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癒しの魔法
しおりを挟む「───お母さん! おじいちゃんは?」
鞍馬の里に帰った花凛はタクシーで奏多と共に祖父が入院する病院にやってきた。
「花凛……、ッ!?」
花凛を見た母はその横にいる南家の奏多に驚く。
花凛は母の奏多への視線に気付いて言った。
「奏多さんにここまで送ってもらったの。……それだけよ? ……それでおじいちゃんは?」
はっと我に返った母は祖父の容態の説明をしてくれた。
一時は危険な状態と言われたそうだが、今は大分落ち着いていると言われた花凛はホッと胸を撫で下ろした。
「仕事も忙しいでしょうにごめんなさいね、花凛」
「ううん、教えてもらえなかった方が嫌だもの。良くなってくれたのなら本当に良かったよ。……あ、今おじいちゃんに会える?」
「そうね。今は眠っていると思うけど、顔だけでも見てあげて」
そうして花凛は祖父の病室に入る。
顔色は少し悪く見えたが、呼吸も落ち着きゆっくりと眠っていた。
「お父さんに花凛が帰ったって連絡入れて来るわね」
母がそう言って出て行った後、花凛は祖父の隣に行き祖父の回復を祈って光の魔法をかけた。
それはフワリと光って祖父に降り注ぐ。
「───花凛、お前……」
その様子を見ていた奏多は驚きに目を見開く。
……花凛の義祖父の顔色は明らかに良くなっていた。
奏多は今まで本家出身の母と南家当主の父の子として育った。自分は鞍馬の『力』の事を相当詳しく知っていると思う。その中で、奏多はこんな『力』を使える者を聞いた事がなかった。
『妖』を祓う力。攻撃魔法のような力。軽く人の心に作用するような力。そして軽い怪我を治す力。
……それが今の鞍馬の力だ。少なくとも病気を治したり体調を良くするような力は聞いた事がない。
奏多が花凛を見ていると、不意に彼女が自分の方に振り向いた。
───その瞳は輝く金色。
自分も力を使う時はそうなっているはずなのだが、その眼で見つめられて奏多は思わずドキリとした。
「花凛。……お前病気の治療も出来るのか?」
「え? そんな訳ないじゃない。おじいちゃんに良くなって欲しいって祈っただけ。前に自分の手の切り傷を治せたの。だから少しでも体調が上向いたら良いなって思って、癒しの魔法みたいな?」
花凛は子供の頃義祖父母にしてもらった『痛いの痛いの飛んでけ』のような、おまじないに近い気持ちでこの力を使っている。それがどこまで作用するかは分からない。
「俺は医者じゃないから分からないけど、花凛の今の力でおじいさんは多分相当良くなってると思うぞ。また八千代様に報告しなきゃならないが……。
花凛、その力を絶対他で使うんじゃないぞ?」
奏多は他にあり得ないこの力が世間に知られれば厄介ごとになる予感がしてそう忠告した。
「───え。さっき会社で使っちゃった」
「───は? なんだって!?」
花凛はここに来る前に対面した西園寺楓にこの力を使った事を話した。
「おいおいおい……。花凛、お前本当ーに、馬鹿だろ……。どうしてよりにもよって、そんな相手に力を見せてんだよ……」
しかも、もしかしてその西園寺楓って。
奏多は嫌な予感がして花凛を見たが、当の本人はキョトンとしたまま。
「や、だからね。目の前で真っ青になって震えて膝ついちゃったんだよ? びっくりして良くなって欲しいって思って癒しの魔法をね……」
そんな花凛に奏多は思わずため息を吐く。
「花凛。とりあえず今からは八千代様と話をするまでその力は使用禁止だぞ。……お前は世間に向けて『自分は魔法使いです』って宣言するつもりなのかよ? しかもそんな敵かもしれない奴の治療をするなんて」
「うーん、敵、なのかなぁ? まあ好意は感じなかったけど、元は同じ一族な訳だし……」
「八千代様の判断が出るまでは迂闊な行動は控えるべきだ。それに花凛、お前は分かってないようだけど、その『癒しの魔法』はかなり特殊だぞ? 多分他の誰にも使えない。下手したらお前は世間から狙われる事になる」
「え? そうなの? 知らなかった……。でも他の人も周りに言っていないだけなのかもしれないわよ? ……でもこれからは気を付けるね」
かなり困惑しながらも、花凛は頷いた。
その時部屋がノックされ、花凛の両親が入って来た。
「花凛。……済まなかったな、呼び出して。奏多様。今回わざわざ花凛を送ってくださったそうでありがとうございます」
そう言って父は奏多に頭を下げた。母から奏多がいる事を聞いて慌てて来てくれたのだろう。
「……いえ。僕もこちらに用事がありまして。それと本家の八千代様から花凛さんを連れて来るようにと言われております。話が終わりましたらご実家にお送りします」
……あれ? そうだったっけ?
花凛は奏多を見ると頷かれた。……ああ、これまでのハグレ鞍馬の報告をしろって事かな?
「お父さん。八千代様に街での暮らしを定期的にお話しする事になってるの。おじいちゃんの容態の事もご心配してくださってるそうだからそれも伝えて来るね」
父は心配そうにチラリと花凛を見た。
「……そうですか……。お手数をおかけしますが、どうぞ宜しくお願いいたします。
花凛。本家の皆さんに宜しく伝えておいてくれ」
両親はそう言って奏多に礼をした。
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