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三章:寝不足

26:堪えがたい眠気

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 六月も末になり、梅雨特有のじめじめとした日々が続く中……渉は、日々寝不足のまま過ごしていた。

「大丈夫か渉?」

 学食で眠そうにしながら昼食のカレーを食べている渉に侑士が声をかける。

 その顔には、心配の文字がありありと浮かんでいた。

「んー……なんとか」

 しかし、渉本人は、うつらうつらとしながら返事を返すだけ。気だるげに口に運ぶスプーンも時折止まっていた。

「……そう言うけど、最近ずっとそんな調子じゃん」

 あまりにも普通ではない渉の様子に侑士は肩をすくめる。

「ゼミも、サークルも、バイトもやってるから体力足りねぇんじゃねぇの?一つくらい減らせば?」
「いや……体力は足りてるんだけど……なんだか最近夢見が悪い?んだよな……」

 ゆったりゆったりとカレーを口に運びながら、渉は呆れる侑士へと言葉を返し、ため息を吐いた。

「夢見って……なんか、悪夢でも見んの?」

 渉の渋い顔に侑士が首を傾げながら問いかける。

「いや……よく覚えてないんだけど……早めに寝ても、寝た気がしねぇんだよ……」

 その問いに渉はポツポツと呟きながら、眉間にシワを寄せた。

 最近の渉の悩みは、この睡眠不足。寝不足が続いている事を本人も自覚している。

 その為、用事のない日は、早めに家に帰って寝ているほどなのだ。

 だが、そんな渉の考えを嘲笑うかのように、早く寝た日ほど、酷い疲れが渉を襲うのだった。

「むしろ、家で寝るより大学で仮眠とった方がスッキリしてるっていうか……」
「なに?枕でもあわねぇの?」
「先月までは、同じ枕でぐっすりだったよ……」

 この寝不足の症状が現れたのは、およそ十日前。時期としては、二度目の怪異との遭遇から五日目の事だった。

 最初は、何だか寝たのに疲れが取れないな?と、思う事から始まり、日を重ねるごとにそれが蓄積されていく。

 バイトも始めたしそのせいかと思っていたがそれもなんか違う気がする。と、首を傾げ、なんだかんだ十日も経ってしまっていた。

「まさか、なんか病気とかじゃないよな?病院行ってみたら?」
「んー、じゃあ……次の土曜にでもいってみるわ」

 病院に行くよう提案する侑士の言葉に、心配させ過ぎるのも悪いかと思った渉は素直に頷く。

「そうしろそうしろ」

 渉の素直な返事に侑士は安心したように笑った後、ふと考えるように動きを止め、口を開いた。

「というか、お前……午後の授業は?」
「今日は、午前だけ……。サークルか、ゼミの部屋借りて、ちょっと寝てから帰る」
「……今日病院行けばいいんじゃね?」
「……保険証、家」

 侑士のすごく利にかなった言葉に渉はばつが悪そうに呟き、侑士は肩を落とした。

「……ばーか。持ち歩けよ……」
「次からそうする。とりあえず今は寝たい……」

 侑士の言葉に頷きながらも渉は、なんとかカレーを食べ終える。

 眠い頭で片付けようと皿の乗ったトレイに手を伸ばすと、トレイが渉の前から消えた。

「片付けておいてやるから、さっさと寝てこい」

 渉がトレイの消えた先に視線を向ければ、渉のトレイを奪った侑士が渉を追い払うかのように手で払うようなしぐさをする。

「……ありがと、侑士」
「調子良くなったら、なんか驕れよ」
「うん」

 侑士の気遣いに甘える事にした渉は、眠い目を瞬かせながら食堂を後にした。
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