30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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本家の大地

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「……綺麗ね」


 花凛と奏多は鞍馬本家の当主の間から出た長い渡り廊下から、美しく整えられた庭園を眺める。


「そうだな。…………花凛。八千代様の言うことは間違っていない。……このままだと花凛は奴らに狙われる事になる。本来ハグレ鞍馬の目的は力のある者を自分達の仲間に引き込む事のはずだ。しかしハグレ内で考えの違う者もいるようだし危険だ」


 ……奏多や八千代の言いたいことは分かる。花凛の安全を考えての事なのだ。
 けれど、花凛には佑磨との約束がある。
 

「奏多さん、でも私……」

「───あれ? 奏多兄さん! 来てくれてたの?」


 快活な青年の声が彼らを呼び止めた。


「───大地」


 現れたのは本家の長男篤之様の次男、大地。つまり花凛と奏多のイトコである。……しかし大地は花凛がいとこだということを知らないが。

 花凛は思わず頭を下げた。


「あれぇ? 奏多兄さん、もしかして婚約者が出来たの? お婆様にその挨拶?」


 大地はにこやかに奏多と花凛に近付いてきた。本家は大地の家なのだから居て当然なのだが、今までは八千代が彼らの居ないタイミングで家に招いてくれていたのだろう。


「……!? 奏多兄さん、この人って……。
もしかして噂は本当だったの?」


 大地は花凛が誰であるかに気付くと分かり易く不機嫌になった。
 大地のその様子に奏多もピクリと反応した。


「───噂?」


「……奏多兄さんと東の一之さんが鞍馬の末席のつまらない女を取り合ってるって馬鹿げた噂だよ。───2人とも正気なの? 鞍馬の血を薄める行動はやめて欲しいな」


 え。その噂って、本家の人の耳にも入るほど広まっているの!?
 2人の美青年に取り合われる女……! いや、全くそんなキャラじゃないんだけど!

 
 花凛がモヤモヤしていると、大地に強く睨まれる。


「奏多兄さん程の人が、この女なの? 女性の趣味、どうかと思うよ?」


 うわ、きっつー!!

 一つ年下の大地様は高校まで一緒で存在は知っていたけど、大人しい美少年という印象しかなかった。まさかこんな猛毒を吐くタイプだったとは。


「大地! お前失礼が過ぎるぞ!」

「こんな女に失礼したところでなに? それにまさかお婆様に会って来たの? ……そういえば少し前にも来てたらしいね。もしかしてお前、正樹兄さんも狙ってる?」


「は?」


 おっと、思わず顔を顰めて声出しちゃった。

 だって絶対にあり得ないんだもの。


「だってお前は確か学生時代から正樹兄さんを誘惑してただろ? そのせいで正樹兄さんは道を踏み外して……」


 大地はかなりイライラした様子で言ってきたけれど、そこだけは否定したい!


「ええええー! ちょっと待ってください! それはない! 絶対ないですからー!」

「おい大地! 確かに正樹は花凛の事好きだったみたいだけど、コイツ全力で逃げてたからな! それだけは違うぞ」


 奏多も花凛に加勢して大地に詰め寄った。

 
「奏多兄さん……! こんな女に味方するなんて……。やっぱりお前は碌でもない女だ! 絶対お前を許さないからな! 僕が当主になったらお前をこの鞍馬の里から追い出してやる!」


 ……今、八千代様から鞍馬の里に戻るよう言われたところなのに、孫の大地様からは追い出すって言われちゃったよ! ……どーする? 
 あちらに行くのはいいけど家族に会えないのは困る。それに今戻ると八千代様達の言う通り狙われてしまうのだとしたら───


「───大地。いい加減にしろ。お前にそんな事を決める権利はない。それに一時の感情でそんなに揺れ動くようでは当主として大局を見てやっていけないぞ」


 奏多が大地に言った。花凛が隣に立つ奏多を見ると静かな怒りを感じる。いつも花凛には怒ったりふざけたりと感情を露わにするが、世間的には穏やかで冷静なイメージのある奏多。そんな彼が珍しく本気で怒っているのだ。……まあ以前に暴走もしたんだけど。


「ッ!! ……奏多兄さん……!」


 大地は奏多を慕っているようで、本気でショックを受けたようだった。どうやら2つ年上の奏多をもう1人の兄のように思っているらしい。

 そして最後にキツく花凛を睨み付けて奥の方に走り去っていった。


「……奏多さん。なんだか凄く大地様から嫌われちゃいましたよ……」

「ああいうのをなくす為に、八千代様は花凛の身分を公表するって言ったんじゃないか? まあ、公表したらしたで別の争いが起こらないとも限らないけどな……」


 花凛が本家当主八千代の次男の一人娘だと公表し、しかも既にかなり大きな力を得ていると分かれば次代の本家当主の座はかなり不透明になって来る。

 そして現在花凛は北家と東家の保護を受けている形であり、更に南家の奏多が側近(仮)となっているのだ。花凛自身には全くその気はないが、かなり次期当主に有利な立場といえる。

 
 そんな想像が容易に出来てしまって、花凛はゾッとした。


「やっぱり私は公表しない方がいいと思う。そもそもそんな争いに関わるつもりは全くないし」

「んー、そうなるのかな……、あ。なんだろ。ごめん、ちょっと待ってて」


 奏多のスマホが鳴り、それを確認した奏多が言った。


「……花凛。悪いんだけど花凛の家に送る前にうちに寄ってもらっていい?」


「ん? 私なら自分で帰れるから大丈夫だよ?」


 南家の奏多のご両親も一人暮らしを始めた息子が心配で早く顔を見たいのかな? まだ3日目なんだけどね。


「いや、父さん達が……。花凛と話がしたいそうなんだ。今日1日色々あって疲れてるところ悪いんだけど、付き合ってやってもらえるかな」

「……ん? 私と?」


 南家夫婦に会うのは以前奏多の暴走で本家でちょっと挨拶をした以来だった。

 それまでも特に関わりがあった訳ではないのだけれど。


「構わないけれど……。あ、もしかして奏多さんの暮らしぶりが心配なのかな」

「んな訳ないだろ。30過ぎの男の心配なんて流石にしないだろ」


 そして本家を出た2人は南家と向かった。








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