1 / 23
祓い師レイラの毎日
「ヤ、それはちょっと困りますね。……お断りします」
小さな街の、小さな自宅兼店舗で。1人の少女が嫌そうな顔でお断りを入れていた。
「……オイオイ、レイラ! そりゃねえだろう! お前さんの腕を見込んで頼んでるってえのにさぁ!」
「そう言われましても。……他を当たってください」
1人のイカツイ男が少女に凄んでも、レイラと呼ばれた少女は動じない。大工を生業とする大男が大声を出しているのにレイラは怯える素振りもない。
「この街1番の祓い師のお前がムリって言うものを他でどうにか出来る訳ねぇじゃねーか!」
その男はどうしても無理なのかと今度は少女を少し煽てつつ更に一押しした。
こう見えて、この辺りでレイラの『祓い師』としての腕はピカイチなのだ。この街の者は難しい『呪い』はこの少女『レイラ』に仕事を依頼する。
「いえ。無理とは言ってません。……ヤなんです。トムさん、コレすごい怨念ですよ? 何やらかしたんですか。私、男女の痴情のもつれ系はヤですね」
『無理ではない』。
その言葉に少しホッとしつつ、まさかこの『呪い』の要因を言い当てられるとは思わずトムは大いに焦った。
「うっ……! ……そんな事まで分かるのか。イヤでも違うんだ! コレは完全に逆恨みで! お互い納得して付き合ったのに今更妻と別れてくれなんて言われたら、もうその女とは別れるしかねぇじゃねぇか! そうしたらあの女は本性現して……!」
「うわー、聞きたくないです。自業自得ですよねそれ。私はそういうドロドロ系はヤなんで……」
「イヤ、祓い師ってぇのはそもそも本来そういうドロドロしたもん専門だろうがよっ!? 爽やかな呪いなんてねぇだろうがよ!」
普段モテない男ほど稀にこんなことになる。モテてると勘違いして調子に乗って浮気して、結局は別れ話になりその相手の女性に恨まれ呪いをかけられたのだ。そして悩んだ挙句この街1番と呼ばれる祓い師レイラの所に相談に来ているのだが……。
「……私は15歳の可憐な少女なんですよ? そんな子供に大人の汚い世界の話をしないでください。不潔です最低です。……どうしてもっていうなら、通常の値段の3倍はいただきます」
「くっ……! 足元見やがって……! しかも自分で『可憐な少女』なんてふざけた事を……!」
3倍! 『呪い』の解呪は安くはない。トムはその値段を頭で計算し自分のコッソリ貯めていたヘソクリとほぼ同額である事に気付きつい声を荒げた。
「……イヤなら結構です。私もこんなドロドロ見たくもないんで。ではお帰りください」
「だーーッ! 待て待てッ! ……分かった、3倍だな!? くっ……! 俺のヘソクリが……!」
トムは口惜しげにそう言った。
……この世界には魔法が存在する。
王侯貴族が強い魔力を持つこのウッドフォード王国。だが庶民でもある程度の魔法が使える者もいる。
その中の1人が、レイラ。代々『祓い師』を生業とする家系だ。
そもそもこの世界では『呪い』というものが非常に身近にある。人々は何かあればマジナイという名の『呪い』を使う。それはおまじないのような小さな嫌がらせ程度のモノから呪われた対象の人間の人生を狂わし命を脅かす程のモノまで、多種多様だ。そして『呪い』をかけられた人間は苦しみ、更に誰かに『呪い』をかけるという悪循環となる場合もある。
そしてそんな『呪い』を祓う事が出来るのが『祓い師』だ。強い魔力を持ってその『呪い』をほぐして祓う。
レイラは唯一の家族だった強い魔力を持つ母を2年前に亡くしその跡を継いだ。レイラも母譲りの実力を持った『祓い師』である。
平民にも魔力を持ち色んな職業を持つ者がいるこの世界。力こそ王侯貴族には及ばないものの色んなモノを作り出す『錬金術師』もいれば、『冒険者』となるような強い攻撃系の魔法を持つ者もいる。世界には魔物と呼ばれる生物がいるのだが、彼らの生息地にでも行かなければ滅多に会う事はない。『冒険者』はその生息地にわざわざ出掛けて貴重な魔物を狩って生活している。
そして魔力を持つ者の中にはレイラの正反対の『呪い師』も結構な数がいるのだ。
……何故、人は人を呪うのだろう?
常々レイラはそう考えるが、反対に言えばその『呪い師』のお陰でレイラの『祓い師』という職業は成り立っているのだ。
まだ年若いレイラは一つため息を吐きながら、自らの持つその強い魔力を展開した。そして目の前のトムから彼の身体を縛る『呪い』の糸を丁寧に取り除いていく。コレはとても繊細な作業。乱暴に取り除くと呪いをかけられた本人に後遺症が残る場合もあるのだ。
強い魔力とこの丁寧な作業で、レイラはまだ若いながらもこの街1番の『祓い師』と呼ばれている。
「あぁ……。良かった。身体中が思うように動かなくなった時はどうしようかと思ったよ。こんな思いはもうゴリゴリだ」
「そうですね。あのままだと身体全体が石のように動かなくなってましたよ。相手の女性のトムさんを自分に縛り付けたいっていう強い念を感じました。……全く、私のような子供になんてモノを見せるんですか。コレに懲りたらこれからは奥様お一人を大切になさる事ですね」
トムは『石のようになる所だった』という言葉に心底ゾッとした。そしてもうこれからは絶対こんな事はしないと目の前のレイラに誓った。
「……ヤ、私に誓われても困るんですけど……」
しかしトムから正規の料金の3倍はしっかり徴収したレイラだった。
あなたにおすすめの小説
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
山猿の皇妃
夏菜しの
恋愛
ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。
祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。
嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。
子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。
一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……
それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。
帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。
行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。
※恋愛成分は低め、内容はややダークです
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
妾に恋をした
はなまる
恋愛
ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。 そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。
早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。
実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。
だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。
ミーシャは無事ミッションを成せるのか?
それとも玉砕されて追い出されるのか?
ネイトの恋心はどうなってしまうのか?
カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。