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五章:恋心と葛藤と

55:気まずい再会

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(からだ……だる、い……)

 ふわりと意識が浮かび上がり、渉は体のだるさを自覚する。

 ぼんやりと開いた視線の先には見慣れない天井。背中にはやや固めのマットレスを感じたのでベッドに寝かされているのだろうということを渉は理解した。

(……そういや、倒れたんだった……たぶん、保健室……だよな?)
「起きたのか?」
「っ!?」

 自分の現状を把握していると、渉の耳に落ち着いた声が届く。

「み、穂……なんでっ」

 渉の寝ているベッドの隣で、穂が椅子に座りながら文庫本を読んでいた。

「侑士から渉が倒れたと聞いてな。あやつは、ゼミの集まりがあるからと付き添いを任された」

 穂は読んでいた本を閉じ、鞄へとしまいながらここにいる経緯を説明し、渉へと心配そうな表情を向ける。

「熱中症による立ちくらみだそうだ。倒れた事は覚えているか」
「うん……」

 心配そうな表情の穂を無下にする事などできず、渉は素直に頷いた。

「稲鍵君目を覚ましたのかしら?」
「ええ、今」

 ベッドを囲うカーテンの向こうから女性の声が聞こえ、穂が声へと言葉を返す。

「開けるわね」

 そう言って開かれたカーテンの向こうから保健室の主である年配の養護教諭が姿を見せた。

「顔色は、良くなっているようね。体温計ってくれる?平熱に戻ってると良いんだけど」

 渉の顔色を見た養護教諭は、捲し立てるように言葉を紡ぎ、渉へと体温計を渡してくる。

「狐野君、たしかスポーツドリンク買ってきてくれてたわよね?それも飲ませてあげておいてくれるかしら」
「承ろう」

 渉が体温計を脇に挟むのを確認すると、養護教諭は一度、渉の寝ているベッドから離れていった。

「あまり冷たいのは体に悪いと言われたから常温なのだが……飲めそうか?」
「うん……」

 穂の言葉に渉が頷けば、穂はサイドテーブルに置かれていたスポーツドリンクのキャップを開け、渉へと渡す。

「ありがと」

 受け取ったそれに渉は感謝の言葉を述べると、飲み口へと唇を付け、傾けた。

 ペットボトルから温くも甘いスポーツドリンクが口の中へと広がり、喉へと落ちていく。同時に渉は喉の乾きを自覚し、一度に半分ほど飲み干した。

「っ……こほ……」
「急いで飲むからだ落ち着け」

 急いで飲んだせいで咳き込んだ渉の背中を穂は擦り、渉へとティッシュを渡す。

「……あり、がと」

 僅かに濡れた口元を拭いながら、避けていたにもかかわらず、いつもと変わらず優しい穂に心苦しさを覚えた。
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