30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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 ───次の日。
 仕事をしながら、私は昨日の特売のお肉を買えなかった悲しみと予定していたお肉を使った今週の食事メニューの変更を余儀なくされ頭を悩ませていた……。
 が、いやいや今はもっと考えるべき事があるだろう!


 ───昨日襲われていた女性、重鞍さんと少し話をする事が出来た。すると彼女も『30歳直前の独身』だと分かった。
 私は少し前から考えていた事から、『彼氏に連絡して来てもらったら』と失礼ながら言ってみた。すると彼女は『そんな男性は居ない、今までも彼氏がいた事はない』と苦笑して答えた。……つまり彼女も『30歳直前の処女』、という可能性が高い。流石に直接そんな事は聞けなかった。

 30歳独身処女の自分が魔法使いになった事といい、もしかして本当に『30歳まで童貞だと魔法使いになる』っていう都市伝説からそれに該当する人が狙われている? ……魔法使いを、増やさない為に?


 しかし『黒い霧』も金の瞳の男性にしても、その人が30歳独身なんてどうやって分かったんだろう? 
 その一人一人を調べてるんだろうか? ……日本中、世界中の人々を? しかも被害者は誕生日の少し前、1、2週間くらい前に狙われる事が多いようだ。しかし30歳直前は分かったとしても童貞かどうかまでは分からないのではないか? 何か、他の条件もあるという事なのかな。
 だって今のその条件に当てはまる人が全て襲われている訳ではない。だってそんな人は世の中ごまんと居るのだから。その中で今分かっているだけで事件の被害者は5人。

 
 ……というか、私も少し前まで『30歳独身』だったのに、狙われる事なく『魔法使い』になれちゃったんだよね。
 でも考えてみたら、本当に私は狙われていてもおかしくなかったんだ。


 ……ゾクリ。


 どういう原理で自分があの『黒い霧』の標的から逃れたのかは分からないけど、もしも襲われていたら魔法も使えない当時の私はあっという間にやられていただろう。
 ……というか、昨日だって結局は私の魔法で倒した訳ではない。


 ……あの金の瞳の青年。あの人は、いったい何者なんだろう? あの『光の矢』は、やっぱり魔法? 彼も私と同じような『魔法使い』なんだろうか。

 でも今考える『黒い霧に襲われる条件』。
 『魔法使い』になるには『30歳独身童貞』……だという事になる。

 ……あの、超美形が30歳まで独身で童貞!?

 イヤイヤイヤ……。ナイナイ。

 まず見た目が30超えてるように見えなかったし、若く見えるにしてもあの美形さでは今まで周りの女性が放っておいてはくれなかったはずだ。


 ……という事は、他にも『魔法使い』になれる条件があるのかな? もしくは元々が魔法使いの家系? 


 ───それにあの時、あのイケメンはどうして私のこと『多分襲われない』って言ったんだろう? 彼は一目で人の正確な年齢が分かる能力でも持っているんだろうか? ……それとも、私って実は結構老けて見えている!?



「───鞍馬さん、大丈夫?」


 私がパソコンを眺めながらうんうん唸っていたからか、心配した隣の席の橘さんが声を掛けてくれた。


「……あ。すみません、大丈夫です」

「そう? なら良いんだけど……。体調が悪いようなら言ってね」
 

 などと2人で話をしていると、係長から声が掛かった。


「鞍馬さん。……ちょっといいかな?」


「……はい?」


 そうして何故か私は係長にそのまま部屋の外へ連れ出され、2人してエレベーターに乗った。

 どこまで行くんだろう? と思って係長の顔を見たら、係長は言いにくそうに言った。


「───社長室からの呼び出しだ。済まないが私もなんの話か分からない」

「───へ」


 思わず間抜けな声が出た。


 ……私、社長からのお呼び出しが来るような事、何もしてないよね??


 ◇


 社長室をノックすると、開いた扉の中からは遠目でしか見たことのないまだ若い社長秘書の男性。


「鞍馬花凛さん、ですね。お待ちしておりました。……貴方は戻っていただいて結構です。案内ご苦労様でした」


 そう言ってアッサリと係長は帰された。


 私は縋るような目で係長を見たけれど、苦笑いを返された。
 ……まあ、社長室にいる人達に対して係長にどうにも出来るはずもないか。


「失礼いたします」


 私は開き直って部屋の中に入り、中を見ると───。



「お久しぶりです! 鞍馬花凛さん。
私、隼人さんの元妻、咲良です!」


「…………え?」


 社長室に呼び出された私を明るく出迎えたのは、同僚隼人の元妻。西園寺咲良22歳。
 ……私が出来れば会いたくなかった人だ。


 ニコニコと機嫌良く私を迎える意味が分からないし、咲良さんのその立ち位置がおかしい。


 社長室の奥にある社長の為の立派な机と椅子。平社員には滅多にお目にかかる事のない社長の、その隣に彼女は立っていた。


 ……この人って、本当にうちの社長の身内なのかもしれない!


 私の頭に危険信号が灯った。




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