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第142話 台風一過
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「くそっ!」
俺は拳で地面を叩きつけて、剣が刺さったまま凍りついたウィルに視線を向ける。
見ると、ウィルの体を包む氷に日が当たってピカピカと光を反射している。
いつの間にか雨が上がっていたようで、遺跡や焼け焦げた木々の間に日が差し込んでいた。
その様子に俺はふと空を見上げる。
空には大きな虹が掛かっていて、まるでウィルが俺達に前に進めと言っているかのようにも見える。
「ちくしょう……」
しばらく誰も話す者はおらず沈黙が続く。
そして、ガレインさんがその沈黙を破って口を開く。
「しかし……あの野郎何者なんだ? お前達も化物だが、あいつは更にその上をいく化物みたいだな」
「分かりません……。ですが、やつがこの世界をこんなに風にしているのは確かでしょう。本当の敵はムングスルドやグラヴェールではなくあいつなんですよ」
「俺達はやつに完全に踊らされていたわけだ。それにしても、あそこまで禍々しい人間そうはいないぜ……」
ウィルの周りにファクルを始めアークの人間が集まってくる。
「くっ! ジュラール様をお守り出来なかった……」
「ずっと長く一緒にいたあんたの気持ちは計り知れないが、俺も同じくらいに悔しい気持ちはあるぜ」
ストレイングさんがウィルの前でひざまずくファクルの肩を叩く。
その後に続くかのようにガレインさんがファクルに声を掛ける。
「お前達はこれからどうするつもりだ?」
「正直今後どうすればいいのかまだ分かりません……」
「分からないだと? まったく、お前というやつは。元ロルローン騎士団員として恥ずかしくないのか?」
「そんな昔の話を持ち出すのは止めて下さいよ。それに、これは俺達の問題なんだから口を挟まないでもらいたい」
「まあ、好きにするといい。ただ、ジュラールはお前にアークを託すと言ってくれたんだぞ? そこでメソメソと泣いてる暇があるなら、先にやることがあるんじゃないか?」
「……悔しいがあなたの言う通りだろう。しかし……ベルナデッド様も抜けた今、自分にジュラール様の代わりが務まるとは思えない」
ガレインさんの言葉に俺も渇を入れられ、ファクルとアークにある申し出をすることを決める。
「そうだ! こんなところでメソメソしている場合じゃないぞファクル! 俺達にはまだ先にやるべきことがあるはずだ!」
「少年……?」
「アークの人達も聞いてくれ! 俺達はこれからムングスルドとグラヴェールを落とす! そのためには戦力が必要だ! アークの力を貸してくれ!」
俺は続けて手を空にかざし、天に向かって激しい稲妻を放つ。
それを見たファクルとアークの人間がざわつき始め、辺りが騒然とする。
「ジュラールの力と魂は今俺と共にある! そして、ジュラールの意志はアーク達と共にある! 俺達が力を合わせれば必ずあの二国を打ち倒せるはずだ!」
「そうだ……我々は互いに主義主張は違えど、集まった元々の目的はあの二国を潰すことだったはず……」
俺に触発されたファクルが後に続く。
「これからアークをどのようにしていくのか、それはまだ何も決まっていない! しかし、争いの生まない世界を作るという理想は俺達の中で一致してるはず! まずはあの二国を倒すことから始めよう!」
俺達の演説に赤髪の男が拍手をしながら前に出てきて、ファクルに喋り掛ける。
「今の良かったぞファクル。ジュラール様がいなくなったからこそ、我々がしっかりせねばなるまい」
「ありがとうザリード……。今後アークがどうなるか分からないが、これから一つ一つ一緒に良い未来を考えていこう」
「オーブは奪われてしまったがそこの少年がいれば十分勝機はある。共に平和を取り戻そうじゃないか!」
「このままだと俺達はただの犯罪者集団だ。そうじゃないところをちゃんと見せないとな」
「少年はロイ君と言ったか? 私も共に戦うことを約束しよう。よろしく頼む」
「いや、俺の名前はアカツキソウタだ。こちらこそよろしく頼むよザリードさん」
俺はザリードさんと固く握手をする。
「そういや気になったんだが、お前達ジュラールのこと別の名前で呼んでたよな? それにあいつもお前のことをソウタって呼んでなかったようだが、どうなってんだ?」
ガレインさんは名前のことが気になったらしく俺に聞いてくる。
「確かに。ベルナデッド様のことも別の名前で呼んでたようだし、どうしてソウタがジュラール様の力が使えるんだ?」
ファクルもその辺のところが気になったのか、ガレインさんに同調する。
「こんなことになるなんて思ってませんでしたからね。後ですぐ事情を話します」
「あのオルビルトとかいうやつとも知り合いだったみたいようだし、お前達の異常な力と何か関係があるのか?。勿体ぶってないで早く教えろよ」
「じゃあ話も決まったことだし一旦引き上げましょうか。ウィルはどうするんだディアナ?」
「今から遺跡の中に運んでもらう。ここならばウィルも安らかに眠れるだろう」
「こんなところに置いてたら溶けるんじゃないのか?」
「半永久的に凍ったままだから大丈夫だろう」
「それはそれで恐ろしいな……」
「それで私はどうしたらいいんだ? お前がウィルに勝ったら従う約束だった」
「とりあえず俺達と一緒に来いよ。目的は同じなんだ。いいだろ?」
「それは構わないがお前達はそれでいいのか? 私とは一度ならず二度も敵同士になった仲だぞ」
「敵とか言うなよ。言ってもちょっと喧嘩したくらいなもんだろう。それにな、俺はお前とこうして普通に話せることが何より嬉しいんだぞ?」
「それは私とも同じだ。お前達と争いたくなどはないからな」
「俺達にラティエとウィルの代わりは務まらないかもしれないけどさ。これからお前のことを支えていければと思ってるよ」
「そんなことはないさ……今の私にはありがたい言葉だ」
俺達の会話に横にいたガレインさんが入ってきて、ディアナに話し掛ける。
「お前さんイセリアの妹なのか?」
「そうだ? あなたは私の姉こともジュラールのことも知ってるようだったな」
「おお! 性格は違うようだが、流石姉妹だけあって姉ちゃんとよく似てるな! 俺はロルローン騎士団のガレインだ。それで分かるか?」
「もちろんだ。姉は家に帰ってきては騎士団の話をしていたからな。では、あなたが姉を団長に推薦してくれた人か?」
「そうだそうだ。イセリアが前に『うちには美人の妹がいる』って自慢してたぞ」
「そんなことを……。二人とも随分とあなたにはお世話になったようだ。礼を言う」
「はっはっ! 礼はいらんから、代わりにうちに来ないか? イセリアの妹でジュラールの恋人だったら団員達も大歓迎だ。あっ、でも姫さんが少し嫉妬するか……」
「いや……私は恋人ではないし、姉と違って騎士団などは合わないだろう」
「それに彼女は人と戦ったりするのが好きじゃないんですから、誘ったりしては駄目ですよガレインさん」
「そうか……あれだけの能力があれば百人力なんだがなあ」
俺が断りを入れると、ガレインさんは残念そうに独り言を言う。
そこにプリムが現れて俺達の背中を押す。
「さあさあ、積もる話は後にして早くここから出ましょう。服が濡れちゃって風邪を引いてしまうわ」
「ああ、一旦デナントミールに戻るとしよう」
俺はかつての面影を失ったフェアニルカを目に焼き付け、心の中でウィルに別れを告げる。
またなウィル……。全部終わった後にまた来るから、ちょっとそこで待っててくれ。
俺は拳で地面を叩きつけて、剣が刺さったまま凍りついたウィルに視線を向ける。
見ると、ウィルの体を包む氷に日が当たってピカピカと光を反射している。
いつの間にか雨が上がっていたようで、遺跡や焼け焦げた木々の間に日が差し込んでいた。
その様子に俺はふと空を見上げる。
空には大きな虹が掛かっていて、まるでウィルが俺達に前に進めと言っているかのようにも見える。
「ちくしょう……」
しばらく誰も話す者はおらず沈黙が続く。
そして、ガレインさんがその沈黙を破って口を開く。
「しかし……あの野郎何者なんだ? お前達も化物だが、あいつは更にその上をいく化物みたいだな」
「分かりません……。ですが、やつがこの世界をこんなに風にしているのは確かでしょう。本当の敵はムングスルドやグラヴェールではなくあいつなんですよ」
「俺達はやつに完全に踊らされていたわけだ。それにしても、あそこまで禍々しい人間そうはいないぜ……」
ウィルの周りにファクルを始めアークの人間が集まってくる。
「くっ! ジュラール様をお守り出来なかった……」
「ずっと長く一緒にいたあんたの気持ちは計り知れないが、俺も同じくらいに悔しい気持ちはあるぜ」
ストレイングさんがウィルの前でひざまずくファクルの肩を叩く。
その後に続くかのようにガレインさんがファクルに声を掛ける。
「お前達はこれからどうするつもりだ?」
「正直今後どうすればいいのかまだ分かりません……」
「分からないだと? まったく、お前というやつは。元ロルローン騎士団員として恥ずかしくないのか?」
「そんな昔の話を持ち出すのは止めて下さいよ。それに、これは俺達の問題なんだから口を挟まないでもらいたい」
「まあ、好きにするといい。ただ、ジュラールはお前にアークを託すと言ってくれたんだぞ? そこでメソメソと泣いてる暇があるなら、先にやることがあるんじゃないか?」
「……悔しいがあなたの言う通りだろう。しかし……ベルナデッド様も抜けた今、自分にジュラール様の代わりが務まるとは思えない」
ガレインさんの言葉に俺も渇を入れられ、ファクルとアークにある申し出をすることを決める。
「そうだ! こんなところでメソメソしている場合じゃないぞファクル! 俺達にはまだ先にやるべきことがあるはずだ!」
「少年……?」
「アークの人達も聞いてくれ! 俺達はこれからムングスルドとグラヴェールを落とす! そのためには戦力が必要だ! アークの力を貸してくれ!」
