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十五歳、神子学園入学
三十話
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馬車の扉が開く。
しかし、外を見れない。呼吸が早くなる。
どうしようどうしよう。俺の死がそこにある。
「ルカ様、大丈夫です。降りましょう」
「ま、待って……もう、もうちょっと……ひゅっ……」
自分の顔が青ざめているのがわかる。でも、でも……降りないと。
「こら、いつまで待たせるんだ!」
「ひゅっ!?」
突然声をかけられて息が止まる。
だけど、聞き馴染んだ声と見知った顔が覗き込んでくるのを見て、ギリギリ倒れずに済んだ。
「……大丈夫か?」
やや怒ったような表情を浮かべていたシオンだけど、俺の今にも倒れそうな表情を見て、心配してくれる。
「緊張で死にそう……」
「縁起でもない事言わないでください……」
ぐったりとしながら答えれば、リアンに窘められてしまった。
「まったく……これから神子として代表挨拶も控えているんだからしゃっきりとしろ」
「わかってる……わかってるけどぉ……」
むしろそっちは大丈夫なんだ。問題は、シオン以外の攻略対象なんだ。
「とりあえず降りるぞ」
「いやぁあああ……!」
寿命が縮む!寿命が縮む!俺は、まだ!死にたくない!
そんな事を思いながらも、シオンに手を引かれたら、馬車を降りるしかない。
馬車を降りた先。そこは、講堂へ続くアプローチのような場所で、人は俺達しかいない。
その事にホッとしていたら、後ろから馬車の立ち去る音が聞こえた。
ひぃー!逃げ場所がー!
最後の砦を失った俺をシオンが手を繋いだまま先導し、俺はとぼとぼとついていく。
リアンも後ろから着いてきてくれているけど……ここからは貴族の世界だから、神官兼従者として一歩引いた立場になる。
何かあった時は、助けてくれるだろうけど……神殿の庇護から外れたと思うと不安しかなかった。
でも……ゲームでは、この道を一人で歩いていた描写だった気がするから、俺は恵まれているのかも知れない。
シオンもリアンも居るのだから。
「講堂の控室までは、案内してやるからそこからは頑張るんだぞ」
「うん……」
大人しい俺にシオンが励ますように言葉をくれる。
頑張る……大丈夫。大丈夫……。
そう念じながら足を進めた。
そして……。
「ひゅっ……」
講堂前に勢揃いしていた攻略対象に息を飲んだ。
「な!来たら駄目だって言ったのに!」
シオンが咄嗟に俺の視界を手で塞ぐ。
良かった。これ以上視界に入っていたら命に関わるところだった。
「そうは、言うけどね。第一王子である私が同学年となる神子様に挨拶をしないわけには、いかないだろう?」
「そうだけど……!レックスだけでも刺激が強いのに、他に三人もいたらルカが倒れるんだって!」
以前聞いた時より、低く落ち着きを得た声が耳に届く。
シオンとレックスが会話してるだけでも尊いのに……!り、リアルレックスの声だぁ……!
前世で何度もボイスを聞いた声が視界を塞がれた脳を擽る。
「ひゅっ……」
「ルカ様、落ち着いてください。息が止まっております」
「っ、はっ……! ひっ……、ぅ……!」
後ろからリアンに囁かれて呼吸する事を思い出す。
不恰好な呼吸になってしまったが、倒れるよりはマシ……だと思った。
「この人数ですら倒れそうになっている者に神子が勤まるのですか?」
「……気持ちは、わからなくもない」
「誰にでも得意不得意は、あるからなぁ」
倒れそうな俺に呆れる冷たい声と同意するようなボソボソ声。そして、苦笑しながらも明るい声が聞こえる。
ジェレミアだぁ……!エレノアとリッドもいるぅ……!
さっき一瞬見えた姿。
だけど、この声で推しが五人も同時に存在しているという事実に召されそうになった。
「ルカ様、お気を確かに」
「が、頑張る……」
深呼吸……深呼吸……。
シオンが身をていして、庇ってくれている内になんとか……なんとか覚悟を決めないと……!
「し、シオン……も、もう大丈夫……大丈夫……たぶん……」
「……不安しかないんだけど」
なんとか声を絞り出せるまでになったがシオンの声は、心配と呆れが半々だ。
「大丈夫……!それに……これ以上不甲斐ない姿晒せないし……」
すでに神子としての威厳は、地に落ちていると思うけど……それでも、挽回はね!出きるように頑張らないと!
