転生腐男子、BLゲー主人公となり解釈違いだと叫ぶ。

海野璃音

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辺境の村の神子

四話

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「もう目を開けていいですよ」

 柔らかい声に閉じていた目を開ければ、歩を進める馬の足並みにあわせて僅かに揺れる景色とお兄さんの着ている服の一部が視界に映る。

 ……馬車に乗るのも初めてだったけど、馬に乗るのも前世今世含めて初めてだな。

 村に馬はいたけど、村長の村にしかいなかったし、農家御用達の移動手段は牛だったんだよなー。

 親戚のうちにもいたけど、秋や冬は暖かくて抱きつくと気持ちいいんだ。暴れ牛でも俺相手には大人しくて、罰として家畜小屋で過ごしていた時には鶏も合わせてよく湯たんぽ代わりにしたものである。

 家畜達がいなかったら凍死していたかもしれないから牛と鶏様々だ。俺がいなくなっても元気に過ごしてるといいなぁ。まあ、俺より大事にされてたから元気にしてるだろうけどさ。

 故郷を思う相手が両親と家畜だけな事に若干悲しくなりながら、遠くの景色を見つめていたら、頭の上から声が降ってくる。

「故郷を離れるのはお辛いですか?」
「え、あ……いえ!全然!」

 お兄さんの言葉に反射的に顔をあげて否定したのだが、やや悲しげな表情の美形に悲鳴をあげそうになりながらも続きの言葉を絞り出した。

「両親はすでに亡くなっていますし……記憶もおぼろげで……」

 お兄さんにそう言いながら、両親について思い返そうとするも漠然と愛された記憶はあれど、その詳細を思い出すのは難しい。両親を亡くしたのは五年前。たった五年。されど五年。前世を思い出す前の十歳の俺からすれば遠い記憶と化してしまったのだ。

 もしかすると、前世の家族の事の方が覚えているほどに。

「親戚の家ではほとんど下男のような扱いでしたし……優しくしてもらったのは動物達と、加護を受けた後の神殿の神官様達だけです」
「……迎えに来た神官は?」
「孤児という事で嫌われてました。ほとんど居ない者として扱われていただけマシだったと思います。食事や宿は与えられていましたから」

 苦笑する俺にお兄さんは表情を厳しいものに変える。やっぱり、怒った表情すらイケメンっ……!でも、怖い!

「……そのような者を寄越してしまい誠に申し訳ありません。本来であれば、私がお迎えに上がる予定だったのですが……私個人の用事と他の派閥から横槍が入りまして……急遽あの者が使者として遣わされたのです」

 明らかに怒りを浮かべていたお兄さんは小さくため息をついて、表情を緩ませると俺へと謝罪する。

 本来であればお兄さんが迎えに来るはずだったと聞いて、そしたらやっぱり快適な旅路だっただろうなぁと頭を過る。

 でも、お兄さんの個人の用事は仕方がない。神子を迎えに行く事より重要視される用事は気になるけど、俺が聞けることではない気がするので心の中にしまっておこう。

 そして、横槍という単語については、さすがの神殿も一枚岩ではないんだなぁ……。と、遠い目をしたくなったのだが、俺を見下ろすお兄さんとバッチリ目があった。

 俺が見上げて、お兄さんが見下ろしてるからそりゃあ目が合うんだけど……すっごい後悔してる目をしてるから、何か……何か言わないと……。 

「その……お迎えについて、神官様が気にする事はありません。ワイバーンから、助けていただけただけでも感謝しています」
「本来であれば、あのような事すら防ぐのが私達の役目。叱咤されてもよろしいのですよ?」

 悲しげに笑うお兄さん。怒られるのが当たり前のような事のように言うけど、お兄さんはホントに悪くないと思っているので本気で困る。

「……そのような顔をなさらないでください。神子様は本当にお優しいのですね」

 困ったのが顔に出ていたのか、お兄さんが俺の頬を撫でて、柔らかく微笑む。

 顔面が輝きすぎてもはや凶器。そんなに人に頬を撫でられるのだから俺の精神はキャパオーバー寸前だ。

「お、俺は普通……だと、思います」
「それを普通と言えるから優しいのですよ。神子様をお育てになったご両親は、実に素晴らしい方々だったんでしょうね」

 っ!俺だけじゃなく、両親までも誉めてきた!今世の両親だけでなく、前世の両親も誉められた気がしてすごく嬉しいような、恥ずかしいような……。

 視線を下げ、もじもじとしていると頭の上から小さく笑い声が聞こえる。うう……嫌な意味で笑われてるんじゃなく、微笑ましいという意味で笑われてるんだろうけど気恥ずかしい……。

「あ、あの!神官様のお名前は何て言うんですか!」

 強引な話題転換だと思うが、あの雰囲気が続くとさすがに耐えられない。

 輝く絶対的勝利な整った顔を心して見上げて言葉にすれば、お兄さんは虚を突かれたように目を見開き、ふわりと笑った。

 あぁああああ!顔が!顔が!美しすぎるぅうううう!

 俺の脳内がうるさいのを知ることもなく、お兄さんは口を開く。

「アオレオーレと申します」
「アオレオーレ……様」

 さっき駆けつけてきた神官護衛の人が呼んでいた気がするが、苗字ではなかったんだ……。不思議な名前である。だけど似合っている感じもする。神秘的なイケメンだから名前も神秘的に感じるのかな?

「呼びにくければレオーレでいいですよ」
「レオーレ様……」
「敬称もいりません。あなたは我らが神殿で神の次に尊い方なのですから」

 そう言われても困る。こちとら下男扱いの孤児兼、前世は事なかれ主義の日本人。ほぼ初対面の人に敬称なく呼ぶのは憚られる。特に推しに様付けする人種のオタクだったのでなおさらだ。

「……善処します」

 伝家の宝刀『善処します(答えはいいえです)』を繰り出しつつ、自分も名乗っていなかった事を思い出す。

「それと……俺は、ルカっていいます。神子様って言われるのは……なんか実感わかなくて……名前で呼んでもらえると嬉しいです」
「わかりました……ルカ様」

 穏やかな笑みを向けられ、心地のいい声で名前を呼ばれた事に対して意識が消し飛びそうになる。

 やばい。これはやばい。威力に換算すると好意的な推しに名前を呼ばれたのではないかと思うほどにやばい。

 推しに名前を呼ばれることを想像するなんて解釈違いだと思いながら、気がつけば俺は意識を失っていたのだった。
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