助けてお狐様!~大学デビューと共に幽世の戸を越えました~

海野璃音

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一章:迷い込んだのは人ならざる物の住む世界

4:虚しく響く鈴の音

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「ひっ⁉」

 姿は黒い靄《もや》のままだがそうだと思ってしまった渉の視界には、歪な形の人間が這いずっているようにしか見えない。

 恐怖に腰が抜け、その体が自重と重力により崩れ落ちた。

 ――がらんがらん。

 座り込んだ渉の手から縄が抜ける。力強く握っていた為に手のひらは、焼けるような痛みを覚えるがそれが、渉に今が現実だと言う事をはっきりと知らしめていた。

 逃げている間は、追われる恐怖から怒りすら覚えていたにも関わらず、追い詰められ、逃げられなくなった時の恐怖は、先ほどの物と比べ物にならないほどに恐ろしい。

「な、いや……いやだっ!来るな!」

 じわり、じわりと距離を詰めるように拝殿の階段へとひしゃげた腕をかけた黒い靄《もや》を拒絶するかのように叫び、渉は腕だけで後ずさる。だが、渉は賽銭箱の前にいたのだ。後ずさろうと、すぐに賽銭箱が背中に当たるのは必然だった。

「⁉」

 背中に当たる硬い木製の賽銭箱。逃げ道のないその状況に渉は自身が絶体絶命だと言う事に気づいた。

「っ!」
(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。もう、何も見たくない……!)

 逃げ道を失った渉は、一歩、一歩。と、近づいてくるそれから目を逸らすように両腕を顔の前で交差させ、目を瞑る。靄《もや》の手が、自分の足に触れる事に恐れ、身構えながら。

 しかし、その時は来なかった。

『ぎゃぁあああああっ!』

 地を這うような低い絶叫が渉の耳をつんざく。そして、それに続くように落ち着いた声が渉の上から降ってきた。

「すまんすまん。いつもと位置が違うから探すのに手間取ってしまってな」

 古めかしい言葉遣いにもかかわらず、どこか軽い口調。その口調を不思議に思うも、久しぶりに聞いた気がする人の声に渉は恐る恐る瞼を開いた。

「っ……」

 最初に目に入ったのは金色《こんじき》。ゆらゆらと揺らめくそれが何かわからなかったが、その声の主が赤い巫女服のような袴を着ている事に気づく。そして、その揺れる金色《こんじき》のそれが袴の臀部あたりから生えていて、もふもふとした毛だという事に気づき、それが尻尾であると理解した。

 明らかに人でない。人ではないが……その姿の神々しさに不思議と体から力が抜ける。

 まるで自分を助ける為に現れたようにしか思えないその姿に恐れと混乱でいっぱいだった思考がもう大丈夫だと安堵したからだった。
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