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第一章 後悔しない青春

第三話 年上お姉さんと小悪魔

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 五月後半の日差しは、思っていたよりも暑い―。

 体感温度30度。普通に真夏だろってレベル。家に引きこもりガチの俺の白い肌はこうしている今もジリジリと焼かれている
 なぜ、引きこもりガチの俺がジリジリと焼かれているのかというと、数日前の先生からのお仕置の件だ。
2人の女の子(転入生)の学校見学のサポートをしろ、という内容。

 当たり前っちゃ、当たり前だが学校見学は土曜日に行われる。そんなわけで休日の朝っぱらから早起きして、こうして自転車を漕いでいる。いつもと変わらない道だが平日の朝と休日の朝の景色?いや騒がしさが違うため、どこかいつもと違う道を走っている気がしてくる。

 話は変わるが、昔のことわざの中に「早起きは三文の徳」と言う言葉がある。それは、早起きすれば何かしらの得があるとかそんな内容のことわざなのだが、休日に早起きしてる時点で何も得してないと思うのは俺だけだろうか?

なんなら早く起きてしまったという不幸さえ感じる。

 まぁ、元を正せば俺が悪いのでいつもと違う街の景色が見れたことを得だったと思うことにしよう――。

俺は澄んだ青空を見上げる。そこには輝かしい太陽がギラギラと存在している。その朝日は、まるで俺をスポットライトのように照らしているようにさえ思える。

俺は信号で止まり一息のため息をこぼしてから、

「はぁ、帰りてぇ」


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 星川学園高等学校は、関東にあるそこそこ有名な進学校だ。総生徒数は約700人を超える。
 中等部が隣接しているのが特徴で、中等部含めると1000人は余裕で超える

 校舎同士は、スロープで繋がっており中等部も高等部も気軽に行き来できるようになっているデザインだ。

 もし真上から学校を見下ろしたのなら、ちょうどHのようになっているだろう。

他校のアホからは、上から見るとHだからラブホ高とか頭おかしいあだ名が付けられているらしい。ちなみに、そんなアダルティでセンシティブ要素など一切ない普通の高校である。

 そんなこんなで、ラブホ高に到着した俺は、いつも通り校門を抜け自転車置き場へと走らせる。 

自転車通学の生徒には一人一人に駐輪場が設けられており、決められた番号の場所に止めるようになっている。

だが、休日に部活があるやつ以外、今日は来ないので校舎に最も近い所に止めた。なんなら、駐輪場より手前に止めてやった。

自転車をとめたあと、俺は校舎内に入った。いつも通り下駄箱で靴を履き替えてから、見慣れた廊下を進む。
景色自体はいつもと変わらないが人がいないだけでだいぶ違って見えるのが学校というものだ。そこら中から不気味さを感じる。

俺は少し早歩き(決して怖かった訳じゃない)で、待ち合わせている山崎先生のいる職員室に向かった。
職員室は1階にあるため、下駄箱を抜けてすぐだ。

 俺は職員室の扉の前に立ち、深呼吸をした。
 特に理由はないが、職員室に入る時って緊張するよな。
 例えるなら、悪いことしてないけど警察見ると緊張しちゃうみたいなそんな感覚。

 たまに、アホそうな女が「なんたら先生~」なんてでかい声で名前叫びながら入ってくけど、あいつらの馬鹿さが今だけは羨ましい。

まぁ、そんなことを考えていても埒が明かないので、意を決して、軽くノックをしてから扉を少し開けた。

「お、おはようございまーす。山崎先生いますか?」

 俺は少し開けた扉から上半身を滑り込ませて、扉周辺にいる数人の先生に言う。
入っては行けないわけじゃないが、誰かに呼んできてもらったほうがいいと考えたからだ。

だが、職員室のメンバーは薄情なやつばかりで学生から休日を奪っておいてガン無視をカマしてくる。

くっそ、仕方ない入るか

俺は諦めて扉を全開にあけて、ズカズカと職員室の中へ入った。

確か山崎先生の席は1番奥の窓際だった。ボッチが1人でいるのに最適なベストプレイスだが、先生は別にボッチじゃないので宝の持ち腐れって訳だな。

と、先生の席にいくと山崎先生はパソコンで何やら作業をしていた。俺は先生の真横まで進む。

「ちょっと待ってくださいね、あと少しで終わるので」

先生は、ちらっと横目で俺を見るとその一言だけいって作業に戻る。

「あ、はい」

俺は返事をしてから少し後ろに下がり、先生の作業している姿を眺めていた。

なんか冷静に考えると生徒のいない休日に出勤してパソコンと睨めっこしてるって先生も大変なんだな。不思議と先生の背中がかっこよくも悲しくも思えてくる。普段の俺はこの時間寝てるぞ?

 俺は絶対働きたくないので、お金持ちで美人の歳上お姉さんに永久就職しようと思う。

早く結婚しよう。

そんなだらしの無い未来設計を浮かべながら待っていると、先生はエンターキーをターーッン!と打ち付けて立ち上がった。

なんか仕事できる人みたいでかっこよく見えた。社畜だけど。

「ごめんなさいね、そろそろ時間ですし行きましょうか」

「は、はい……」

俺はナマツバを飲む。マジでこれから会う人が一群陽キャ女子だったなら俺の一日は終わる。絶対にだ。
だって俺陰キャだもん。

職員室を出ると、静かな廊下が続いていた。
聞こえてくるのは、コツコツという俺と山崎先生の足音だけ。

その静かすぎる空間に、俺の緊張で高まっている心拍音が音漏れするヘッドホンのように先生に聞かれているんじゃないかと思うほどだ。

「堂本くん?もう~、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」

今まで黙って歩いていた山崎先生が突然にそんな言葉をかける

「い、いやーあははは。なんかこーゆーの初めてで」

おいおいおいおい、このタイミングで怖いこと言うなよ。まじで心臓の鼓動が音漏れしまくってるかと思うじゃんか

「あ、言い忘れてましたけど、2人ともかなり可愛いので楽しみにしててくださいね」

「あー、今ので更に緊張度増したなぁー……」

「ふふ、ごめんなさいね」

まじか、可愛いのか……余計緊張するじゃねぇーか。あー、手汗やべぇ、俺寝癖ついてないかな?

しばらく廊下を歩き、階段をあがると、4階の生徒指導室の前にきた。
ここは、3年生が進路などについて調べたり、先生などの話し合いに使われる教室だ。俺はまだ2年なので入るのは初めてだが。

「それじぁ、行きますよ?」

「……あ、急用思い出したー」

俺は先生の問いかけに対し、速攻来た道を戻ろうとした。が、ガシっと服を捕まれ、扉の前に戻される

「どこに行くんですか?約束、忘れたんですか?」

山崎先生は微笑みながら言う。けど、目は全然笑っていなかった。

「すみません、真面目にやらせて頂きます」

「よろしい、では入ります。私が呼んだら教室に入ってきてください」

そういうと山崎先生は、俺の返事を待つことも無くコンコンと軽くノックしてから教室の扉をあけた。

「おはようございます。遅くなってしまって申し訳ございません。」

「おはようございます。いえ、全然大丈夫ですよ」

教室内の声はダダ漏れで、扉近くに立っていると山崎先生の声と転入生の声が鮮明に聞こえた。

しばらく、先生と2人の女の子の雑談を廊下で聞いているが、転入生はかなり礼儀正しく、声は鈴の音のように綺麗でどっかのお嬢様なの?ってくらい清楚な印象だ。

めちゃくちゃタメ語の黒ギャルとかだったらどうしようかと思っていたが、そこは安心だ。

まぁ、緊張してるのは変わりないけども。 

しばらく今日のスケジュールなどの確認が行われたあとに、その時は来た。

「それでは、今日他に来てもらっているスタッフを紹介させていただきます」

「へぇ、山崎先生以外にも来てくださっているんですか?」

「えぇ、うちの生徒から話を聞いたりしたほうが学校のことをよく分かるんじゃないかと思いまして…それじぁ堂本君、入ってきてください」

俺は緊張に震える拳を握りしめてから、教室内に入った。

「し、失礼しまーす」

「あ、あれ……?もしかして……」

緊張で顔も見れず、やや下を向いて入ってきた俺に向けられた視線は、本来ここで向けられるであろう視線や対応とは違っていた。

まるで久しぶりにあった、友人にでも会うかのような……

俺は、パッと目線を2人の女の子に向ける
そして、俺はその対応の違いを一瞬にして理解する。

「て、転入生って……もしかして、お前ら?」

二人の少女を俺は知っている。だってこの二人は…

「うん!久しぶりだね!なつくん!」

「久しぶりですねぇ、おに…堂本先輩」

二人はなんと、俺の幼なじみだった。

一人目の「なつくん」呼びは、俺の一つ年上の柏葉はるかかしわばはるか。二人目の「先輩」呼びのほうは一個下の柏葉まふゆかしわばまふゆだ。
こいつらは、小さい頃から近所に住んでいてずっと一緒にいた幼なじみだが、数年前に親の事情で引っ越してそれ以来あっていなかった。

「ひ、久しぶりだな。にしても随分と変わったな」

2人の容姿は、前とは全くと言っていいほど違っていた。
はるかは、色々な所がせ、成長していて大人の女性って感じがした。一般よりもビックサイズなソレについ目が引き寄せられる。男の目はソレに引き寄せられる運命なのだ。 

反対に、まふゆはあざとい小悪魔のようになっていた。昔はか弱くて俺か姉のはるかがいないとダメダメな女の子だったのに、今じゃダボダボのセーターをブレザーのしたに着ており、袖はあざとく萌え袖を作っている。かなり短くされたスカートからは白く美しい曲線を描く健康的な脚が伸びている。
これぞ、脚線美!

2人とも昔から可愛かったが、今は可愛いなんて一言で表しては行けないくらいに可愛くなっている。

「って、先生!まさか最初からこのことを知っていて……」

このタイミングで、ライトノベルのように都合よく俺と2人が出会うなんてものは偶然にしてはおかしい。だって現実だし。

「ふふふ、勘のいいガキは先生嫌いです。後はお任せしましたよ?堂本君」

先生は、いつもの全然目が笑っていない笑顔で言うと教室を颯爽と出ていった。

教室のなかで3人だけ取り残され、なんとも言えない緊張感が教室に走る。

「え、えーっと……取りあえず校内を案内す……します」

久しぶりの再開で忘れていた緊張が、今になって戻ってきた。



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