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認めませんから!
しおりを挟む「……えーと、杉沢隼人さんと同じフロアにいる鞍馬花凛です。確かに彼とは同期ですが、西園寺さんとは余り関わりは無かったですね」
何と言ってもこの西園寺咲良さんが同じ職場に居たのは僅か3ヶ月。その間ずっと隼人にべったりだったから、多分他のメンバーともそんなに関わりはなかったんではなかろうか。
「……ふふ! そーでしたね。でも私は鞍馬さんの為に一生懸命だったのにぃ、そんな薄情な事言わないで欲しいです!」
うん? 私の為??
私が「?」な顔をしていると、やっとこの部屋の主が声を出した。
「……お嬢様。それでは鞍馬さんが訳が分からないでしょう。きちんと説明して差し上げてください」
「……はーい、おじさま」
───やっぱり創業者一族か!
……いやもしかするとコレは私が責められるパターン?
隼人と咲良さんが別れたのは、実は隼人が私の事を好きだったからとか!?
いやいやそれは自意識過剰!?
でもここで私が『隼人の元妻』に呼び出される理由はそれしかないんじゃない!?
私はかなり混乱していた。
でも、本当に私は隼人とはあくまでも友達の域を超えてはいないんだよー!?
むしろ『友達以上恋人未満』状態だった隼人を奪われたのは私の方……。いや、今更恨んでなんていないけどね!
でもそれでこっちが恨まれるのは余りにも理不尽だよ~!
「鞍馬さんはぁ、私に感謝するべきだと思いますよー? だってあの男と一緒にならずに済んだんですからー」
「へ」
なんだか間抜けな声を出してしまった。
……なんじゃそら。
では咲良さんは『隼人の魔の手』から私を守ってくれたと? 自らの身を挺して?? 隼人ってそんなに悪人だったのだろうか?
私は更に「?」の顔をしていたと思う。
「ん~、だからぁ!」
咲良さんはまるで物分かりの悪い小さな子供にきちんと物事を教えるように、分かりやすい言葉を考えながら話しているようだった。
「あのままだったらぁ、鞍馬さんは隼人如きの手に落ちて純潔を失っていたでしょー? せっかくもうすぐ目覚める時が来るっていうのに!」
「ッへ!?」
オイオイオイオイ……!
何言ってくれちゃってる?? 今の、凄い爆弾発言だからね!?
ここには一応うちの社長とその秘書が居るんだよ?
それなのに、私の純潔というトップシークレットを! どうなってるんだ、個人情報保護の権利は!
そもそも、なんで私が純潔だって事を知っている!?
それに『目覚める』って……、やっばり『魔法』の事、だよねぇ? ……なんでそれをこの人達が?
私は大混乱だったが、次第に怒りが湧いてきた。
この人達がどこまで何を知っているかは知らないけれど、だからって私の人生を勝手に振り回す権利なんてないはず!
……よし決めた!
私は断固として『それ』を認めない!
「ねー? せっかくここまで大事にして来たのに、今更あの程度の男に純潔をあげて台無しにされるなんて勿体なさ過ぎるでしょー!? だから私が一肌脱いだのよ! ……ねー? 私に感謝するでしょ?」
咲良はドヤ顔でそう言い続けた。
「……いいえ。最初の時点から違ってます。そもそも私の純潔云々の話は個人情報として否定も肯定もしませんが、そういった話は確実にセクハラになるかと思うのですが」
私がそう言うと、咲良は『何言ってんだ?』って顔をして答えた。
「えー? そんな大袈裟な話じゃないでしょー? しかも私は貴女を守ってあげたのにー? 酷くないー?」
「酷いのはそちらです。……この話を外部に話したらおそらく十人中十人はセクハラの疑い有りとなると思います。しかも自分の職場の社長もいらっしゃる前でそんな話を……、会社ぐるみのセクハラと考えていいですか?」
流石にコレには昨今のコンプライアンスの厳しい世間を知る社長は慌てたようだった。
「ちょっと待ちたまえ! 君は咲良お嬢様がしてくださったご恩を仇で返すと言うのかね!? 何と恩知らずな!」
……コンプライアンスとは違ったようだ。どうやら社長はこのお嬢様を守りたい一心らしい。
社長にまでこんな事を言われて私はかなり驚いた。しかしこんな話をあちこちでされては敵わない!
一応自称女子力高めでいい感じで通ってる(ハズ)なんだから!
それにもう過ぎた事とはいえ、何が悲しくて好きかもと思っていた人を目の前で掻っ攫われ結婚した女性に感謝しろと? そしてどうして純潔云々の話まで人様の前で晒されなければならんのだ!
私は絶対に魔法の事は話さないと固く決意しながら彼らを見た。
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