30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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30歳直前は狙われる

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「鞍馬さん、そういえば貴女って先週30歳になったんだっけ?」


 今日の昼食のは橘さんと2人で食べている。馬鹿男の話や仕事の話をしていたのだが、不意にそう問われた。……何気に心に矢が刺さる。

 30歳乙女には、年齢の話は繊細な話題なのだ。


「えー、まあ……はい。お陰様で無事大台に乗りまして」


 などと少しやさぐれながら返事をしてしまった。


「本当、無事で良かったわ。……ほら見て。またあったみたいよ。30歳直前で襲われたって人」


「…………え」


 そう言って橘さんは持っていたスマホのニュースを見せてくれた。どうやら最近起こっているある事件の事で純粋に私を心配してくれていたらしい。


 ……ここ最近、騒がれているあの『連続猟奇殺人』。……分かっているだけでこれで5件目、だろうか。


 初めの頃はただの通り魔事件だと思われていた。もちろんそれだって十分に恐ろしい事件なのだけど。
 ……しかし被害者はいずれも『30歳直前』の人物ばかりだったと分かってきたのだ。

 なので世の30歳直前の私達は戦々恐々としていたのだが。


「まあ、世の中の30歳直前が全員襲われてる訳ではないですからねー」


 と、一応明るく答えた。
 ……いや、結構怖かったし内心ヒヤヒヤしてたよ? ただ女性の30歳目前特有の悲しみに打ちひしがれていたからちょっと薄れかけてはいたんだけれど。


「それはそうなんだけどね。……狙われてる人の共通点がもう一つ出てきてるみたいで、それが『独身』ってことらしいのよね」


「……今の世の中30歳独身なんて既婚者より多いんじゃないんですかね?」


 これは言い過ぎか? 統計を取った訳ではない。


「まあそうかもだけど気を付けるに越した事はないからね。今の所狙われるのは『30歳直前、独身』……。
鞍馬さんはこの条件からは脱した訳よね、良かったわ」

「はい。……でも早く解決して欲しいですね」

「本当ね。……そういえば、健二君の家は鞍馬さんの家に近かったらしいわよ。送り迎えしてもらえばよかったわね」


 同じ部署の川東健二君、24歳。可愛い系の後輩。さっきも隼人を『アレ』呼びしたりと、何かとこちらの味方になってくれるとっても優しい子だ。


「え。いいですよー。健二君が可愛い彼女を連れてるとこ見た事ありますし、彼女に誤解させるような事したくないですしねー」


 私は笑って答えたが、それは本当に相手からしてみれば笑えない状況となってしまう。ただの同僚の送り迎えなんて普通はしないだろうから、誤解されてしまう。


「鞍馬さんは見た目20代半ばで可愛いし健二君と同い年くらいに見えるものね。確かに誤解されちゃうかしら」

「橘さん、煽てても何も出ないですよ?」

「あら。そのデザート狙ってたのにー」

「……仕方ないですねぇ。ひとつどうぞ」


 などとそんな風にその話は終わったのだけど。

 でも確かに不気味な話だ。
 とりあえず自分はその条件からは一抜けした訳だけど、またこれからも何処かでその被害者は増え続けるのだろうか。そしてその犯人は何が目的なんだろう。


 ……でも『30歳直前の独身』って……、まさか都市伝説『30歳で童貞だと魔法使い』と関係があったりするんだろうか? 
 直前で襲われるって事は『魔法使い』となる事を阻止する為って事? 

 ……まさかね。私もだけど、今時『30歳直前の独身』なんていくらでもちまたに溢れているのだから。


 ……うーん。よく分からないけど私の『魔法』でチャチャッと解決! って訳にはいかないかな?





「お疲れ様でした~」


 今日も無事に仕事を終え、私は会社をあとにした。ちなみに親友美沙とは部署も違うし終わる時間も違うので約束しない限りは一緒に帰る事は余りない。
 そして今日は同じ部署の人達もそれぞれ用事があるようで会社の玄関先でまたねと別れた。


 ……今日はニコニコマートでお肉の特売があるのよねー。

 私はウキウキしながらその食料品店へと向かう。あの店は自分の家へと帰るコースからは外れているのでいつもと違う道を通る。
 しかし少し前に私はそこに行く近道を発見していた。

 人気のない道だったから、先週までの30歳直前までの私は怖くて通れなかったが、立派な? 30歳となった今なら大丈夫!! そんな自信を持ってその人通りの少ない近道を歩いていた時だった。


「きゃああっ!!」


 ……女性の、叫び声が聞こえた。


 え!? と思って思わず声のした方を見る。


 するとその通りの脇道で、真っ黒な何かが1人の女性に襲いかかっているところだった。


 ッ!? 何アレ!?


「何してるのっ! やめなさい!」


 私は持っていた傘を握り締めついそう大声を出すと、その黒い何かがこちらに気が付いて振り向いた。初めは黒いマントかレインコートみたいな何かを被っているのかと思ったけれど、……アレは多分、モヤった黒い霧みたいなものだった。


 ……人間じゃない!? 

 そう気付いた私は『コレはヤバい!?』と思わず後退りした。
 しかしその黒い霧のような何かはこちらを無視してその女性に向かって鋭い爪のような物を振り翳した。


「ッ! 危ない!!」


 私は思わず持っていた傘をその黒い霧に目掛けて投げた。……確かに、命中したはずだった。


 しかし傘はその黒い霧の動きをほんの一瞬だけ鈍らせたようだが、その身体をすり抜けてしまったのだ。



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