘だった! 君こそが、我が国の、そして私の真のパートナーだったんだ!」

セドリックの必死の告白。
周囲の衛兵たちも、かつての婚約者の情熱的な謝罪に、思わず目頭を熱く……しかけたが。

「まあ……殿下、そこまでおっしゃってくださるなんて。感激ですわ!」

アニエスはパッと顔を輝かせ、セドリックの手を力強く握りしめた。

「つまり……殿下も、私のような『自由な放浪者』になりたいということですね!? 王子の座を捨て、自らも『国外追放』を体験しに来られた……。なんてチャレンジ精神に溢れた方なのかしら! お父様に負けず劣らずの、自虐的なユーモアをお持ちですわね!」

「……え? いや、私は別に追放されたいわけじゃ……」

「遠慮なさらないで! 分かりますわ。一度その味を知ってしまったら、普通の生活には戻れませんものね。さあ、安心してください。先輩追放者(パイオニア)として、私、殿下に『低予算・野宿生活のいろは』を叩き込んで差し上げますわ!」

「話を聞いてくれアニエス! 私は、君を連れ戻しに来たと言っているんだ! 今すぐ荷物をまとめろ、ラ・メール王国へ帰るぞ!」

セドリックがアニエスの腕を引こうとしたその時、廊下の奥から銀鈴を転がすような笑い声が響いた。

「おやおや、僕の大事な『防犯システム』を勝手に連れ出そうとするのは、どこの不届き者かな?」

現れたのは、ギルベルト王子だった。
彼はアニエスの肩に親しげに手を置き、セドリックを挑発するように見下ろした。

「セドリック殿下、わざわざ我が国まで何のご用かな? 彼女は今、僕の『特命スタッフ』として非常に重要な任務に就いているんだ。返してほしければ、それ相応の手続きを踏んでもらわないとね」

「ギルベルト……! 貴様、アニエスをメイドとしてこき使っているそうだな! 公爵令嬢である彼女を侮辱するのも大概にしろ!」

「侮辱? 心外だな。彼女は自らの意志で、この国のハッピーを創造しているんだ。なあ、アニエス?」

アニエスは二人の王子の間で、火花が散っているのを「友情の火花」だと確信した。

「まあ! ギルベルト様、セドリック様。お二人とも、私の『入社お祝いパーティー』の余興で、どちらが私をより高く評価しているか競っていらっしゃるのね? なんて光栄な対決かしら!」

アニエスは二人の真ん中に立ち、満面の笑みで両手を広げた。

「セドリック殿下は私の『事務能力』を。ギルベルト様は私の『防衛能力』を。……分かりましたわ! それならいっそ、お二人で一緒に私の『合同訓練キャンプ』に参加しましょう! 今夜は三人で川の字になって、明日の戦略を練る『パジャマ・ミーティング』を開催しましょうね!」

「「……パジャマ・ミーティング?」」

二人の王子の声が、完璧に揃った。
セドリックは、自分の悲痛な謝罪が「キャンプへの勧誘」に成り下がったことに絶望し、ギルベルトはアニエスの「男女の機微を一切無視した提案」に苦笑するしかなかった。

「殿下、そんなに驚かないで。お布団は、私が今朝ピカピカに干しておきましたから、太陽の香りがしますわよ。これぞまさに、国境を越えた『親睦の極み』ですわ!」

アニエスは、青ざめるセドリックと、面白がるギルベルトを強引に引き連れ、王宮の奥へと歩き出した。

「さあ! まずは隣国の名物、特製のお徳用干し肉で乾杯しましょう! セドリック殿下、あなたの『追放生活』、私が最高にコーディネートして差し上げますわ!」

「……私は、追放……されに、来たんじゃ……ない……」

セドリックの消え入りそうな声は、アニエスの高らかな笑い声にかき消されていった。
こうして、アニエスを巡る二人の王子の争いは、アニエスの手によって「全力の接待キャンプ」へと強引に舵を切られることになったのである。
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