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佑磨、本家当主との対面
しおりを挟む佑磨はスマホのボタンを押し、大きくため息を吐いた。
「繋がりませんか」
「───ああ。どうやら彼女が行った先は電波が繋がらない圏外のようだな。
……では先に、本家の方々のご尊顔を拝見しに行くとしようか」
◇
「───なんだと? 昔鞍馬から出て行った西家の人間が、当主に会わせろだと?」
当主八千代の長男篤之はそう言って面倒臭そうに眉を顰めた。
篤之にとって一度鞍馬と袂を分かち出て行った一族の末裔など、取るに足りない存在。しかも出て行ってから四代後などは随分と力は弱いはずでこちらから見れば価値のない存在だと思われた。
篤之はふんと鼻を鳴らす。
「───は。馬鹿馬鹿しい。ハグレ鞍馬ごときが当主に会いたいだなどと何をふざけた事を抜かすのか。そんなもの私に確認するまでもない。……さっさと追い払え」
「……はっ」
本家筋の分家の使用人が玄関に向かう。
篤之は一応馬鹿な人間が来た事を母に伝えておくか、とそちらに向かおうとしたのだが───。
「───おはようございます。案内は出来ないと言われましたので、勝手に探しに入らせていただきましたよ」
廊下に現れたのはやけに美しい青年。
「……んな……!! なんだお前は! どうやってここまで入って来た!?」
「───勿論、玄関からですよ。歓迎はしていただけませんでしたが」
「なんだと……!?」
篤之が目の前の青年に対して力を使おうとした瞬間。
篤之の後ろの襖が勝手に開いた。……まるで奥までの部屋に誘うように。
『───お入り』
頭の中に響くような声が聞こえた。
「……失礼いたします」
青年は見えない相手に一礼をして、開かれた襖の奥へと進み出した。
篤之はハッと我に返った。
「……おいっ! なんだお前は! ……母さんッ! 何故こんな得体の知れない奴を中に入れる!?」
篤之は母に対しても叫んだが、返事はない。そして───。
篤之はその場から動けなかった。……身体が、魔法で拘束されているのだと気付いた。
……それは自分よりも強い力の持ち主からのもの。母八千代が自分にそれをかける訳がない。
……だとすると、目の前のハグレ鞍馬が!? 逸れて4代も経っているのに、この私よりも力が強いだと!?
そのハグレ鞍馬の母はかつて大きな力を持っていた西家の娘だったのだが、当然それを知らない篤之は相当なショックを受けた。
その為力をかけられずともショックでその場を動けずに居たのだった。
◇
開かれた襖の奥へと導かれ、佑磨がその部屋に入るとその奥に1人の老齢の女性が座っていた。
「───まあお座り」
凛としたその女性は、その前に置かれていた座布団に座ることを勧めて来た。
「───失礼いたします」
佑磨は勧められた席に静かに着席した。その美しい姿勢と所作に八千代は感心した。
2人は向かい合い、暫くお互いの腹を探るかのように見合った。
「……この度は突然の訪問にも関わらずお時間をいただきありがとうございます。
私はこの鞍馬一族の西家から離れた者の4代目。……西園寺佑磨と申します」
まず佑磨が口を開き自己紹介をする。
「───私はこの鞍馬をまとめる本家の当主。鞍馬八千代だ。
───さて。まずはお礼を言っておこうかね。先日はうちの者を『黒い霧』とやらから守ってくれたようだ」
八千代は目の前の青年の力の大きさから、彼こそがまだ力を使いこなせなかった時の花凛を助けた人間だと確信して礼を言った。
「いいえ。彼女……花凛さんは貴女の親族でいらっしゃいますか? 力の気配が、似ていらっしゃる」
可愛い孫に似ていると言われて八千代は少し機嫌を良くした。
「あの子には少し事情があってね。『力』の事を何も知らないで育ったのだ。……しかし本家の者と考えてもらって間違いない」
佑磨は花凛が鞍馬家本家縁の人間と聞いてやはりと頷いた。……そして佑磨は、こちらの事も知っておいてもらわなければならなかった。
「……そうですか。そして私の母の事はご存知でいらっしゃるのでしょうか?」
「……32年前、この鞍馬の西家を出て行った楓。……私の息子治仁の元婚約者、なのだろう?」
「───やはり、ご存知でしたか」
「……知ったのはここ最近の事だ。花凛からの話で佑磨殿の話を聞いた時、ハグレでそれ程の力を持つ理由を考えれば自ずと答えはでたからね」
佑磨は納得したように頷いた。
「───でしたら話は早い。母、楓からご当主様宛に手紙を預かっております。至急お読みいただきたく」
「……楓がここに来ないのは、身体を悪くしているからかい? それにしては昨日花凛に対して力を使っていたようだが」
八千代は昨日花凛に対して力を使おうとしていた楓が直接ここに来て説明しない事を、少し責めるように言った。
佑磨は少し申し訳なさそうな困った表情になった。
「母はこの鞍馬の里へ来る事は出来ないのです。……32年前から、入る事が出来ません」
「───どういう事だ? 辛くてこの地には帰れない、という事か?」
八千代の言葉に佑磨はゆっくりと首を振る。
「───いいえ。物理的に、入る事が出来ないと言っていました。……32年前のあの時に、当時母の持っていた力は半分以上を罰として奪われ更に鞍馬の里から追い出され、それ以来入る事がかなわなかったそうです」
その告白に、何を馬鹿な事をと八千代は顔を顰めた。
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