俺は続けて手を空にかざし、天に向かって激しい稲妻を放つ。
それを見たファクルとアークの人間がざわつき始め、辺りが騒然とする。
「ジュラールの力と魂は今俺と共にある! そして、ジュラールの意志はアーク達と共にある! 俺達が力を合わせれば必ずあの二国を打ち倒せるはずだ!」
「そうだ……我々は互いに主義主張は違えど、集まった元々の目的はあの二国を潰すことだったはず……」
俺に触発されたファクルが後に続く。
「これからアークをどのようにしていくのか、それはまだ何も決まっていない! しかし、争いの生まない世界を作るという理想は俺達の中で一致してるはず! まずはあの二国を倒すことから始めよう!」
俺達の演説に赤髪の男が拍手をしながら前に出てきて、ファクルに喋り掛ける。
「今の良かったぞファクル。ジュラール様がいなくなったからこそ、我々がしっかりせねばなるまい」
「ありがとうザリード……。今後アークがどうなるか分からないが、これから一つ一つ一緒に良い未来を考えていこう」
「オーブは奪われてしまったがそこの少年がいれば十分勝機はある。共に平和を取り戻そうじゃないか!」
「このままだと俺達はただの犯罪者集団だ。そうじゃないところをちゃんと見せないとな」
「少年はロイ君と言ったか? 私も共に戦うことを約束しよう。よろしく頼む」
「いや、俺の名前はアカツキソウタだ。こちらこそよろしく頼むよザリードさん」
俺はザリードさんと固く握手をする。
「そういや気になったんだが、お前達ジュラールのこと別の名前で呼んでたよな? それにあいつもお前のことをソウタって呼んでなかったようだが、どうなってんだ?」
ガレインさんは名前のことが気になったらしく俺に聞いてくる。
「確かに。ベルナデッド様のことも別の名前で呼んでたようだし、どうしてソウタがジュラール様の力が使えるんだ?」
ファクルもその辺のところが気になったのか、ガレインさんに同調する。
「こんなことになるなんて思ってませんでしたからね。後ですぐ事情を話します」
「あのオルビルトとかいうやつとも知り合いだったみたいようだし、お前達の異常な力と何か関係があるのか?。勿体ぶってないで早く教えろよ」
「じゃあ話も決まったことだし一旦引き上げましょうか。ウィルはどうするんだディアナ?」
「今から遺跡の中に運んでもらう。ここならばウィルも安らかに眠れるだろう」
「こんなところに置いてたら溶けるんじゃないのか?」
「半永久的に凍ったままだから大丈夫だろう」
「それはそれで恐ろしいな……」
「それで私はどうしたらいいんだ? お前がウィルに勝ったら従う約束だった」
「とりあえず俺達と一緒に来いよ。目的は同じなんだ。いいだろ?」
「それは構わないがお前達はそれでいいのか? 私とは一度ならず二度も敵同士になった仲だぞ」
「敵とか言うなよ。言ってもちょっと喧嘩したくらいなもんだろう。それにな、俺はお前とこうして普通に話せることが何より嬉しいんだぞ?」
「それは私とも同じだ。お前達と争いたくなどはないからな」
「俺達にラティエとウィルの代わりは務まらないかもしれないけどさ。これからお前のことを支えていければと思ってるよ」
「そんなことはないさ……今の私にはありがたい言葉だ」
俺達の会話に横にいたガレインさんが入ってきて、ディアナに話し掛ける。
「お前さんイセリアの妹なのか?」
「そうだ? あなたは私の姉こともジュラールのことも知ってるようだったな」
「おお! 性格は違うようだが、流石姉妹だけあって姉ちゃんとよく似てるな! 俺はロルローン騎士団のガレインだ。それで分かるか?」
「もちろんだ。姉は家に帰ってきては騎士団の話をしていたからな。では、あなたが姉を団長に推薦してくれた人か?」
「そうだそうだ。イセリアが前に『うちには美人の妹がいる』って自慢してたぞ」
「そんなことを……。二人とも随分とあなたにはお世話になったようだ。礼を言う」
「はっはっ! 礼はいらんから、代わりにうちに来ないか? イセリアの妹でジュラールの恋人だったら団員達も大歓迎だ。あっ、でも姫さんが少し嫉妬するか……」
「いや……私は恋人ではないし、姉と違って騎士団などは合わないだろう」
「それに彼女は人と戦ったりするのが好きじゃないんですから、誘ったりしては駄目ですよガレインさん」
「そうか……あれだけの能力があれば百人力なんだがなあ」
俺が断りを入れると、ガレインさんは残念そうに独り言を言う。
そこにプリムが現れて俺達の背中を押す。
「さあさあ、積もる話は後にして早くここから出ましょう。服が濡れちゃって風邪を引いてしまうわ」
「ああ、一旦デナントミールに戻るとしよう」
俺はかつての面影を失ったフェアニルカを目に焼き付け、心の中でウィルに別れを告げる。
またなウィル……。全部終わった後にまた来るから、ちょっとそこで待っててくれ。
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