「……わかった。じゃあ、手下ろすからね」
「うん」
瞼を閉じ、深呼吸。シオンの手が外れるのを感じてゆっくりと瞼を上げた。
「……醜態を晒して申し訳ございません。レックス様」
「久しぶりだね。神子殿」
視界には、輝かんばかりの笑みを浮かべるレックスの姿。
その後ろには、側近である宰相子息ジェレミア、騎士団長子息リッド、魔術師団長子息エレノアが並んでいる。
そして、俺の前には、心配そうに俺を見つめるシオン。
ゲームのスチルとは、ちょっと違うけどまさに推しのオンパレードです。
誠にありがとうございます。
今日が俺の命日だ。
「ルカ!?」
「ルカ様!」
気合いを入れたにも関わらずあっさりとキャパオーバーした俺の意識。
最後にリアンが支えてくれたのを感じながら意識を手放した。
しかし、外を見れない。呼吸が早くなる。
どうしようどうしよう。俺の死がそこにある。
「ルカ様、大丈夫です。降りましょう」
「ま、待って……もう、もうちょっと……ひゅっ……」
自分の顔が青ざめているのがわかる。でも、でも……降りないと。
「こら、いつまで待たせるんだ!」
「ひゅっ!?」
突然声をかけられて息が止まる。
だけど、聞き馴染んだ声と見知った顔が覗き込んでくるのを見て、ギリギリ倒れずに済んだ。
「……大丈夫か?」
やや怒ったような表情を浮かべていたシオンだけど、俺の今にも倒れそうな表情を見て、心配してくれる。
「緊張で死にそう……」
「縁起でもない事言わないでください……」
ぐったりとしながら答えれば、リアンに窘められてしまった。
「まったく……これから神子として代表挨拶も控えているんだからしゃっきりとしろ」
「わかってる……わかってるけどぉ……」
むしろそっちは大丈夫なんだ。問題は、シオン以外の攻略対象なんだ。
「とりあえず降りるぞ」
「いやぁあああ……!」
寿命が縮む!寿命が縮む!俺は、まだ!死にたくない!
そんな事を思いながらも、シオンに手を引かれたら、馬車を降りるしかない。
馬車を降りた先。そこは、講堂へ続くアプローチのような場所で、人は俺達しかいない。
その事にホッとしていたら、後ろから馬車の立ち去る音が聞こえた。
ひぃー!逃げ場所がー!
最後の砦を失った俺をシオンが手を繋いだまま先導し、俺はとぼとぼとついていく。
リアンも後ろから着いてきてくれているけど……ここからは貴族の世界だから、神官兼従者として一歩引いた立場になる。
何かあった時は、助けてくれるだろうけど……神殿の庇護から外れたと思うと不安しかなかった。
でも……ゲームでは、この道を一人で歩いていた描写だった気がするから、俺は恵まれているのかも知れない。
シオンもリアンも居るのだから。
「講堂の控室までは、案内してやるからそこからは頑張るんだぞ」
「うん……」
大人しい俺にシオンが励ますように言葉をくれる。
頑張る……大丈夫。大丈夫……。
そう念じながら足を進めた。
そして……。
「ひゅっ……」
講堂前に勢揃いしていた攻略対象に息を飲んだ。
「な!来たら駄目だって言ったのに!」
シオンが咄嗟に俺の視界を手で塞ぐ。
良かった。これ以上視界に入っていたら命に関わるところだった。
「そうは、言うけどね。第一王子である私が同学年となる神子様に挨拶をしないわけには、いかないだろう?」
「そうだけど……!レックスだけでも刺激が強いのに、他に三人もいたらルカが倒れるんだって!」
以前聞いた時より、低く落ち着きを得た声が耳に届く。
シオンとレックスが会話してるだけでも尊いのに……!り、リアルレックスの声だぁ……!
前世で何度もボイスを聞いた声が視界を塞がれた脳を擽る。
「ひゅっ……」
「ルカ様、落ち着いてください。息が止まっております」
「っ、はっ……! ひっ……、ぅ……!」
後ろからリアンに囁かれて呼吸する事を思い出す。
不恰好な呼吸になってしまったが、倒れるよりはマシ……だと思った。
「この人数ですら倒れそうになっている者に神子が勤まるのですか?」
「……気持ちは、わからなくもない」
「誰にでも得意不得意は、あるからなぁ」
倒れそうな俺に呆れる冷たい声と同意するようなボソボソ声。そして、苦笑しながらも明るい声が聞こえる。
ジェレミアだぁ……!エレノアとリッドもいるぅ……!
さっき一瞬見えた姿。
だけど、この声で推しが五人も同時に存在しているという事実に召されそうになった。
「ルカ様、お気を確かに」
「が、頑張る……」
深呼吸……深呼吸……。
シオンが身をていして、庇ってくれている内になんとか……なんとか覚悟を決めないと……!
「し、シオン……も、もう大丈夫……大丈夫……たぶん……」
「……不安しかないんだけど」
なんとか声を絞り出せるまでになったがシオンの声は、心配と呆れが半々だ。
「大丈夫……!それに……これ以上不甲斐ない姿晒せないし……」
すでに神子としての威厳は、地に落ちていると思うけど……それでも、挽回はね!出きるように頑張らないと!
「……わかった。じゃあ、手下ろすからね」
「うん」
瞼を閉じ、深呼吸。シオンの手が外れるのを感じてゆっくりと瞼を上げた。
「……醜態を晒して申し訳ございません。レックス様」
「久しぶりだね。神子殿」
視界には、輝かんばかりの笑みを浮かべるレックスの姿。
その後ろには、側近である宰相子息ジェレミア、騎士団長子息リッド、魔術師団長子息エレノアが並んでいる。
そして、俺の前には、心配そうに俺を見つめるシオン。
ゲームのスチルとは、ちょっと違うけどまさに推しのオンパレードです。
誠にありがとうございます。
今日が俺の命日だ。
「ルカ!?」
「ルカ様!」
気合いを入れたにも関わらずあっさりとキャパオーバーした俺の意識。
最後にリアンが支えてくれたのを感じながら意識を手放した。
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