30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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南家にて

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「───よく来てくださいました。花凛様。本来はこちらから伺うべきなのですが、そうすると何かと人目につきますのでご容赦ください」


 南家当主夫妻はにこやかに花凛を迎えてくれた。応接間に案内され奏多と花凛は机を挟んだ南家夫妻の前に座る。


「いえ。なにかとお気遣いしていただきましてありがとうございます。あの、奏多さんのこと……わざわざあちらにまで来ていただいてよろしかったのですか?」


 花凛は奏多から両親の了解を得ていると聞いているし、瑞季からも奏多の暴走の件から『花凛至上主義』になっていると聞いてはいる。しかしあれから直接会うのは初めてで少し心配になって尋ねた。


「勿論です! むしろ花凛様のお手を煩わすような事になってはいないかと心配しておりました。奏多はお役に立てておりますでしょうか?」


 奏多への心配は、そういう意味での心配だったのか。


「大変心強いのですが、奏多さんには本来の仕事や生活があったのではと心配しておりまして……」

「そんな事は一切ございません。花凛様、何度も申し上げましたが、私は自らの意思で貴女様をお支えする決意をいたしております」


 奏多が花凛の言葉を遮るようにそう言ってニコリと笑った。
 両親の前だからかいつもと違って敬語で、なんだか少し居心地悪くてそんな彼に苦笑いをする。


「そうですぞ。そして今日は花凛様がこちらにお帰りになったと聞き、奏多がしっかりお役に立てているかという事と何かご不便な事がないかお尋ね致したく……」


 今回のお呼び出しは、そういう事らしかった。……しかしなんだかんだ言って、息子奏多がしっかりやっているかを確認したかったようで、この親子の良い関係性に花凛は少しホッとした。


「奏多さんには今回早速こうしてこちらまで送っていただきました。祖父の危篤の知らせに動揺する私を支えてくださりとても心強い思いでした。ご配慮ありがとうございます」


「おお、そうでございましたか! お祖父様は心配な事でしたが、今体調は上向いているとお聞きしました。ようございましたな」


 そうして暫く歓談をした後、その様子を穏やかに見ていた百合が口を開いた。


「ところで、今日はどうして本家へ? 奏多からの連絡では至急母に報告しなければならない事があると聞いたのだけれど……?」


 花凛の祖父の病院から本家に行く時に南家から車を手配してもらっていた。あの時は急いでいたから奏多は詳しくは説明していなかったのだろう。

 奏多はチラリと花凛を見てから、八千代様に話したのとほぼ同じ事を説明した。


「『癒しの魔法』……」


 南家当主夫妻も、それを聞いて言葉を失った。


「いえあの、それは本当におまじないのようなもので……」


 花凛も八千代の時と同じ説明をしたのだが、やはり返ってきたのは同じような反応だった。そして……。


「花凛様。しかしそれは鞍馬一族の誰も出来ぬこと。
───ああ……。やはり花凛様はあの治仁様のご息女であられる。次期本家当主となられるに相応しいお方……」


 南家当主勝治はそう言って感極まって目頭を抑えた。


「勝治様!? いえ私はそのような立場になるつもりは毛頭ございません! そういう事はやりたい方がされればいいと思います。私は陰で支えさせていただく方が合っていますので!」


 コレが瑞季の言っていた『花凛至上主義』! 
 花凛はそう慄きながらこのままでは勝治は本気で当主候補として推してきそうなので、こちらも本気で辞退しておく。


「何を仰いますか! ああ、そんな控えめなところも治仁様になんとよく似ておられることか……!」


 ……どうやら父治仁も元々当主になりたい訳ではなかったようだ。
 自分の知らない父治仁。……いったいどんな人だったのだろう。


「───あの。……治仁さんは、どういった方だったのですか? 私は八千代様から出生の秘密を聞いた時に初めてその存在を知っただけで、どのような人でどういう事情があったのか、よく知らないのです」


 出生の秘密を聞いてから、誰にも詳しくそれを聞く事は出来なかった。今の家族が大事で聞く必要もないと思ったからでもあるが……。聞ける人も居なかった。今の家族を知る三郎太先生にも聞く事が出来なかった。


 南家の3人はその言葉を聞いた途端、少ししんみりとした。花凛のその事情を察してくれたのだろう。


「治仁兄様は、とても優しい兄だったわ。篤之兄様は当主後継となるべく妹相手でも警戒していたけれど、治仁兄様は子供の頃からよく遊んでくれた。鞍馬の掟も守っていたけれど、それは当主になりたいからではなかった。
……でも勝治さんや周囲の人達は治仁兄様に次期当主となって欲しかったの」


「───私は幼い頃から治仁様の才覚に惚れ込み、この人こそが次の鞍馬家の御当主になられる方だと、そう信じておりました。
だからこそ、あの女……失礼、花凛様のお母上を許せなかった」


 勝治は慌てて訂正したが、花凛はそれほど父治仁に惚れ込み次期当主になるのを夢見ていた勝治がその願いを結果打ち砕いた母アオイを憎む気持ちは理解出来た。


「勝治様。……そうですよね、治仁さんはアオイさんと出会ったことで勝治様や八千代様のお気持ちも、そして婚約者の事も裏切ったのですよね……」


 少し俯いた花凛を見て、勝治は親の事を酷く言ってしまった事を悔やむ。


「……いや、申し訳ない。しかし、私は元々楓殿の事も好ましくは思っていなかったですから……、ああ『楓』というのは治仁様の元婚約者ですよ。彼女は治仁様より一つ年上で、何というか……かなり我儘でね。特に先に『力』を手に入れてからは、『自分の方が当主に相応しい』などと言い出すような厚かましい女で」


 勝治は花凛に謝罪しつつ、当時の治仁の婚約者の事を語る内に少し怒りの表情を見せた。


「……私も楓さんは苦手だったわ。本家の娘の私より本家に嫁ぐ自分の方が上だという態度だったわ。お母様達にはいい顔をしていたみたいだけど」


 勝治の言葉に百合も続いて言った。南家の2人には治仁の婚約者だった楓という女性はあまり良い印象ではなかったらしい。


「そういえば……。あの頃治仁様は困っておられた。『楓が自分の力の強さを示す為に何かをしようとしているようだ』と」


 不意に当時のことを思い出したのか、勝治が記憶をなぞるように話し出した。
 彼にとってその頃のことは人生を変える程の出来事だったから、今まで余り思い出さないように記憶に蓋をしていたのだろう。




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