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楓からの手紙
しおりを挟む「なに? 何を馬鹿な事を……。誰がそのような事を出来るというのだ。当時1番力を持っていたのは本家当主であるこの私だが、とてもではないがそのような事は出来ない。当然他の者に出来るはずがない。……楓はいったい何を血迷った事を言っているのか」
「その答えは、この手紙に書かれております。───どうかご一読を」
八千代は余りの話の馬鹿馬鹿しさに呆れたが、とりあえず楓の言い分を書いたというその手紙を読まなければ話は進まないのであれば致し方ないと、諦めたようにため息をひとつ吐いた。
「───分かった。読ませてもらおう」
佑磨の胸元から出された少し厚めの手紙を八千代は渋々といったふうに受け取った。
そしてその封を開け、便箋を取り出して読み出した。
最初淡々とした様子で読んでいた八千代だったが、徐々に眉間に皺を寄せ手紙を食い入るように読み出し、最後の方になるとぶるぶると震え出していた。
「……佑磨殿。これは、誠か……?」
そして八千代は絞り出すように声を出した。
「───はい。私も昨日母よりこの事を聞いたばかりですが……大変驚いております。
確かに俄かには信じがたい話ではありますが、そう考えると花凛さんの力にも全て合点がいくのです。……彼女は貴方の息子治仁氏の娘、なのでしょう?」
「───そうだ。……まさかとは思うが……。この場に花凛を呼ぼう」
そう言って立ち上がる八千代に佑磨は言った。
「お待ちください。……実は私はここに来る前に花凛さんのご自宅に伺いました。しかし彼女は留守で……、『お墓参り』に行ったとの事でした。それはもしや『祠』の事でないかと思うのです。どうか私をそこに案内してはいただけないでしょうか」
佑磨がそう言うと、八千代はサッと顔色を悪くした。
「花凛が『祠』に……!? 何故今そこに行くのだ……!?」
珍しく動揺する八千代に廊下から声が掛かった。
「───お母様。それは昨日勝治さんが最後に治仁兄様と話したあの日の事を思い出したからですわ。……そして今花凛さんには奏多が付いております。今日私はこの事の報告に参りましたの」
そこには八千代の娘、百合が居た。
◇
「治仁様が住まわれていた家は、この辺りに建っていたらしい」
『祠』に行く前に立ち寄ったのは、本道から少し脇道に入った場所。奏多はいったんその少し手前に車を停めた。
……そこは周りに雑草が生える中、何故か整えられこの季節なのに花が咲いていた。
「……ここに、治仁さんとアオイさんが……」
そして自分が生まれた場所。
花凛は感慨深げにその場所に魅入った。
「あとからいったん北家の管理小屋に寄るけど、ここからでも多分歩いて『祠』にまで行ける距離だ。……治仁様が楓殿との別れの場所になったある意味因縁の場所の近くにどうして住んでいたのかは謎だよな」
「歩いて行ける距離……。『祠』の管理をしていたおじいちゃんは近くに住むアオイさんと出会った話をしていたもの。それほど近かったんだ……」
「花凛のおじいさんとアオイさんか……、花凛の家とアオイさんって結構縁があったんだな。……だけど治仁様達は鞍馬関係の人間が近くに来る事が分かっていても尚、どうしてこの地に留まったんだろうか?」
「……そっか、2人は駆け落ち同然なんだから鞍馬家と関係のない場所で暮らすのが普通なんだよね……」
「ここは買い物出来る場所まで車で20分は掛かるしバスも本数は少ない。決して便利とは言えない土地だ。さっきも話してたけどスマホも繋がらないし……。俺なら駆け落ちするなら別の土地の便利な街にするよ。鞍馬の里の辺鄙な土地に住み続けるのは得策じゃない。……何か、この土地を離れられない理由でもあったんだろうか」
「この土地を、離れられない理由……」
昨日母も当時は街に住んでいてもアオイの住む家まで車で20分はかかったと言っていた。たまたま治仁さんと2人で買い物に来ていたアオイさんと母は出会ったのだと。母と友人となってからもアオイさんは余り外へは出掛けなかったようだと言っていたし、完全なるインドア派だったのだろうか?
「……だけど、ここは誰かが管理してくれているのね。周りと比べて明らかに草木も生えていないし……お花も供えてくれてあるもの」
花凛はしゃがんで少し萎びた供えられた花を見た。
「多分、治仁様の知人だろうな。とても慕われた人だったそうだから……。『事件』の後、家は取り壊されたそうだ。それに少し、当時の『妖』の気配がまだ残っている」
花凛は彼方の言葉を聞きながら、家があったのだろう跡地にいき手をかざす。
そして『光の魔法』を使った。
「───は。……見事だな。さっきまで残っていた『妖』の気配が跡形も無く消えている。当時の鞍馬の人間が相当力を使って消したはずなのに」
家の跡地は清浄な空気になっていた。心なしか供えてあった花も美しく生き生きとしたようだった。
奏多は驚いていたが、しかし実は花凛はもっと戸惑っていた。
……あれ? なんだか昨日よりも力が使いやすいというか、強くなっている気がする。……なんで?
「……『妖』は、アオイさんが倒したって事なんだよね。治仁さんは力が目覚めなかったんだし。……アオイさんは相当力が強かったということかな」
困惑しながら花凛は聞いた。
「今考えるとそういう事なんだよな。……当時は2人ともここで亡くなっていたから『妖』はその後何処かへ行ったか若しくは八千代様が倒されたのかと思われていたようだ。
……俺も花凛が治仁様の子だと聞いてから八千代様達が行った時には既に『妖』は居なかったと聞いたんだけど。だけどその時はアオイさんが力を使えるなんて知らなかったから、『妖』は治仁さんを倒した事に満足して去っていったのかと思ってた」
奏多は徐に花凛に向き合った。
「……でもそうすると、花凛がさっき言ってたように周りに何の被害もなかったのはおかしいんだよな。その時に『妖』は倒されたと考えるべきだ。───そうするとやはり、その『妖』はアオイさんが倒したという事なんだろう」
その当時離れた場所にいた鞍馬の人間の殆どがその気配に気付く程の強い力を持った『妖』。それを倒したというアオイは、相当な力を持っていたのだという事。
「その時私という子供を守っていたアオイさんは、もしかするといつも以上に凄い力を出せたのかな」
子を守る親は強い。
しかしそれだけでは説明出来ない力を持っていたのだろうアオイの事をどう考えていいのか分からず、花凛は少しはぐらかせた答えを出した。
そして奏多もそれ以上の説明も出来ず、2人は暫くここで拝んだ後に『祠』に向かったのだった。
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