祓い師レイラの日常 〜それはちょっとヤなもんで〜

本見りん

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王都からの使者

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「え。……王都に、ですか?」


 レイラが自宅件店舗で急ぎでと依頼された『竜の置物』にかかった呪いを解呪していると、豪華な馬車がとまり神妙な顔をした貴族と思われる40代位の1人の紳士が訪ねて来た。
 
 母の代ではその評判を聞き付けてこの街以外からも依頼が来る事はあったが、レイラが店を1人で始めてからは初めて。珍しく少し緊張しながらお茶を出し話を聞くと、『依頼内容は王都で話す』という。


「でも、王都まで行ってお話を聞いてお断りするのは面倒……いえ申し訳ないです」

 つい面倒臭いと言いかけて流石にそれは言い方が不味いかと言い直す。そして貴族相手でもレイラは通常運転。イヤならば断る気満々だった。

「最初から断る気とはどういう事か!? しかも面倒だなどと……! これは恐れ多くも王家からのご依頼なのですぞ!」

 ……レイラの『面倒』という言葉はしっかり聞かれていた。そして『王家からの依頼』だとこの貴族は言った。

 はぁ。……面倒臭い。

 こういうのは、サクッと断る方がいいだろう。

「私はこの街から出るつもりは全くありません。それに王族の方々への礼儀作法も存じません。行く事は無理です」


 レイラの母は若い頃王都の魔法学園を卒業しそのまま暫く王都で暮らしていた。そして故郷のこの街に帰りレイラを産んだ。
 母はこの街に帰ってからは決して他の街に行こうとはしなかった。依頼も持ち込まれるものだけ。そしてレイラにもこの街から出て欲しくは無さそうだった。母からそう言われた訳ではなかったが、そう感じたレイラも外の世界に行こうとは思わなかったのだ。

 だから、この『王都へ行かなければならない依頼』はレイラは受けるつもりは無かった。それに……。


「何を……! たかだか田舎の小娘ごときが王家からの依頼を受けた子爵である私に逆らうというのか……!」

 自分を子爵で偉いと最初からかなり高飛車に依頼してくる、この貴族。

「……たかだか田舎の小娘ですので、王家からのご依頼は畏れ多くてお受け出来ません。……そのようにお伝えいただけますか?」

 『ヤなものはヤ』。しかも権力を振りかざされるのは気持ちの良いものではない。
 レイラの心は閉ざされた。絶対こんな貴族の言う事を聞いてやるもんかと固く誓う。

「な、な……ッ! なんと小生意気な小娘だッ! 後悔することになるぞ!」

 そう言って子爵は足音荒く扉に向かい乱暴に扉を閉めて去って行った。


 それを視線で見送ったレイラは一つため息を吐き、先程までしていた『竜の置物』の呪いの解呪を再開した……が。

 バタンッ!

「レイラ!? 何あの貴族!! すごい顔で怒って出て行ったみたいだけど、まさかアンタ、いつものアレやっちゃったんじゃ……!」

 隣に住む薬剤師のハンナがそう言って慌てて入って来た。

「あー、ハンナ。ちょっと待ってて。今ちょっと大事な所だから。
……んーー、よし! 解呪成功!
で、なんだった?」

「……はーー……。うん、分かってた。レイラが誰に対しても分け隔てなく同じ対応だって事は。
……だけど大丈夫なの? 流石に王都からのお貴族様を怒らせちゃあ……」

「え。私が誰に対しても同じ対応? そんな訳ないわよ。もしさっきの貴族とハンナが同じ様な依頼を持ってきたら当然ハンナを優先するわよ?」

 意外にもそれはレイラの中では確定事項である。アッサリ自分が特別だと言われてハンナは思わず照れて微笑みそうになるが、イヤ、今はそれどころじゃないと気を持ち直す。

「本当かい? それは嬉しい……いや、レイラ! お貴族様ってのはややこしいもんだよ? 変に権力を持っててプライドも高いし執念深い。もし万一これからレイラに何かしてきたら……」

 20代半ばのハンナは優秀で街の学園の途中から王都の学園に編入して何年か暮らしていた。そしてそこで貴族と平民の違いというものを嫌というほど見てきたのだ。だからこそレイラをとても心配した。


「あの貴族が私に? 何かを? イヤね。私は生き霊が嫌だっていうのに……。私を呪ってくる、という事かしら? 私、自分で自分を解呪出来るかしら……。
うん、ちょっと面白そう。新たな扉が開きそうね!」

 そう言って目を輝かせたレイラを見てハンナは脱力した。

 しかしこの辺りの人々は代々このレイラの一族に助けられてきた。そしてハンナ自身この少し変わり者のレイラが可愛いのだ。コレは近所の人々に連絡して出来る限りレイラを守っていかなければと思うハンナなのだった。


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