祓い師レイラの日常 〜それはちょっとヤなもんで〜

本見りん

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30分で準備!?


 翌日。

 昨日よりも更に豪華な馬車がレイラの店舗の前にとまった。

「失礼する。仕事の依頼をしたいのだが……」

 そう言ってレイラの店に現れたのは1人の貴族の青年。少し癖のある濃いめの金髪に緑の瞳のイケメン。貴族の服を着ているがその鍛え上げたような体型から本当は騎士なのではないかとも思えた。

「いらっしゃいませ。……お受けするかどうかはご依頼を聞いてからになりますが宜しいでしょうか?」

 レイラはこの人は昨日来た子爵と関係があるんだろうかと考えながらも、一応営業スマイルでその客を迎えた。相手の青年は「勿論です」と向こうもにこやかに答えた。
 ……うん、権力をカサに着ないタイプかしらね。レイラは心の中でとりあえず合格点を出した。

 そしてお茶を出しテーブルを挟んで2人は向かい合う。


「私はアルフォンス ブレドナーと申します。この街1番の『祓い師』と呼ばれるレイラ殿に、呪いを解いていただきたいお方がいらっしゃるのです。しかしその方は状態が悪くここまで来れません。そこでそのお方の所まで来ていただきたいのです」

「……それは王都まで、ですか?」

 レイラがそう言うと、アルフォンスは苦笑した。

「やはり、昨日の今日ですからお分かりになりますよね。……そうです。王都のやんごとなきお方です」

 やはりか。レイラは内心ため息を吐く。

「……昨日もお話ししたのですが、若輩者の私には畏れ多いお話です。そもそも王都にも『祓い師』はいらっしゃるでしょう?」

 レイラは自分が優秀な『祓い師』である事は自覚している。……しかし自分がこの国で1番だとまでは自惚れてはいないつもりだ。そして若い自分は侮られる事もよくある。

 昨日といい今日といい、王都から馬車で2日かかるこの街にまで何度も来るのは王都にいる『祓い師』では無理だったという事だろう。そして、おそらく一刻を争う状況だという事。
 しかし王都にいる優秀な『祓い師』でも出来なかったのであろう事をこちらに持って来られても……、とレイラは思った。


「……ここまで来るという事でお察しください。今は藁にもすがる思いで、という事なのですよ」

 アルフォンスはそう言って苦しげに笑った。

「王都の『祓い師』では無理だった、という事ですね? それではこの小さな街に来るよりも第2第3の街の『祓い師』、もしくは隣国などで優秀な『祓い師』にご依頼されては?」


「当然、そちらにも依頼をしました。……そして残念ながらそのどれも芳しい結果を得られなかった、という事です」

 ……ちょっと待って。

 王都やこの国の優秀な『祓い師』、そして隣国に依頼してもダメだった案件を『田舎の小さな街1番の祓い師』に頼んじゃう訳!? 

 レイラは、分かりやすく顔を顰めた。

「……それは余りにも細い藁に縋り過ぎじゃありませんか? もしくは手当たり次第とも言いません?」

「……それほど、切迫した状況であるのです」

 うわー……。それは捨て鉢にも程があるわ。

「……勿論、相当の対価はお支払いいたしますよ。成功した時は当然成功報酬をお渡ししますが、そうでない場合も王都までの往復の道中の日当と力を試していただいた分で……、この位でいかがか」

 そう言ってアルフォンスが提示した金額は、レイラが通常1ヶ月働いた分に匹敵する金額だった。

 行ってチャチャっと祓って帰って約1週間……。失敗してもそれで約1ヶ月分のお金が入るなら金額的にはこちらに文句はない、か……。
 その間のこの街の仕事は他にも同業者はいるし大丈夫だろう。本当のところレイラは街から出たくはない、が……。


「ちなみに……、お断りしたらどうなりますか?」

 王国の王族からの依頼を断り続ける事は、この国に住む限り難しいだろうとは思う。

「更に新たな使者が訪れる事でしょう。しかし私は今のこの条件が1番良いと思っておりますよ。余りに焦らすとあちらもムキになって乱暴な方法を取らないとも限らない」

 アルフォンスはそう言って真剣な顔でレイラを見た。緑の美しい瞳で真っ直ぐに。

「とりあえず一度は試してみないと向こうも納得されないと。そういう訳ですね」

 レイラは今度は分かりやすくため息を吐いた。
 非常に面倒臭いことこの上ないが、それだけ向こうではそれ程の重要人物が困っている、という事なのだろう。

 まあ、国宝級の呪い? ならば一度は見てみたいかもとレイラは良い方に考える事にした。

「分かりました。……その条件でお受けいたします。でも今までそれ程の『祓い師』の方々でも難しい案件なのでしたら期待はしないでいただきたいですが」

「出来れば成功させてはもらいたいが、とりあえずやれるだけはやってみて欲しい。それでもダメならば文句は言われないだろう。……ただし、この件は決して口外しない事をお薦めする」

 アルフォンスは最後そう言って真剣な顔でレイラを見据えた。
 
 王族である今回の依頼者の呪いをあちこちに口外して良い事がある筈ないわね。

「当然です。私達の仕事は口が硬い事。信用が第一ですから」

 レイラにしても呪い自体には興味があるが、その経緯や人には興味がない。……というかむしろ生きた人間のドロドロなんて知りたくもない。

「そうか。それは良かった。それでは善は急げですね。良ければこのまま出発します」

「これからッ!? 今は急ぎの仕事は入ってないですけど、こちらはうら若き乙女なんですよ? 急過ぎません? せめて明日とか……!」

「先程も言いましたが、事は急を要するのです。今から出れば明日の夜には王都に着けるでしょう」

「え、ええ~ッ!? 女性は支度に準備がかかるものなんですよ!」

「待っていますから30分で用意をしてください。その間にこちらも伝令を飛ばしたり準備を整えます」

 そう言ってアルフォンスはくるっと向きを変え出て行った。

 残されたレイラは暫く呆然としていたが。

「……はっ! あと、28分ッ!」

 我に返り慌ててとりあえず仕事道具と旅の準備を始めた。


 
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