30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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『闇』と金の瞳の青年

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「───え、嘘!?」


 確かに傘は命中したはず……! 私は思い切り動揺した。
 しかし女性は黒い霧の動きが一瞬鈍ったその隙にその鋭い爪から間一髪逃れる事が出来たようだ。

 ホッとしたのも束の間、黒い霧は女性に次の攻撃をくわえようとしていた。


 ……私は彼女を助けたい。だけど物も当たらないしおそらく人を呼んでいる時間もない……! 
 緊迫した状況に汗が滲む。


 どうする? ───ッそうだ魔法!!


 私は覚えたばかりの魔法を使う事を思い付き、焦る手を握り締め集中する。


「……ウィンド。あの黒い霧を吹き飛ばして!」


 ……ゴウッ!!


 突然風が吹き、あの黒い霧を吹き飛ばした。


 ……やった!!
 あの『黒い霧』をやっつけた!?


 私はホッとして笑顔になってもう一度前を見た。……が、霧散したはずの霧はだんだん集まり……また黒い塊が出来てきた。

 私はその現実離れした状況にゾクリとする。


 ……やっぱり、人間じゃない! いや傘がすり抜けた時点で分かってはいたよ!? でも魔法でも倒せなかったらいったいどうすればいい!?


 そしてその黒い霧はこちらを向いている……気がする。今度は私を標的にしようとしているのだ。
 あの女性は気を失ったのか倒れていた。無事だとは思うが今はそれを確認する余裕が無い。

 私は元の姿を取り戻し完全にこちらに敵意を向ける『黒い霧』を凝視した。


 ……はは。そうだよね。攻撃してきた方を……狙うよね……!

 ……これ、ヤバいんじゃない!?


 どくんどくん……と私の身体中が大きく鼓動を刻んでいるのを感じる。……あの『闇』。この『いやな感じ』。
 何故だろう、私この感じ……知っている気がする。

 そう思っている間にも、『黒い霧』はこちらに向かって来ようとしていた。……私は覚悟を決め拳を強く握りしめた。



 ……仕方ない、効くかどうか分からないけど次の魔法を……!


 そう思ったその時。

 ……後ろから人が走ってくる気配がした。


「……ッ避けろ!」


 聞こえて来たその声に反射的に慌ててしゃがみ込むと、光の矢のようなものが私の横をすり抜け黒い霧に命中した。


 ボンッ……サァー……


 光の矢に当たった黒い霧は霧散し、今度はそれは元に戻る事はなく消え去った。


 私はそれを茫然として見ていた。


 ……今のは……まさか『魔法』? 今の光の矢みたいなアレは、あのバケモノを倒す事が出来たの?


 先程私に避けるように言ってあの光の矢を放ったのだろう男性は、『黒い霧』が消え去ったのを見届けたあと前に倒れている女性の所に駆け寄っていった。

 そしてその女性の無事を確認するとこちらを振り返った。まだ茫然とその様子を見続けていた私と目が合う。


「……アンタは? 見たところ怪我はないようだが、アンタもアレに襲われたのか」


 20代半ばくらいの美しい男性。黒髪だが瞳は金色、だった。
 電灯の光だけの薄暗い中で何故か見えた彼の金の瞳が印象的だった。

 そしてその世にも珍しい金の瞳が私をしっかりと捉えていた。
 少し緊張しながらも口を開く。


「私は……、怪我はないです。襲われた、というよりその方が襲われている所に出会してついでに襲われかけたようなので」


 その男性はジッと私を見続けている。


「あの……さっきのはなんだったんですか? 傘を投げたんですけど身体をすり抜けてしまって……」


「アレに物的攻撃は通用しない」


 私の言葉を遮って、男性は一言冷たくそう言った。
 そしてふー、とため息を吐く。


「……アンタ、この事周りに言わない方がいいぞ。そもそも信じてもらえないだろうし、下手をすれば奴らに狙われるかもしれない」


「……『奴ら』?」


 私が問うと、その男性はふいっと顔を逸らした。


「……そういう詮索をすると危ないって事だ。何もしなければ多分アンタは襲われない。……忠告はしたぞ」


 そう言ってさっさと行ってしまった。


 『私は多分襲われない?』

 ……どういう事? 彼には私が見た目で30歳オーバーだって分かったという事? 私はどちらかというと若く見られる方なんだけどな……。しかも先週30歳になったばかり。そんなの分かる?

 どうやら年齢より上に見られたようなので、やはり余りいい気はしない。


 私は彼を追いかけようとしたけれど、ちょうど倒れていた女性が目を覚ました。

 私はその女性に怪我のない事を確認して、歩けるようだったのでそのまま近くの交番まで彼女を連れて行った。
 しかし私もそのまま警察から事情を聴かれる事になってしまった。

 その後慌ててニコニコマートに特売のお肉を買いに走ったのだったが……。

 ……お肉は売り切れだった。





 
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