30歳、魔法使いになりました。

本見りん

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奏多のアピール

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 奏多は車を北家の管理小屋の駐車場に停め、いったん2人は小屋の中に入る。


「……この中に『祠』を参る為の一式のセットが入っている。北家の奴らから鍵を借りる時に『せっかく行くのだから末の孫様を参ってやってくれ』と言われてね」

「お線香にロウソクに……。普通のお墓参りのセットだね。……あ。お供えのお花も用意してくれてたんだ。奏多さんに色々用意させちゃってごめんね」

「いや、せっかく来たんだし……俺たちのご先祖様だしな。それに末の孫様の双子の妹も祀られてるから。彼女は我らの大恩人だからな」

「……双子の妹?」


 花凛は初めて聞く話だった。


「あれ? 知らないのか。
末の孫様が暴走された時は始祖様は老いてもう力も全盛期を過ぎておられた。そして周りに末の孫様以上の力を持つ者も居なかった。だから封じるしかなかったのだが、それでも力が足りない。そこで末の孫様の双子の妹が兄の力を抑える為に立ち上がった」

「末の孫様の、双子の妹……。その方が犠牲になったってこと? それで同じ『祠』に祀られているの……? なんだかとても悲しいしお気の毒だわ」

「本当、そうだよな。……でも当時、末の孫様の暴走によって他にも被害者はたくさんいたんだそうだ。妹様は、立ち上がらずにはいられなかったんだろうな」


 他に被害者がいたとして、その為に自ら犠牲になろうとするなんてなかなか出来ない事だ。花凛は胸が切なくなった。


「そうなんだ……。妹様にお礼を言ってしっかりお祈りしなくちゃね」


 そして2人は管理小屋を出発し、祠へと向かって歩き出した。
 道中、奏多がポツリと言った。


「……なあ、花凛。お前これからどーするつもりなんだ?」


 奏多は花凛の顔をチラリと見ながらなんでもない風を装って言った。


「うん? 向こうに帰るよ? とりあえず落ち着いたら、だけど……。奏多さんも一人暮らし三日目で終わっちゃうなんてイヤでしょう?」

「俺の事はどうでもいーんだよ。……花凛はこれからの事……結婚の事とか、どう考えてるんだ?」


 ……いずれ、花凛の力や身元は周りにバレるだろう。
 その時花凛には鞍馬の中でもより力の強い者が婚約者候補とされるはずだ。
 奏多はその他の誰にも負けたくはなかった。だから少し卑怯なのは自覚しているが、他の者より先に花凛に自分という存在をアピールしておきたかったのだ。


「ええ、結婚!? ……うーん唐突だなぁ。や、勿論いずれはしたいよ? けどこればっかりは相手がいない事には……。あ、奏多さん。一昨日みたいな揶揄いはナシだよ?」


 花凛は奏多の胃袋を掴んでしまった事を思い出してそう言った。


「……揶揄いじゃない。それに花凛のその力を次代に繋ぐ為にも、多分周囲はお前に一族の人間との結婚を望むだろう。その一番の候補は本家の正樹か大地だ。お前、正樹との結婚は嫌だろう? 場合によっては大地も自ら名乗りを上げると思う」


「それは、絶対にないよ! 正樹様は勿論だけど……大地様の昨日の態度見たでしょう? 私もそうだけど、あれだけ嫌っておいてそれはないと思うよ?」


 花凛は昨日の大地の去り際の、憎々しげにこちらを見た顔を思い出していた。いつぞやの奏多もこちらをあんな目で見ていた気もするが……。


「それは花凛の力を知れば簡単に変わってくる。……俺も人のことは言えないけど。正樹は元からお前の事気に入ってたし、大地も力を持つお前となら問題ないと言い出すと思う。
……なら、俺でいいと思わないか? 花凛」


 奏多はそう言うと足を止めて花凛を見つめた。思わず花凛も立ち止まり隣を見ると、真正面から見つめ合う形になった。
 再びプロポーズまがいの事を言われ見つめ合ってしまった恋愛初心者の花凛はかなり動揺する。


「ちょっ……、奏多さん!? 料理上手な人なんて世の中にはごまんといるからね!?
それに……、そう! 奏多さんは私とは絶対ないって言ってたじゃない! えーと、東の一之さん……いやさ、冬馬君! 彼を勧めてたじゃないよ!」


 動揺し過ぎてここ最近浮上していた名前をあげてみたのだが、こういう時は他の男性の名前を出してはいけない。
 案の定奏多は他の男性の名前が出た事で先ほどより真剣な顔になった。


「……俺にしとけよ。花凛」


 奏多は花凛を見つめそう言ってから花凛の腕を取り、自分の胸に引き寄せた。

 思わぬ展開に、引き寄せられるまま奏多の胸にぽすりと顔を寄せた形になった花凛は、その意外に筋肉質な身体とふわりと香るムスクの良い香りに驚きつつ……。


「……どわっ! ちょっと! 奏多さん! ご、ご先祖様がっ! 末の孫様と妹様が、見てるから!」


 思わず色気のない声を出し、バンザイをした形で手を広げて奏多の胸から飛び跳ねて出ることに成功した。

 そしてすぐに、そうだ魔法で出れば良かったんだ! と後悔した。


「そ……そうだ、奏多さんッ! 私昨日すごい戦法を見つけたの! 名付けて『防御は最大の攻撃作戦』!」

「…………は? それって『攻撃は最大の防御』の間違いなんじゃねーの?」


 奏多はいったん自分の胸の中に収まったはずの花凛がすぐに飛び出てしまった事で少し不機嫌そうに言った。


「違うのよ! ……まあ見てて!」


 花凛は奏多と自分に防御の力をかけて包んだ。


「───!?」

「……ほら、ね? コレをかけておいたら途中誰かに攻撃されても跳ね飛ばしちゃうから。
昨日楓様に呼び出された時に考え付いたの! まだ三郎太先生にも言ってないんだから。奏多さん、コレを教える第一号だからね!」


 ───と言いつつ、コレでしばらく奏多は自分に変な事出来ないよね? と花凛は考えてふふんと笑ってみせた。


「ふーん……。ま、今は誤魔化されてやるよ。だけど帰ったら真剣に考えてくれよ。
それにしてもまた色々すごい力を出して来て……。けど、どちらにしてもこれからは周りがお前を放っといてくれなくなるからな。……俺を選ぶのが1番お前にとっていいと思うぞ。なにより俺にとってもだけどな」

「……奏多さん、まだ力のある女性との結婚を考えてるの? それともやっぱり胃袋なの?」


 まるで分かっていない花凛の言葉に奏多はガクリとしながら、もう一度花凛の顔をしっかり見た。


「花凛。……俺は今花凛と一緒にいる未来しか考えられない」


 そこまで言って、奏多は顔を少し赤らめた。


「……だから、花凛も良く考えてみて欲しい。俺といる未来を」


 そこまで言ってから奏多はもっと顔を赤くしたまま、フイと花凛から顔を逸らした。


 ……あ。これってもしかして、奏多さん照れてるの?


 そう思ったら、花凛もなんだか顔が熱くなってしまった。

 そして奏多と一緒の未来を想像してみたのだが。

 ……あれ。なんだかずっと言い合いしてる姿しか思い浮かばないんだけど……。
 確かになんでも言い合える関係は悪くない。だけど……。


 何故か浮かんだ美しい男性の顔に、少し戸惑う花凛なのだった。


 
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