12 / 97
本家からの呼び出し
しおりを挟む私はその可能性に驚きながら、髪を乾かし部屋へと戻る。
「あ、お母さん。お先にお風呂もらったよー」
「あらそう。お父さん達帰ってるから夕ご飯食べましょうか」
「はーい!」
実家の有り難い所は、上げ膳据え膳なところだ。お風呂もご飯も用意されている。勿論手伝う時は手伝うけれどね。
そして両親と弟妹と夕ご飯をいただく。
すると父が少し言いにくそうに口を開いた。
「……花凛。お前が帰ってると聞いて本家の大奥様から会いたいと連絡をいただいているんだ」
「え。どうして?」
鞍馬家の本家。この地域の古くからの大きな旧家。そして我が家はその分家の分家の分家。
もはや同じ『鞍馬』を名乗るのも烏滸がましい程離れているのだが、昔から鞍馬家は年に一度は一族で集まる事になっていた。この街は『鞍馬の街』と言われるほど一族が多い。
しかも我が家は分家の末席ではあるが、正確に言えば二代前にその血は途切れている。
父は元々仕事の為にこの鞍馬の街にやって来てこの家の一人娘と恋愛し婿養子となった。その後その妻は若くして亡くなってしまったが、父と老いた義両親との仲は良好で2人を置いて家を出る事が出来なかった。
数年後新たに母と出会い再婚を決めた父だったが義両親からこのままこの家に残るよう願われたのだ。義祖父母にはその後生まれた私達も本当の孫のように可愛がってもらったのだが。
だから我が家は一応その名を名乗ってはいるものの血は繋がっておらず、本来は『鞍馬家』とは言い難い。
別にそれはいいのだけれど、『鞍馬家』の集まりなどは参加せねばならず多少肩身は狭かった
そんな訳で本家の大奥様には歯牙にもかけてはもらえていなかったはずなのだが……、はて?
「我が家ってハリボテの『鞍馬家』よね? それなのにどうして?」
私は大学進学の為に家を出てからそのままずっと一人暮らし。今までも帰省はしていたけれどこんな『お呼び出し』はなかった。
「うーん、本家の方の考えはよく分からんからなぁ」
「えー? 姉ちゃんだけ? それって俺たちは行かなくていい訳?」
「そうよね、花凛姉が行くなら私達も……」
「お前たちは仕事と大学があるだろう。最近忙しいって言ってたんじゃなかったのか?」
父はスッパリと2人にダメ出しをしたが、弟と妹はかなり不服そうにしていた。……実は2人は結構なお姉ちゃん子である。
かくいう私も歳の離れた弟と妹が可愛くて仕方がない。……ずいぶん昔に身長は追い越されているけどね!
「まあ本家の方々にはこんな末席で血の繋がりがないと分かっている我が家も一族として加えてくださって、そのお陰で我が家も多大な恩恵がある訳だからな。花凛の顔が見たいと仰ってるんだから、ご挨拶だけでもして来なさい」
『鞍馬家分家』として扱ってもらっているお陰でこの田舎街のコミュニティで我が家はそれなりの立場で守られているし、何かあれば助けてもらっている。それは今まで有り難いとしか思っていなかったが……。
───しかし。……もしかしてもしかしてもしかすると。
……コレ、私の『魔法使い』になった件と何か関係があっちゃったりなんか、するんだろうか?
◇
ドドーン!
ザ・田舎の旧家! まあなんて立派な門構えなんでしょう!
……やって来ました、『鞍馬家』本家。鞍馬花凛、30歳。
私は意を決して門の前のインターホンを押して名乗る。するとすぐに人が出て来て丁重に招き入れられた。
……美しい日本家屋で手入れの行き届いた、とっても広い立派なお屋敷。磨き上げられた美しい廊下は走ると滑って転びそうだ。
年に一度、結構な人数の一族全員が入れる大きさのお屋敷だものねぇ。まあ、その中で我が家は末席なんでお邪魔するのは離れなんだけど。
母屋に入るのは、最初の挨拶の時だけ。こうやって一人で入るのは初めてかもしれない。
などと考えていると、美しい日本庭園の見渡せる部屋に通された。お茶を出されて待つ事しばし。
「……よく来たね、花凛」
そう言って入って来たのは年齢不詳の厳格そうな女性だった。
───鞍馬家当主、鞍馬八千代。
若い時は相当な美人だったんだろうと分かる、その凜とした姿。今もそんじょそこらの同年代には負けていないだろう。女性の年齢を尋ねるのは失礼だが、彼女の孫は私と同年代、ご長男は確か二、三年前に60歳の祝いをされたと記憶している。
「八千代様。ご無沙汰いたしております」
私はそう言って礼をする。
……子供の頃からの刷り込みか、かなり緊張している。
「ああ、本当にね。高校を卒業してそのままだから12年ぶりくらいかい? 随分と垢抜けて綺麗になったじゃないか。小柄なのは変わらないけどねえ」
八千代様はそう言って興味深そうにジロジロと私を見た。
私の周りはすらっとした美人さんが多かった。私の弟や妹もそうで両親もそこそこ長身の美形。小柄なのは私だけで、亡くなった母方の祖母もそうだったとは聞いたけどかなり疎外感はあった。
だからこそ、そのコンプレックスから女子力を磨き実際かなり上げる事が出来たとは思っているんだけど!
「……10年ほど街に居ましたし、まあそれなりには」
「それなのにいい人は出来なかったのかい」
おおっと! 八千代様から鋭いパンチが飛び出したよ!
「……まあそういうのは縁というのもありますし、まだ結婚というものにそれ程興味がないのもありますし」
……嘘です。結婚には凄く興味はあるけど、相手が見つからないだけです!
私の下手な言い訳を聞きながら、八千代様はニヤリと笑った。
「何も責めてる訳じゃない。……むしろよく純潔を守り抜いたと褒めちぎりたいくらいだよ。……目覚めたんだろう? ───『力』に」
「…………は?」
やはりこの『呼び出し』は、『魔法使い』関連の事らしい。
私は少し冷や汗をかきながらも、冷静を装って八千代様を見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる