祓い師レイラの日常 〜それはちょっとヤなもんで〜

本見りん

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祓い師レイラの毎日





「ヤ、それはちょっと困りますね。……お断りします」


 小さな街の、小さな自宅兼店舗で。1人の少女が嫌そうな顔でお断りを入れていた。


「……オイオイ、レイラ! そりゃねえだろう! お前さんの腕を見込んで頼んでるってえのにさぁ!」

「そう言われましても。……他を当たってください」

 1人のイカツイ男が少女に凄んでも、レイラと呼ばれた少女は動じない。大工を生業とする大男が大声を出しているのにレイラは怯える素振りもない。

「この街1番の祓い師のお前がムリって言うものを他でどうにか出来る訳ねぇじゃねーか!」

 その男はどうしても無理なのかと今度は少女を少し煽てつつ更に一押しした。
 こう見えて、この辺りでレイラの『祓い師』としての腕はピカイチなのだ。この街の者は難しい『呪い』はこの少女『レイラ』に仕事を依頼する。

「いえ。無理とは言ってません。……ヤなんです。トムさん、コレすごい怨念ですよ? 何やらかしたんですか。私、男女の痴情のもつれ系はヤですね」

 『無理ではない』。
 その言葉に少しホッとしつつ、まさかこの『呪い』の要因を言い当てられるとは思わずトムは大いに焦った。

「うっ……! ……そんな事まで分かるのか。イヤでも違うんだ! コレは完全に逆恨みで! お互い納得して付き合ったのに今更妻と別れてくれなんて言われたら、もうその女とは別れるしかねぇじゃねぇか! そうしたらあの女は本性現して……!」

「うわー、聞きたくないです。自業自得ですよねそれ。私はそういうドロドロ系はヤなんで……」

「イヤ、祓い師ってぇのはそもそも本来そういうドロドロしたもん専門だろうがよっ!? 爽やかな呪いなんてねぇだろうがよ!」


 普段モテない男ほど稀にこんなことになる。モテてると勘違いして調子に乗って浮気して、結局は別れ話になりその相手の女性に恨まれ呪いをかけられたのだ。そして悩んだ挙句この街1番と呼ばれる祓い師レイラの所に相談に来ているのだが……。

「……私は15歳の可憐な少女なんですよ? そんな子供に大人の汚い世界の話をしないでください。不潔です最低です。……どうしてもっていうなら、通常の値段の3倍はいただきます」


「くっ……! 足元見やがって……! しかも自分で『可憐な少女』なんてふざけた事を……!」

 3倍! 『呪い』の解呪は安くはない。トムはその値段を頭で計算し自分のコッソリ貯めていたヘソクリとほぼ同額である事に気付きつい声を荒げた。

「……イヤなら結構です。私もこんなドロドロ見たくもないんで。ではお帰りください」

「だーーッ! 待て待てッ! ……分かった、3倍だな!? くっ……! 俺のヘソクリが……!」

 トムは口惜しげにそう言った。

 
 

 ……この世界には魔法が存在する。
 王侯貴族が強い魔力を持つこのウッドフォード王国。だが庶民でもある程度の魔法が使える者もいる。

 その中の1人が、レイラ。代々『祓い師』を生業とする家系だ。
 そもそもこの世界では『呪い』というものが非常に身近にある。人々は何かあればマジナイという名の『呪い』を使う。それはおまじないのような小さな嫌がらせ程度のモノから呪われた対象の人間の人生を狂わし命を脅かす程のモノまで、多種多様だ。そして『呪い』をかけられた人間は苦しみ、更に誰かに『呪い』をかけるという悪循環となる場合もある。

 そしてそんな『呪い』を祓う事が出来るのが『祓い師』だ。強い魔力を持ってその『呪い』をほぐして祓う。
 レイラは唯一の家族だった強い魔力を持つ母を2年前に亡くしその跡を継いだ。レイラも母譲りの実力を持った『祓い師』である。

 平民にも魔力を持ち色んな職業を持つ者がいるこの世界。力こそ王侯貴族には及ばないものの色んなモノを作り出す『錬金術師』もいれば、『冒険者』となるような強い攻撃系の魔法を持つ者もいる。世界には魔物と呼ばれる生物がいるのだが、彼らの生息地にでも行かなければ滅多に会う事はない。『冒険者』はその生息地にわざわざ出掛けて貴重な魔物を狩って生活している。

 そして魔力を持つ者の中にはレイラの正反対の『呪い師』も結構な数がいるのだ。


 ……何故、人は人を呪うのだろう? 

 常々レイラはそう考えるが、反対に言えばその『呪い師』のお陰でレイラの『祓い師』という職業は成り立っているのだ。
 
 まだ年若いレイラは一つため息を吐きながら、自らの持つその強い魔力を展開した。そして目の前のトムから彼の身体を縛る『呪い』の糸を丁寧に取り除いていく。コレはとても繊細な作業。乱暴に取り除くと呪いをかけられた本人に後遺症が残る場合もあるのだ。
 強い魔力とこの丁寧な作業で、レイラはまだ若いながらもこの街1番の『祓い師』と呼ばれている。


「あぁ……。良かった。身体中が思うように動かなくなった時はどうしようかと思ったよ。こんな思いはもうゴリゴリだ」

「そうですね。あのままだと身体全体が石のように動かなくなってましたよ。相手の女性のトムさんを自分に縛り付けたいっていう強い念を感じました。……全く、私のような子供になんてモノを見せるんですか。コレに懲りたらこれからは奥様お一人を大切になさる事ですね」

 トムは『石のようになる所だった』という言葉に心底ゾッとした。そしてもうこれからは絶対こんな事はしないと目の前のレイラに誓った。

「……ヤ、私に誓われても困るんですけど……」


 しかしトムから正規の料金の3倍はしっかり徴収したレイラだった。


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