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三章:寝不足

37:守ってくれる神様

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「……ありがとな穂」

 水を飲みきったコップを手に持ちながら、渉は穂へと感謝を口にする。

「助けてくれたり、帰らないでってわがままも聞いてくれたり……正直、なんでここまでしてくれるかわかんないけど……穂が助けてくれなきゃ、ここにはいないと思う」
(一度目も、二度目も。そして、今回だって……穂が助けてくれなければどうなっていたかわからない。今回は、きっとギリギリだった。気づいてもいなかったから、今日穂とぶつからなかったら……)

 言葉を呟きながら、最悪を想像し渉は青ざめた。

「……俺、どうしてこんな体質になっちゃったかな……」

 落ちつき、冷静を取り戻したからこそ、今の自分の体質に渉は涙する。

 渉は、この街で進学した事に後悔は無い。しかし、普通とは駆け離れた現状が辛かった。

「その気質が目覚めたのは、この地に来たからであろうが……今のお主を見るに、遅かれ早かれ、その気質は目覚めたことだろう」

 渉の持っていたコップを穂が取り、ベッドのヘッドボードへと置くと、渉の隣へと座りながら言葉を紡ぐ。

「っ……!」
「初めて我に助けを求めた時から二ヶ月足らずで、三回……それも普通に生活しているだけだろう?」

 穂からの問いに渉は頷く。心霊スポットや廃墟等には近づいていない。ただ日常を過ごしているだけで怪異に目をつけられているのだ。

「そう考えると……一度目で我が社に駆け込めた事も運が良かった。黄泉や幽世に続く扉はこの地だけではない。これが、神へと助けを求める事の出来ない場所であったら……山や海でなかっただけ、お主は守られているのだろう」

 ゆっくりと諭すように穂は言葉を重ね、渉の頬を流れる涙を拭う。

「我が神気で隠してなお、怪異に目をつけられている事に驚かされるが……縁が繋がっているゆえに、深く連れ去られてもお主が助けを求めてくれるのなら、我は助けに行ける。思う存分、呼ぶといい」
「……迷惑じゃないのか?俺、なにも返せないのに……」

 いくら穂が神使であり、あの社を任されている存在だとしても、こんなにも頻繁に助けてもらうのは迷惑なのでは?と、表情を曇らせながら渉は穂を見つめた。

「お主から向けられる信頼は心地よい。我らは、信仰こそが力となる。お主が信じ、感謝してくれるのであればそれだけで十分だ」
「ホントに?」
「ああ」

 穂の返答を聞いてなお首を傾げる渉に穂は頷き、笑みを浮かべる。その笑みを見て、渉はくしゃっと顔を歪めると穂の胸へと飛び込んだ。

「穂……みのりっ……!」

 これからも自分の体質のせいで、危ない目にあうのではないかという恐怖とそれでも助けてくれるのだろう穂への安堵で渉は声をあげて泣く。

「……大丈夫だ渉。我がついている」

 自身の胸で泣く渉を穂は抱きしめ、その頭を優しく撫でる。その優しさに縋りながら、渉はただただ泣き続けた。
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