30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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本家からの呼び出し

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 私はその可能性に驚きながら、髪を乾かし部屋へと戻る。


「あ、お母さん。お先にお風呂もらったよー」


「あらそう。お父さん達帰ってるから夕ご飯食べましょうか」


「はーい!」


 実家の有り難い所は、上げ膳据え膳なところだ。お風呂もご飯も用意されている。勿論手伝う時は手伝うけれどね。

 そして両親と弟妹と夕ご飯をいただく。
 すると父が少し言いにくそうに口を開いた。

 
「……花凛。お前が帰ってると聞いて本家の大奥様から会いたいと連絡をいただいているんだ」

「え。どうして?」


 鞍馬家の本家。この地域の古くからの大きな旧家。そして我が家はその分家の分家の分家。
 もはや同じ『鞍馬』を名乗るのも烏滸がましい程離れているのだが、昔から鞍馬家は年に一度は一族で集まる事になっていた。この街は『鞍馬の街』と言われるほど一族が多い。


 しかも我が家は分家の末席ではあるが、正確に言えば二代前にその血は途切れている。
 父は元々仕事の為にこの鞍馬の街にやって来てこの家の一人娘と恋愛し婿養子となった。その後その妻は若くして亡くなってしまったが、父と老いた義両親との仲は良好で2人を置いて家を出る事が出来なかった。
 数年後新たに母と出会い再婚を決めた父だったが義両親からこのままこの家に残るよう願われたのだ。義祖父母にはその後生まれた私達も本当の孫のように可愛がってもらったのだが。

 だから我が家は一応その名を名乗ってはいるものの血は繋がっておらず、本来は『鞍馬家』とは言い難い。

 別にそれはいいのだけれど、『鞍馬家』の集まりなどは参加せねばならず多少肩身は狭かった

 そんな訳で本家の大奥様には歯牙にもかけてはもらえていなかったはずなのだが……、はて?


「我が家ってハリボテの『鞍馬家』よね? それなのにどうして?」


 私は大学進学の為に家を出てからそのままずっと一人暮らし。今までも帰省はしていたけれどこんな『お呼び出し』はなかった。


「うーん、本家の方の考えはよく分からんからなぁ」

「えー? 姉ちゃんだけ? それって俺たちは行かなくていい訳?」

「そうよね、花凛姉が行くなら私達も……」

「お前たちは仕事と大学があるだろう。最近忙しいって言ってたんじゃなかったのか?」


 父はスッパリと2人にダメ出しをしたが、弟と妹はかなり不服そうにしていた。……実は2人は結構なお姉ちゃん子である。
 かくいう私も歳の離れた弟と妹が可愛くて仕方がない。……ずいぶん昔に身長は追い越されているけどね!


「まあ本家の方々にはこんな末席で血の繋がりがないと分かっている我が家も一族として加えてくださって、そのお陰で我が家も多大な恩恵がある訳だからな。花凛の顔が見たいと仰ってるんだから、ご挨拶だけでもして来なさい」


 『鞍馬家分家』として扱ってもらっているお陰でこの田舎街のコミュニティで我が家はそれなりの立場で守られているし、何かあれば助けてもらっている。それは今まで有り難いとしか思っていなかったが……。


 ───しかし。……もしかしてもしかしてもしかすると。


 ……コレ、私の『魔法使い』になった件と何か関係があっちゃったりなんか、するんだろうか?


 ◇


 ドドーン!

 ザ・田舎の旧家! まあなんて立派な門構えなんでしょう!


 ……やって来ました、『鞍馬家』本家。鞍馬花凛、30歳。

 私は意を決して門の前のインターホンを押して名乗る。するとすぐに人が出て来て丁重に招き入れられた。

 ……美しい日本家屋で手入れの行き届いた、とっても広い立派なお屋敷。磨き上げられた美しい廊下は走ると滑って転びそうだ。

 年に一度、結構な人数の一族全員が入れる大きさのお屋敷だものねぇ。まあ、その中で我が家は末席なんでお邪魔するのは離れなんだけど。

 母屋に入るのは、最初の挨拶の時だけ。こうやって一人で入るのは初めてかもしれない。


 などと考えていると、美しい日本庭園の見渡せる部屋に通された。お茶を出されて待つ事しばし。


「……よく来たね、花凛」


 そう言って入って来たのは年齢不詳の厳格そうな女性だった。


 ───鞍馬家当主、鞍馬八千代。

 若い時は相当な美人だったんだろうと分かる、その凜とした姿。今もそんじょそこらの同年代には負けていないだろう。女性の年齢を尋ねるのは失礼だが、彼女の孫は私と同年代、ご長男は確か二、三年前に60歳の祝いをされたと記憶している。


「八千代様。ご無沙汰いたしております」


 私はそう言って礼をする。
 ……子供の頃からの刷り込みか、かなり緊張している。


「ああ、本当にね。高校を卒業してそのままだから12年ぶりくらいかい? 随分と垢抜けて綺麗になったじゃないか。小柄なのは変わらないけどねえ」


 八千代様はそう言って興味深そうにジロジロと私を見た。

 私の周りはすらっとした美人さんが多かった。私の弟や妹もそうで両親もそこそこ長身の美形。小柄なのは私だけで、亡くなった母方の祖母もそうだったとは聞いたけどかなり疎外感はあった。
 だからこそ、そのコンプレックスから女子力を磨き実際かなり上げる事が出来たとは思っているんだけど!


「……10年ほど街に居ましたし、まあそれなりには」

「それなのにいい人は出来なかったのかい」


 おおっと! 八千代様から鋭いパンチが飛び出したよ!


「……まあそういうのは縁というのもありますし、まだ結婚というものにそれ程興味がないのもありますし」

 
 ……嘘です。結婚には凄く興味はあるけど、相手が見つからないだけです!

 私の下手な言い訳を聞きながら、八千代様はニヤリと笑った。


「何も責めてる訳じゃない。……むしろよく純潔を守り抜いたと褒めちぎりたいくらいだよ。……目覚めたんだろう? ───『力』に」


「…………は?」


 やはりこの『呼び出し』は、『魔法使い』関連の事らしい。


 私は少し冷や汗をかきながらも、冷静を装って八千代様を見つめた。


 
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