30歳、魔法使いになりました。

本見りん

文字の大きさ
62 / 97

楓からの手紙

しおりを挟む



「なに? 何を馬鹿な事を……。誰がそのような事を出来るというのだ。当時1番力を持っていたのは本家当主であるこの私だが、とてもではないがそのような事は出来ない。当然他の者に出来るはずがない。……楓はいったい何を血迷った事を言っているのか」

「その答えは、この手紙に書かれております。───どうかご一読を」


 八千代は余りの話の馬鹿馬鹿しさに呆れたが、とりあえず楓の言い分を書いたというその手紙を読まなければ話は進まないのであれば致し方ないと、諦めたようにため息をひとつ吐いた。

 
「───分かった。読ませてもらおう」


 佑磨の胸元から出された少し厚めの手紙を八千代は渋々といったふうに受け取った。
 そしてその封を開け、便箋を取り出して読み出した。


 最初淡々とした様子で読んでいた八千代だったが、徐々に眉間に皺を寄せ手紙を食い入るように読み出し、最後の方になるとぶるぶると震え出していた。


「……佑磨殿。これは、誠か……?」


 そして八千代は絞り出すように声を出した。


「───はい。私も昨日母よりこの事を聞いたばかりですが……大変驚いております。
確かに俄かには信じがたい話ではありますが、そう考えると花凛さんの力にも全て合点がいくのです。……彼女は貴方の息子治仁氏の娘、なのでしょう?」

「───そうだ。……まさかとは思うが……。この場に花凛を呼ぼう」


 そう言って立ち上がる八千代に佑磨は言った。


「お待ちください。……実は私はここに来る前に花凛さんのご自宅に伺いました。しかし彼女は留守で……、『お墓参り』に行ったとの事でした。それはもしや『祠』の事でないかと思うのです。どうか私をそこに案内してはいただけないでしょうか」


 佑磨がそう言うと、八千代はサッと顔色を悪くした。


「花凛が『祠』に……!? 何故今そこに行くのだ……!?」


 珍しく動揺する八千代に廊下から声が掛かった。


「───お母様。それは昨日勝治さんが最後に治仁兄様と話したあの日の事を思い出したからですわ。……そして今花凛さんには奏多が付いております。今日私はこの事の報告に参りましたの」


 そこには八千代の娘、百合が居た。


 ◇ 


 「治仁様が住まわれていた家は、この辺りに建っていたらしい」


 『祠』に行く前に立ち寄ったのは、本道から少し脇道に入った場所。奏多はいったんその少し手前に車を停めた。

 ……そこは周りに雑草が生える中、何故か整えられこの季節なのに花が咲いていた。


「……ここに、治仁さんとアオイさんが……」


 そして自分が生まれた場所。

 花凛は感慨深げにその場所に魅入った。


「あとからいったん北家の管理小屋に寄るけど、ここからでも多分歩いて『祠』にまで行ける距離だ。……治仁様が楓殿との別れの場所になったある意味因縁の場所の近くにどうして住んでいたのかは謎だよな」


「歩いて行ける距離……。『祠』の管理をしていたおじいちゃんは近くに住むアオイさんと出会った話をしていたもの。それほど近かったんだ……」

「花凛のおじいさんとアオイさんか……、花凛の家とアオイさんって結構縁があったんだな。……だけど治仁様達は鞍馬関係の人間が近くに来る事が分かっていても尚、どうしてこの地に留まったんだろうか?」

「……そっか、2人は駆け落ち同然なんだから鞍馬家と関係のない場所で暮らすのが普通なんだよね……」

「ここは買い物出来る場所まで車で20分は掛かるしバスも本数は少ない。決して便利とは言えない土地だ。さっきも話してたけどスマホも繋がらないし……。俺なら駆け落ちするなら別の土地の便利な街にするよ。鞍馬の里の辺鄙な土地に住み続けるのは得策じゃない。……何か、この土地を離れられない理由でもあったんだろうか」


「この土地を、離れられない理由……」


 昨日母も当時は街に住んでいてもアオイの住む家まで車で20分はかかったと言っていた。たまたま治仁さんと2人で買い物に来ていたアオイさんと母は出会ったのだと。母と友人となってからもアオイさんは余り外へは出掛けなかったようだと言っていたし、完全なるインドア派だったのだろうか? 


「……だけど、ここは誰かが管理してくれているのね。周りと比べて明らかに草木も生えていないし……お花も供えてくれてあるもの」


 花凛はしゃがんで少し萎びた供えられた花を見た。


「多分、治仁様の知人だろうな。とても慕われた人だったそうだから……。『事件』の後、家は取り壊されたそうだ。それに少し、当時の『妖』の気配がまだ残っている」


 花凛は彼方の言葉を聞きながら、家があったのだろう跡地にいき手をかざす。

 そして『光の魔法』を使った。


「───は。……見事だな。さっきまで残っていた『妖』の気配が跡形も無く消えている。当時の鞍馬の人間が相当力を使って消したはずなのに」


 家の跡地は清浄な空気になっていた。心なしか供えてあった花も美しく生き生きとしたようだった。

 奏多は驚いていたが、しかし実は花凛はもっと戸惑っていた。


 ……あれ? なんだか昨日よりも力が使いやすいというか、強くなっている気がする。……なんで?


「……『妖』は、アオイさんが倒したって事なんだよね。治仁さんは力が目覚めなかったんだし。……アオイさんは相当力が強かったということかな」


 困惑しながら花凛は聞いた。


「今考えるとそういう事なんだよな。……当時は2人ともここで亡くなっていたから『妖』はその後何処かへ行ったか若しくは八千代様が倒されたのかと思われていたようだ。
……俺も花凛が治仁様の子だと聞いてから八千代様達が行った時には既に『妖』は居なかったと聞いたんだけど。だけどその時はアオイさんが力を使えるなんて知らなかったから、『妖』は治仁さんを倒した事に満足して去っていったのかと思ってた」


 奏多は徐に花凛に向き合った。


「……でもそうすると、花凛がさっき言ってたように周りに何の被害もなかったのはおかしいんだよな。その時に『妖』は倒されたと考えるべきだ。───そうするとやはり、その『妖』はアオイさんが倒したという事なんだろう」


 その当時離れた場所にいた鞍馬の人間の殆どがその気配に気付く程の強い力を持った『妖』。それを倒したというアオイは、相当な力を持っていたのだという事。


「その時私という子供を守っていたアオイさんは、もしかするといつも以上に凄い力を出せたのかな」


 子を守る親は強い。
 しかしそれだけでは説明出来ない力を持っていたのだろうアオイの事をどう考えていいのか分からず、花凛は少しはぐらかせた答えを出した。

 そして奏多もそれ以上の説明も出来ず、2人は暫くここで拝んだ後に『祠』に向かったのだった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...