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第一部:本編
107:一人前
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ヘルトさんと話しながら少しずつシチューを食べ、なんとか食べきる事ができた。
「よし、ちゃんと食えたな」
食べた事を褒められ、空になった器の代わりに水の入った水筒を渡された。
食事を取り、水も飲み、ほんの少しだけ体に力が戻った気がする。
ヘルトさんが器を外のソルに渡しているのを見ながらぼんやりしていると、戻ってきたヘルトさんが僕の腰を魔導義手で抱くように隣へと座った。
「少しは落ち着いたか?」
「……はい」
抱き寄せてくれるヘルトさんの首もとに寄りかかり、頬に触れるその温もりに甘える。
「エルツ」
しばらく甘えていると名前を呼ばれた。
「はい」
視線をあげるように体の向きを変えれば、ヘルトさんが優しい笑みを浮かべている。
「今日は本当に頑張ったな。もう誰が見ても文句のねぇ一人前だ」
「そう……でしょうか?」
「ロークさんからも皆にも褒められただろ」
そう言ってヘルトさんが笑う。
褒められたことは嬉しかったけど、実感はまだ薄い。
自分に自信がないってこれだから困る。
「で……だな。まあ、こんな日にいうのはどうかと思うんだが……お前に告白された日に俺が言った事覚えてるか?」
言いにくそうに、視線を彷徨わせながらも呟いたヘルトさんの言葉にあの日言われた言葉を思い出す。
『お前が一人前になるまでは性的な接触を控えようと思うんだ』
細部は違うかもしれないけど、そんな事を言われたはずだ。
その意味と今の言葉の意味に気づいて、頬が熱くなる。
「お前はもう子供じゃねぇ。自分で判断して、決断できるようになった」
ヘルトさんが僕の頬を撫で、微笑む。
「俺もいい加減覚悟するさ。お前が望むならなんだってしてやれる」
今までは、甘やかしてもらっても子供にするような親愛の域の触れ合いだった。
それ以上望んでも良いという言葉。
僕を人としても、冒険者としても認めてくれた言葉。
それを認識すると同時に、涙が溢れた。
「なっ、どうした!? 嫌だったか!?」
「いえ、いえ……嬉しくて……」
ヘルトさんは、僕の想いを受け取っていてくれてたけど、僕はヘルトさんにとって弟子で、子供でしかなくて、隣に並び立てる日は来るのかな……と、思う事もあった。
ヘルトさんに人としても認められた。大人として認めてもらえたのが嬉しかった。
「僕、一人前に……なれましたか?」
「さっきから言ってるだろ。誰から見ても、俺から見ても十分に一人前だ」
涙の伝う僕の頬をヘルトさんの指が撫で、唇が落ちてくる。
僅かに触れた唇が離れると同時にヘルトさんの視線と僕の視線が交わり、言葉もなく僕は目蓋を閉じた。
「っ……」
少し荒れた唇が僕の唇へと重なる。触れるだけのささやかなキスだったけど……初めてヘルトさんとキスをした瞬間だった。
目蓋を開き、ヘルトさんと見つめ合いながら言葉を囁く。
「ヘルトさん……好きです。大好き……」
「ああ、俺も愛してる」
ヘルトさん首に両腕を回し、抱きつけばヘルトさんも僕の体を両手で抱き締めてくれた。
この日、僕達は正しく本当の意味で想い合う関係になったのだと思った。
「よし、ちゃんと食えたな」
食べた事を褒められ、空になった器の代わりに水の入った水筒を渡された。
食事を取り、水も飲み、ほんの少しだけ体に力が戻った気がする。
ヘルトさんが器を外のソルに渡しているのを見ながらぼんやりしていると、戻ってきたヘルトさんが僕の腰を魔導義手で抱くように隣へと座った。
「少しは落ち着いたか?」
「……はい」
抱き寄せてくれるヘルトさんの首もとに寄りかかり、頬に触れるその温もりに甘える。
「エルツ」
しばらく甘えていると名前を呼ばれた。
「はい」
視線をあげるように体の向きを変えれば、ヘルトさんが優しい笑みを浮かべている。
「今日は本当に頑張ったな。もう誰が見ても文句のねぇ一人前だ」
「そう……でしょうか?」
「ロークさんからも皆にも褒められただろ」
そう言ってヘルトさんが笑う。
褒められたことは嬉しかったけど、実感はまだ薄い。
自分に自信がないってこれだから困る。
「で……だな。まあ、こんな日にいうのはどうかと思うんだが……お前に告白された日に俺が言った事覚えてるか?」
言いにくそうに、視線を彷徨わせながらも呟いたヘルトさんの言葉にあの日言われた言葉を思い出す。
『お前が一人前になるまでは性的な接触を控えようと思うんだ』
細部は違うかもしれないけど、そんな事を言われたはずだ。
その意味と今の言葉の意味に気づいて、頬が熱くなる。
「お前はもう子供じゃねぇ。自分で判断して、決断できるようになった」
ヘルトさんが僕の頬を撫で、微笑む。
「俺もいい加減覚悟するさ。お前が望むならなんだってしてやれる」
今までは、甘やかしてもらっても子供にするような親愛の域の触れ合いだった。
それ以上望んでも良いという言葉。
僕を人としても、冒険者としても認めてくれた言葉。
それを認識すると同時に、涙が溢れた。
「なっ、どうした!? 嫌だったか!?」
「いえ、いえ……嬉しくて……」
ヘルトさんは、僕の想いを受け取っていてくれてたけど、僕はヘルトさんにとって弟子で、子供でしかなくて、隣に並び立てる日は来るのかな……と、思う事もあった。
ヘルトさんに人としても認められた。大人として認めてもらえたのが嬉しかった。
「僕、一人前に……なれましたか?」
「さっきから言ってるだろ。誰から見ても、俺から見ても十分に一人前だ」
涙の伝う僕の頬をヘルトさんの指が撫で、唇が落ちてくる。
僅かに触れた唇が離れると同時にヘルトさんの視線と僕の視線が交わり、言葉もなく僕は目蓋を閉じた。
「っ……」
少し荒れた唇が僕の唇へと重なる。触れるだけのささやかなキスだったけど……初めてヘルトさんとキスをした瞬間だった。
目蓋を開き、ヘルトさんと見つめ合いながら言葉を囁く。
「ヘルトさん……好きです。大好き……」
「ああ、俺も愛してる」
ヘルトさん首に両腕を回し、抱きつけばヘルトさんも僕の体を両手で抱き締めてくれた。
この日、僕達は正しく本当の意味で想い合う関係になったのだと思った。
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