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十五歳、神子学園入学

二十八話

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 レオーレ様との接触がなくなり、お茶会が唯一の癒しとなってから月日が流れた。

 俺は明日、記憶の中に色褪せないまま残る原作の舞台へと入学する。

「落ち着きがないですね。ルカ様」
「だっ、だって!明日入学なんだもん!」

 シオンとの交友はあれど、レックスとの遭遇はあれだけだし、他の攻略キャラは未遭遇。

 正直言うと、シオンは耐性ついたと思うけど……それ以外の皆を見たら倒れる自信があるんだけど!?

 しかも、寮生活!

 リアンは、ついてきてくれるけど……うわぁああああ、神殿の外で暮らすの五年ぶりだから緊張するんだよー!

 前世で大学通うために実家出て一人暮らしする時とか、大学卒業して社会人になる時より緊張する!

 あーーーーー!神殿でぬくぬく五年も暮らしてたからだー!

 でもそれはそれ、これはこれとして、長年夢見てた学園に通うのも緊張するーーーーー!

 既に、入寮の手続きも終わっているし、個人的な荷物も搬送されている。

 俺は!明日の!馬車で!搬送されるのみ!

 楽しみだけど、不安すぎる!

 レオーレ様と長期休暇の間にしか会えないのも辛すぎる!

 リアンと一緒に来てほしい!

 でも、レオーレ様大神殿のトップ2だから仕事一杯で無理!

 ベッドの上でじたばたゴロゴロを繰り返す。

 うわー!不安ー!楽しみー!二つの心があっちこっちー!

「ルカ様。明日早いので、私もこれで失礼しますよ?寝不足で神子がクマ作ったまま舞台に上がるなんてないようにしてくださいね?」
「あー!それもあったー!」

 退室しようとするリアンからの言葉に新たな悲鳴を上げる。

 久しぶりの神子の学園入学。普段は、その時一番家柄の良い生徒が入学挨拶するんだけど、今回はそれに加えて俺も入学挨拶すんの!

 ゲームのスチルでは、これから攻略対象とのラブが始まる学園生活を象徴するスチルだし、主人公君の一枚絵ちぇ貴重だから大好きだったけど、俺がやるのは別!

 うわぁああああ!緊張するんだよーーーーー!

「ホントに寝不足にならないでくださいねルカ様」
「わかってる!」
「さようですか……それではおやすみなさい」
「……おやすみ、リアン」

 呆れた様子のリアンにおやすみと返せば、部屋に一人になる。

 うう……でも、本当にどうしよう……前日になったら不安で堪らない。

 一人になってからもゴロゴロと寝返りを繰り返し、時間ばかりが過ぎていく。

 ……いっそのこと、ちょっと散歩しようかな。

 今までずっとリアンが側にいたから一人でこの時間に外に出るのも初めてだけど……。

 自分が神子という存在ゆえに過保護に世話されていた事実を認識しながらベッドから降りて部屋を出る。

 廊下は暗く、中庭に面した回廊だから少し冷える。

 春の夜ってこんなもんだっけ……。

 そんな事を思いながら、廊下を歩き、礼拝堂の前を通りすぎようとした時……閉じた扉の内から光が漏れているのに気づいた。

 ……この時間でも明かりついてるんだ?

 この時間に散歩するのは初めてだったので礼拝堂の前で足を止める。

 ……明日以降の学園生活の無事を祈っても良いかもしれない。

 そんな思いで、礼拝堂の扉を開ければ、祭壇の前に見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 長い金髪に位の高い神官の身につける服を纏った姿……レオーレ様だ。

「誰だ……ルカ様?」

 扉を開けた音に気づいたレオーレ様が振り返り、俺に気づいて驚く。

「なぜでしょうこんな時間に出歩いているのですか。明日からは学園でしょう?」
「えっと、その……寝れなくて……散歩してたんですけど……礼拝堂に明かりがついてたから、少し祈っていこうと思って……」

 俺を心配するような声にしどろもどろになりながら答える。

 まさか、レオーレ様がいると思わなかったから。

「そうですか。では、こちらへ。祈り終わったら送っていきましょう」
「はい……ありがとうございます」

 柔らかく微笑み、自分の隣を示すレオーレ様に俺は頷き、その隣へと並ぶ。

 祈るように両手を合わせ、明日からの学園生活の無事を祈れば、俺の頭上に祝福の光が降り注いだ。

「やはり、ルカ様は神に愛されておいでだ」

 降り注ぐ光を見上げながらレオーレ様が微笑む。

「ありがたいことです。私みたいな孤児を慈しんでもらえて」

 レオーレ様と二人、キラキラと輝き消えていく光を浴びていると、なんとなくレオーレ様との関係を祝福されているようにも見える。

 ……ああ、やっぱりここに帰ってきたいな。

 ねぇ、神様。俺、学園でゲームのように結ばれなくてもここに帰ってきてもいい?

 レオーレ様やナザール様、リアンや他の神官達と過ごすのがやっぱり好きなんだ。

 そんな思いを、祈りとは別に考えていたはずなのに……。

「これは……」

 先ほどとは比べ物にならないほどの祝福の光が俺達へと降り注ぐ。

「ルカ様、いったいなにをお祈りになったのですか……」
「えっと……今のは……学園で、神子としての勤めを果たせずとも……ここに戻ってきていいかと……思っただけなんですけど……」

 神子として貴族に嫁ぐのが役目だと言われているのに、それを放棄したような思いに祝福を与えられた事を告げるのはどうかと思ったのだけど……自然と口から滑り出ていた。

「……神子として、失格かも知れませんけど……もし、私が……俺が、ここに帰ってきても……レオーレ様は受け入れてくださいますか?」

 レオーレ様見上げ尋ねるとレオーレ様は、驚いた後……柔らかく笑みを浮かべる。

「それがルカ様の選んだ道であるのなら、私は受け入れましょう」

 想いを告げた訳ではない。それでも、その言葉だけで嬉しくなった。

「よかった……嬉しいです」

 レオーレ様に笑みを浮かべれば、優しく頭を撫でられる。

 こうして触れてもらえるのも久しぶりだ。

「さあ、そろそろ部屋へ戻りましょう。体を冷やしてしまったら大変ですから」
「はい」

 頭を撫でていたレオーレ様の手が俺の背中へと移動する。

 服越しに感じるレオーレ様の体温。それだけで、なんだかよく眠れそうな気がした。
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