4 / 83
一章:迷い込んだのは人ならざる物の住む世界
4:虚しく響く鈴の音
しおりを挟む
「ひっ⁉」
姿は黒い靄《もや》のままだがそうだと思ってしまった渉の視界には、歪な形の人間が這いずっているようにしか見えない。
恐怖に腰が抜け、その体が自重と重力により崩れ落ちた。
――がらんがらん。
座り込んだ渉の手から縄が抜ける。力強く握っていた為に手のひらは、焼けるような痛みを覚えるがそれが、渉に今が現実だと言う事をはっきりと知らしめていた。
逃げている間は、追われる恐怖から怒りすら覚えていたにも関わらず、追い詰められ、逃げられなくなった時の恐怖は、先ほどの物と比べ物にならないほどに恐ろしい。
「な、いや……いやだっ!来るな!」
じわり、じわりと距離を詰めるように拝殿の階段へとひしゃげた腕をかけた黒い靄《もや》を拒絶するかのように叫び、渉は腕だけで後ずさる。だが、渉は賽銭箱の前にいたのだ。後ずさろうと、すぐに賽銭箱が背中に当たるのは必然だった。
「⁉」
背中に当たる硬い木製の賽銭箱。逃げ道のないその状況に渉は自身が絶体絶命だと言う事に気づいた。
「っ!」
(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。もう、何も見たくない……!)
逃げ道を失った渉は、一歩、一歩。と、近づいてくるそれから目を逸らすように両腕を顔の前で交差させ、目を瞑る。靄《もや》の手が、自分の足に触れる事に恐れ、身構えながら。
しかし、その時は来なかった。
『ぎゃぁあああああっ!』
地を這うような低い絶叫が渉の耳をつんざく。そして、それに続くように落ち着いた声が渉の上から降ってきた。
「すまんすまん。いつもと位置が違うから探すのに手間取ってしまってな」
古めかしい言葉遣いにもかかわらず、どこか軽い口調。その口調を不思議に思うも、久しぶりに聞いた気がする人の声に渉は恐る恐る瞼を開いた。
「っ……」
最初に目に入ったのは金色《こんじき》。ゆらゆらと揺らめくそれが何かわからなかったが、その声の主が赤い巫女服のような袴を着ている事に気づく。そして、その揺れる金色《こんじき》のそれが袴の臀部あたりから生えていて、もふもふとした毛だという事に気づき、それが尻尾であると理解した。
明らかに人でない。人ではないが……その姿の神々しさに不思議と体から力が抜ける。
まるで自分を助ける為に現れたようにしか思えないその姿に恐れと混乱でいっぱいだった思考がもう大丈夫だと安堵したからだった。
姿は黒い靄《もや》のままだがそうだと思ってしまった渉の視界には、歪な形の人間が這いずっているようにしか見えない。
恐怖に腰が抜け、その体が自重と重力により崩れ落ちた。
――がらんがらん。
座り込んだ渉の手から縄が抜ける。力強く握っていた為に手のひらは、焼けるような痛みを覚えるがそれが、渉に今が現実だと言う事をはっきりと知らしめていた。
逃げている間は、追われる恐怖から怒りすら覚えていたにも関わらず、追い詰められ、逃げられなくなった時の恐怖は、先ほどの物と比べ物にならないほどに恐ろしい。
「な、いや……いやだっ!来るな!」
じわり、じわりと距離を詰めるように拝殿の階段へとひしゃげた腕をかけた黒い靄《もや》を拒絶するかのように叫び、渉は腕だけで後ずさる。だが、渉は賽銭箱の前にいたのだ。後ずさろうと、すぐに賽銭箱が背中に当たるのは必然だった。
「⁉」
背中に当たる硬い木製の賽銭箱。逃げ道のないその状況に渉は自身が絶体絶命だと言う事に気づいた。
「っ!」
(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。もう、何も見たくない……!)
逃げ道を失った渉は、一歩、一歩。と、近づいてくるそれから目を逸らすように両腕を顔の前で交差させ、目を瞑る。靄《もや》の手が、自分の足に触れる事に恐れ、身構えながら。
しかし、その時は来なかった。
『ぎゃぁあああああっ!』
地を這うような低い絶叫が渉の耳をつんざく。そして、それに続くように落ち着いた声が渉の上から降ってきた。
「すまんすまん。いつもと位置が違うから探すのに手間取ってしまってな」
古めかしい言葉遣いにもかかわらず、どこか軽い口調。その口調を不思議に思うも、久しぶりに聞いた気がする人の声に渉は恐る恐る瞼を開いた。
「っ……」
最初に目に入ったのは金色《こんじき》。ゆらゆらと揺らめくそれが何かわからなかったが、その声の主が赤い巫女服のような袴を着ている事に気づく。そして、その揺れる金色《こんじき》のそれが袴の臀部あたりから生えていて、もふもふとした毛だという事に気づき、それが尻尾であると理解した。
明らかに人でない。人ではないが……その姿の神々しさに不思議と体から力が抜ける。
まるで自分を助ける為に現れたようにしか思えないその姿に恐れと混乱でいっぱいだった思考がもう大丈夫だと安堵したからだった。
0
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
王子様と一緒。
紫紺
BL
田中明夫は作家を目指して10年、全く目が出ない男だ。
ある日、書店の前で金髪青い目の青年が突然話しかけてきた。最初は胡散臭く思っていたのだが……。
南の国の第2王子アスラン、その護衛トーゴー、田中が住むアパートの大家や住人の奨励会員などなど。
様々な人間模様と恋模様が織りなすBL多めのラブコメ開幕です!
【完結】異世界転移で落ちて来たイケメンからいきなり嫁認定された件
りゆき
BL
俺の部屋の天井から降って来た超絶美形の男。
そいつはいきなり俺の唇を奪った。
その男いわく俺は『運命の相手』なのだと。
いや、意味分からんわ!!
どうやら異世界からやって来たイケメン。
元の世界に戻るには運命の相手と結ばれないといけないらしい。
そんなこと俺には関係ねー!!と、思っていたのに…
平凡サラリーマンだった俺の人生、異世界人への嫁入りに!?
そんなことある!?俺は男ですが!?
イケメンたちとのわちゃわちゃに巻き込まれ、愛やら嫉妬やら友情やら…平凡生活からの一転!?
スパダリ超絶美形×平凡サラリーマンとの嫁入りラブコメ!!
メインの二人以外に、
・腹黒×俺様
・ワンコ×ツンデレインテリ眼鏡
が登場予定。
※R18シーンに印は入れていないのでお気をつけください。
※前半は日本舞台、後半は異世界が舞台になります。
※こちらの作品はムーンライトノベルズにも掲載中。
※完結保証。
※ムーンさん用に一話あたりの文字数が多いため分割して掲載。
初日のみ4話、毎日6話更新します。
本編56話×分割2話+おまけの1話、合計113話。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる