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二章:二度目の幽世
18:姿のない何か
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更衣室を後にした渉の足が徐々に速くなる。実習棟から外に出るとその速度は、焦りを感じるものに変わっていた。
(急げ、急げ、急げ)
走る渉の思考はそんな考えで埋まり、取り繕っていた余裕すらなくなっている。
(ずっと見られている!)
渉があせる理由。それは、視線をずっと感じるようになったからだ。
作業を再開し、終了の号令がかかるまでは何もなかった。しかし、実習が終わり、実習棟の更衣室に向かっている最中に改めて感じた視線。それ以降……渉は、姿の無い視線に晒され続けていたのだ。
(くそっ!ここから神社遠いのに!)
大学から神社までの距離はおおよそ徒歩三十分。走っても十五分前後といったところだろう。
バスなどの公共交通もなくはないのだが、神社までのバスは本数が極端に少なく三十分に一本。しかも、大通りを遠回りで走る為、ここからだと走った方が早い。タクシーなどは、この時間帯だと電話やアプリで呼ばないと滅多に捕まらない。となると、やはり走った方が早かった。
「はっ、はっ……」
渉は焦りを滲ませながら人目を気にすることなく大学のキャンパス内を早足で駆け抜ける。
キャンパス内から公道へと出た後は、走りやすいよう人通りの多い道を避けながら神社への道を急いだ。
……だからこそ、気づくのが遅れたのだろう。
(人が……いない?まさかっ⁉)
雰囲気の変わった世界に、渉は一度立ち止まり辺りを見回す。だが、辺りに人の気配は感じずどこを見ても無人のままだった。
(やっぱり!また前みたいなとこに迷い込んでる!)
黒い靄《もや》の時のように幽世に迷い込んだ事を確信した渉は青ざめる。時間帯は夕方に入り込んだ時間帯とは言えど、まだ夕焼けには程遠く、逢魔が時と言えるほどの時間帯ではない。
それなのに幽世に迷い込んだ。その事実が渉を恐怖させるのには十分な事実だった。
(急いで神社に向かはないと……っ⁉)
立ち止まってる場合じゃないと足を進めようとした渉が息を飲む。
神社へ向かおうと振り返った瞬間。真後ろから渉の耳に生暖かい息遣いが聞こえた。
『はぁ……はぁ……』
「っ⁉う、うわぁああああっ⁉」
まるで触れそうなほどに近い距離で聞こえたそれに渉は叫び、走り出す。
(なんだアレ⁉気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!)
未だに生暖かさの残る左耳を押さえ、生理的な嫌悪感を振り払うかのように頭を振る。
あたりを見回した時、渉の周りに人はいなかった。
いなかったにもかかわらず、耳と唇が触れそうな距離だと錯覚するほどの近距離で聞こえた息遣い。それがただただ気持ち悪く……渉は鳥肌を立てたまま、救いを求めてひたすらに走った。
(急げ、急げ、急げ)
走る渉の思考はそんな考えで埋まり、取り繕っていた余裕すらなくなっている。
(ずっと見られている!)
渉があせる理由。それは、視線をずっと感じるようになったからだ。
作業を再開し、終了の号令がかかるまでは何もなかった。しかし、実習が終わり、実習棟の更衣室に向かっている最中に改めて感じた視線。それ以降……渉は、姿の無い視線に晒され続けていたのだ。
(くそっ!ここから神社遠いのに!)
大学から神社までの距離はおおよそ徒歩三十分。走っても十五分前後といったところだろう。
バスなどの公共交通もなくはないのだが、神社までのバスは本数が極端に少なく三十分に一本。しかも、大通りを遠回りで走る為、ここからだと走った方が早い。タクシーなどは、この時間帯だと電話やアプリで呼ばないと滅多に捕まらない。となると、やはり走った方が早かった。
「はっ、はっ……」
渉は焦りを滲ませながら人目を気にすることなく大学のキャンパス内を早足で駆け抜ける。
キャンパス内から公道へと出た後は、走りやすいよう人通りの多い道を避けながら神社への道を急いだ。
……だからこそ、気づくのが遅れたのだろう。
(人が……いない?まさかっ⁉)
雰囲気の変わった世界に、渉は一度立ち止まり辺りを見回す。だが、辺りに人の気配は感じずどこを見ても無人のままだった。
(やっぱり!また前みたいなとこに迷い込んでる!)
黒い靄《もや》の時のように幽世に迷い込んだ事を確信した渉は青ざめる。時間帯は夕方に入り込んだ時間帯とは言えど、まだ夕焼けには程遠く、逢魔が時と言えるほどの時間帯ではない。
それなのに幽世に迷い込んだ。その事実が渉を恐怖させるのには十分な事実だった。
(急いで神社に向かはないと……っ⁉)
立ち止まってる場合じゃないと足を進めようとした渉が息を飲む。
神社へ向かおうと振り返った瞬間。真後ろから渉の耳に生暖かい息遣いが聞こえた。
『はぁ……はぁ……』
「っ⁉う、うわぁああああっ⁉」
まるで触れそうなほどに近い距離で聞こえたそれに渉は叫び、走り出す。
(なんだアレ⁉気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!)
未だに生暖かさの残る左耳を押さえ、生理的な嫌悪感を振り払うかのように頭を振る。
あたりを見回した時、渉の周りに人はいなかった。
いなかったにもかかわらず、耳と唇が触れそうな距離だと錯覚するほどの近距離で聞こえた息遣い。それがただただ気持ち悪く……渉は鳥肌を立てたまま、救いを求めてひたすらに走った。
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