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神子は大神殿に到着する

十話

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「こ、ここが俺の部屋ですか?」
「ええ、そうですよ」

 親戚の家では部屋なんてなかったし、良くて物置や馬小屋暮らし。村の神殿では神官に与えられる部屋を貸してもらっていたけど、そこまで広くはなかった。

 だが、レオーレ様に案内された自室は広く、ベッドもダブルベッドと言えるほどに大きいし、ソファーにテーブル、書き物用の机、本棚などが備え付けられていてなお、余裕を感じる広さだった。

 また備え付けられているすべてが、内装にあった品のいい上質なものだとわかる。全体的なイメージとしては豪邸のリビングみたいなイメージだろうか……アニメや漫画とかである広すぎるワンルーム的なイメージの方が近いかもしれない。

 しかし、広い部屋っていうのは憧れるけどいざ住むとなると落ち着かないな……。

 レオーレ様に座るよう促されて、ソファーに座り世話役の人が訪れるのを待っていると、部屋の扉がノックされ、レオーレ様が俺の代わりに返事を返す。

「入れ」
「失礼します」

 扉が開いて、その向こうにいたのは小柄で赤髪と緑の眼の神官さんで俺の正面まで歩いてきた神官さんは深くお辞儀をして、笑みを浮かべた。

「はじめまして神子様。お世話係を務めさせていただきますリアンと申します」

 近くで見た神官さん……リアン様は頬に浮かんだそばかすがチャームポイントの活発ながらも優しそうな雰囲気の人で、笑うとすごく可愛かった。

「リアンは、私の乳兄弟で最も信頼している者です。従者としての経験も武術の心得もありますのでルカ様に不自由させる事はないでしょう」

 レオーレ様からの説明に俺の前でニコニコしているリアン様とレオーレ様へと交互に視線を向ける。

 高身長超絶美形のレオーレ様とそばかす地味可愛い系のリアン様が乳兄弟!?これは、腐男子的には美味しいポイントすぎるんだが!?

 なまもの的掛け算はいけないと思いつつ、それでも湧き上がる衝動は仕方がない。だが、それを口に出すのはタブー。必死に荒ぶる心を押さえつけて、俺は笑みを浮かべた。

「ルカです。よろしくお願いしますリアン様」
「リアンで構いませんよルカ様」
「えっと……じゃあ、リアンさんで……」
「リアンです。ルカ様は神子で私は世話役なのですから敬称は不要。もちろん、他の神官へも敬称はいりません。私達はあなたに仕える者なのですから」

 無難に振舞いたい日本人心をバッサリとリアンさんに否定される。でも、それだとレオーレ様やナザール様もダメなんだろうか。

「わかりました、リアン……。その、レオーレ様やナザール様も呼び捨てした方がいいのでしょうか?」

 俺からの問いにリアンさんが少し考えるようにレオーレ様へと視線を向けて口を開く。

「……アオレオーレ様とナザール様のお二人でしたら問題ないでしょう。ナザール様は大神官ですし、アオレオーレ様も大神官補佐兼審判官として大神殿の中でも位の高い方ですから。ですが、そのお二人すらルカ様は呼び捨てにできる地位にいることをご理解くださいね」
「はい」

 にこやかであるがリアンさん厳しい。でも、これくらいじゃないと平民としてのボロが出そうだからありがたくもあった。

「リアン、ルカ様はまだ環境に慣れていないのだから、大目に見てやってもいいだろう」

 レオーレ様の言葉にリアンさんが目を見開く。

「あなたがそのような事を言うことに驚いていますが……状況は違えど侮られる事への危険性を知っているあなたが言うべきではないでしょう?平民出身の神子として侮られ苦労するのはルカ様です。虚勢の一つ張れないでどうしますか」

 俺に対するレオーレ様のフォローもバッサリと切り捨てたリアンさん。強い。そして俺の時より容赦ない。これが乳兄弟として信頼しあっている者同士の距離感。尊い。

「それに、成人までは大神殿の中だけで過ごしますが、成人してからは貴族とも渡り合わなければなりません。それまでに貴族と渡り合える礼儀作法も学ばねばならないのですから甘やかしている余裕はありません」

 きっぱりと言い切ったリアンさんに内心うっ……っと、なる。リアンさんは成人してからと言っているがこの世界の成人は十八歳。しかし、学園入学は十六才。今の予定では成人まで大神殿にいる事になっているが、ゲームでの事を考えたらなんやかんやあって十六で貴族社会に出るのは確定的に明らかだ。

 それまでに貴族と渡り合える礼儀作法を身に着けるとなると神官への呼び捨てなんかで躓いている場合じゃない。

「アオレオーレ様が教育係に任命されたと聞きましたが、今の様子を見るにいささか不安ですので口を出させていただく所は出させていただきますね」

 圧の強いリアンさんからの断言にレオーレ様が罰が悪そうに視線を逸らす。あ、俺に甘い自覚はあったんだな。

 リアンさんに押されるレオーレ様がどこか可愛いなと思いながら俺は二人のやり取りを尊いと心の中で崇めていたのであった。
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