6 / 97
『闇』と金の瞳の青年
しおりを挟む「───え、嘘!?」
確かに傘は命中したはず……! 私は思い切り動揺した。
しかし女性は黒い霧の動きが一瞬鈍ったその隙にその鋭い爪から間一髪逃れる事が出来たようだ。
ホッとしたのも束の間、黒い霧は女性に次の攻撃をくわえようとしていた。
……私は彼女を助けたい。だけど物も当たらないしおそらく人を呼んでいる時間もない……!
緊迫した状況に汗が滲む。
どうする? ───ッそうだ魔法!!
私は覚えたばかりの魔法を使う事を思い付き、焦る手を握り締め集中する。
「……ウィンド。あの黒い霧を吹き飛ばして!」
……ゴウッ!!
突然風が吹き、あの黒い霧を吹き飛ばした。
……やった!!
あの『黒い霧』をやっつけた!?
私はホッとして笑顔になってもう一度前を見た。……が、霧散したはずの霧はだんだん集まり……また黒い塊が出来てきた。
私はその現実離れした状況にゾクリとする。
……やっぱり、人間じゃない! いや傘がすり抜けた時点で分かってはいたよ!? でも魔法でも倒せなかったらいったいどうすればいい!?
そしてその黒い霧はこちらを向いている……気がする。今度は私を標的にしようとしているのだ。
あの女性は気を失ったのか倒れていた。無事だとは思うが今はそれを確認する余裕が無い。
私は元の姿を取り戻し完全にこちらに敵意を向ける『黒い霧』を凝視した。
……はは。そうだよね。攻撃してきた方を……狙うよね……!
……これ、ヤバいんじゃない!?
どくんどくん……と私の身体中が大きく鼓動を刻んでいるのを感じる。……あの『闇』。この『いやな感じ』。
何故だろう、私この感じ……知っている気がする。
そう思っている間にも、『黒い霧』はこちらに向かって来ようとしていた。……私は覚悟を決め拳を強く握りしめた。
……仕方ない、効くかどうか分からないけど次の魔法を……!
そう思ったその時。
……後ろから人が走ってくる気配がした。
「……ッ避けろ!」
聞こえて来たその声に反射的に慌ててしゃがみ込むと、光の矢のようなものが私の横をすり抜け黒い霧に命中した。
ボンッ……サァー……
光の矢に当たった黒い霧は霧散し、今度はそれは元に戻る事はなく消え去った。
私はそれを茫然として見ていた。
……今のは……まさか『魔法』? 今の光の矢みたいなアレは、あのバケモノを倒す事が出来たの?
先程私に避けるように言ってあの光の矢を放ったのだろう男性は、『黒い霧』が消え去ったのを見届けたあと前に倒れている女性の所に駆け寄っていった。
そしてその女性の無事を確認するとこちらを振り返った。まだ茫然とその様子を見続けていた私と目が合う。
「……アンタは? 見たところ怪我はないようだが、アンタもアレに襲われたのか」
20代半ばくらいの美しい男性。黒髪だが瞳は金色、だった。
電灯の光だけの薄暗い中で何故か見えた彼の金の瞳が印象的だった。
そしてその世にも珍しい金の瞳が私をしっかりと捉えていた。
少し緊張しながらも口を開く。
「私は……、怪我はないです。襲われた、というよりその方が襲われている所に出会してついでに襲われかけたようなので」
その男性はジッと私を見続けている。
「あの……さっきのはなんだったんですか? 傘を投げたんですけど身体をすり抜けてしまって……」
「アレに物的攻撃は通用しない」
私の言葉を遮って、男性は一言冷たくそう言った。
そしてふー、とため息を吐く。
「……アンタ、この事周りに言わない方がいいぞ。そもそも信じてもらえないだろうし、下手をすれば奴らに狙われるかもしれない」
「……『奴ら』?」
私が問うと、その男性はふいっと顔を逸らした。
「……そういう詮索をすると危ないって事だ。何もしなければ多分アンタは襲われない。……忠告はしたぞ」
そう言ってさっさと行ってしまった。
『私は多分襲われない?』
……どういう事? 彼には私が見た目で30歳オーバーだって分かったという事? 私はどちらかというと若く見られる方なんだけどな……。しかも先週30歳になったばかり。そんなの分かる?
どうやら年齢より上に見られたようなので、やはり余りいい気はしない。
私は彼を追いかけようとしたけれど、ちょうど倒れていた女性が目を覚ました。
私はその女性に怪我のない事を確認して、歩けるようだったのでそのまま近くの交番まで彼女を連れて行った。
しかし私もそのまま警察から事情を聴かれる事になってしまった。
その後慌ててニコニコマートに特売のお肉を買いに走ったのだったが……。
……お肉は売り切れだった。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる