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三章:寝不足

36:禊

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(な、なんだ今の!?)
「渉?」

 感覚に戸惑った際に掴んだ穂の手を握った為にその動揺が伝わる。

(い、言えるわけがない……なんだか、まだ体がおかしいなんて!)

 首を傾げた穂に言葉を詰まらせながら渉はその視線から目を逸らした。

「……まだ、違和感があるのか?」
「っ!」

 穂に図星を突かれ、渉の頬が赤らむ。

「当たりか……魂にこびりついていた穢れは落としたが……現世の体についた分が残っておるからな。原因は祓ったゆえに自然と落ちるかと思ったが……清めた方が良かろう」
「わぁっ!?」

 一人で納得したような穂に首元まで被っていた布団を引き剥がされ、渉は驚いた声をあげる。

「っ!?穂!待って!」
「ん?」

 手慣れた手付きで無防備になった渉を抱えようとする穂に渉が慌て、ベッドから飛び起きた。

「清めるってなにすんの!?」
「神域でした事と同じだが?」

 まさかさっきと同じ事をされるのでは?と、予想した渉の想像を肯定するように穂が答え、渉はおもいっきり首を横に振る。

「無理無理無理無理!さっきでも恥ずか死ぬと思ったのに!また、同じ事されるとか無理!」

 ぎゃんと、叫んだ渉の顔は真っ赤で、僅かに涙を浮かんでいた。


 その様子を見た穂は無理強いは出来ないと思ったのか渉を抱き抱えようと伸ばした手を引っ込め、考え込むように腕を組んで俯く。

「……わかった。それじゃあ、表面のものだけでも落とそう。内部に残ったものは、他の方法で流せば良い」
(よかった……)

 しばらく考え、先ほどとは違う提案をした穂に渉は安堵した。

「他に方法あるんだな。どうしたらいい?」
「まずは、体の表面は禊……水行や水垢離と言えば、伝わるか?。我がお主にやったように溜めた水を汲んで、頭から被って身を清めるのだ。内部に関しては、酒か、塩を一摘まみ舐め、水を飲むのが良かろう。それを体の違和感が無くなるまで毎日続ければいい」

 穂の説明にそれなら出来そうだと安堵する。

(あ、でも……うち洗面器すらないや……)

 しかし、渉の家の浴室はトイレ付きのユニットバスで狭い。穂の神域では、なぜだか木桶があったが現世での渉の家には洗面器もバケツすらもなかった。

「穂……うち、洗面器もバケツもない……」
「……そうか。それでは、仕方ないな。今日は、内部だけでも良かろう」

 そう言って穂は、ベッドから立ち上がり、ワンルームの端にあるキッチンでコップに水を入れ、塩の入った容器を持って戻ってきた。

「塩を舐めて、一口ずつ、ゆっくりと飲み干すのだ」
「わかった」

 塩を一摘まみ舐め、穂から渡されたコップを渉は受け取り、言われた通りにゆっくりと飲む。

(気のせいかもしれないけど、ちょっとマシになった気がする……我ながら単純だな……)

 すぐに効果が出るものではないはずだが、プラシーボ効果というものか……穂から渡された水と言うだけでも、体の疼きが収まった様な気がした渉は、内心苦笑した。
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