8 / 23
ヴェルナー王子との出会い
しおりを挟む……なんだか、してやられたような気がする……!
……王宮の回廊にて。
なんだかんだで結局レイラはアルフォンスと腕を組んで歩いていた。
……なんの事はない、レイラは用意されていた履き慣れない高さのヒールでは1人で歩けなかったからだ。
ここに来るまで履いていた靴はレイラの自分の普通の靴だった。今朝の宿泊先でヒールを履くように言われたが、移動するのにそれはちょっとと言ってそのまま自分の靴でやって来たのだ。流石に王宮で王族の方と会うのに自分の街で履いていた靴で行く訳にはいかない。……が、この場に用意されていた靴はとても高いヒールで、レイラは一歩歩く毎にふらついてしまった。
女官が別の靴を用意すると言ってくれたが、今は時間が惜しいのでこんな体勢になってしまったという訳だ。
「クク……。今朝貴女が靴を変えないと言った時には困った事だと思ったが……。役得だね。……あぁ、言ってくれたらいつでも抱き上げて連れて行ってあげるよ」
そう言って笑うアルフォンス。
レイラは必死で履き慣れないヒールのバランスをとって歩きながら、確かに今朝の自分を叱りつけたい気持ちだった。
「む……。だ……いじょうぶ、です……! もう少し慣れれば、1人でも歩いていける、はず……!」
ムキになって言うレイラを見て、アルフォンスはクスリと笑った。10も歳の離れた少女に対する余裕の笑みだった。
そしてとある豪華な扉の前近くに来ると、アルフォンスの空気がサッと変わる。
「さ、これから貴女への依頼者と会うよ。……分かっているとは思うけれど相手は王族だからきちんとした対応をする様に」
彼はそう言ってレイラを見た。レイラが頷くと、アルフォンスも頷き扉の前に立つ衛兵に声をかけた。
その部屋に入ると、そこには沢山の書物が並んでいた。手前に応接セットとその少し奥に側近の方の机が、そして更に奥には一際立派な机がありそこに1人の男性が座って書類を読んでいた。
「ヴェルナー殿下。アルフォンス ブレドナーでございます」
アルフォンスがそう言って頭を下げるので、レイラもそれに合わせペコリと頭を下げる。
「済まないが少し待っててくれ。……よし。ではコレを持って行ってくれ」
ヴェルナー殿下と呼ばれた男性は1人の側近に今見ていた書類を渡す。側近が慌ててそれを持って出て行くと、男性はやっと視線をこちらに向けた。
「アルフォンス。待たせたね。……そちらの女性は?」
それはプラチナブロンドに真っ青な瞳。20代前半かと思われる美しい男性。その真っ青な瞳がレイナをジッと見詰めた。
うわぁ……。コレは、ザ・王子様だ……。
子供の頃絵本で見た王子様そのものの姿にレイラは一瞬見入ってしまった。
「お忙しいところ申し訳ありません。この女性は……」
「まさか……、そうか! アルフォンス! 可愛い女性ではないか。ああ、先を越されたな。ブレドナー公爵夫妻も喜ばれた事だろう。しかしこのような可愛いご令嬢を今までどこに隠していたのだ? これまでパーティーなどでは見かけなかったと思うのだが……」
そう言ってその『ザ・王子様』はレイラを笑顔でマジマジと見てきた。
え。コレは完全に何か誤解されてるのでは。
そう思ったレイラはアルフォンスを見たが、当のアルフォンスはニヤリと何か悪戯を思い付いたかのように笑っていた。
「殿下。このような可愛い令嬢を他の男の目に晒すような事をするはずがないでしょう? 大切に我が手元で囲っていたのですよ。彼女も美しく成長しましたし、そろそろ娶ろうかと思っておりまして……」
何を言い出すんだ、この男は!?
レイラはすぐさま反応した。
「ちょっ……!! ブレドナー様! 冗談も大概にして下さいね!? そもそも囲われてなんていませんし! 貴方に娶られるつもりもありません!」
「照れなくていいのだよ、可愛い人。それに、アルフォンスと呼ぶようにといつも言っているだろう?」
「て……!? 照れてませんっ! そして名前でなんて呼びません!」
何やら必死になればなるほど周りにはカップルが痴話喧嘩をしているかのように見えているのだが、レイラがそんな事に気付くはずがない。
「あー、ゴホン。……アルフォンス、いちゃつきはそのくらいにしてもらっていいだろうか? 君たちが仲の良いのは分かったから」
少し生温かい目でこちらを見てそう言った『ザ・王子様』。
え! 仲良くなんてないんですけど!
「違いますッ! 私達そんな関係じゃ……!」
「レイラ。ふふ、可愛いなぁ。……幸せになろうね」
「なりませんーーッ!」
アルフォンスは真っ赤になって叫ぶレイラを見てひとしきり笑ってから、スッと真面目な顔になって王子に向き合った。
「……殿下。冗談はここまでにして、ご報告させていただきます。彼女はレイラ。我が領地に住む腕利きの『祓い師』でございます」
「……ッ! この、ご令嬢が? まだ少女ではないか」
『ザ・王子様』は改めてレイラをジッと見た。
レイラはコホンと小さく咳払いをしてから改めて『ザ・王子様』を見た。
「……レイラ マクニールでございます。ブレドナー公爵家の領地の街で代々『祓い師』をしております。幼い頃から母より我が家に伝わる技術を学び継承しております」
レイラがそう挨拶すると、『ザ・王子様』の表情もピンとした張り詰めたものに変わる。
「……ほう、代々伝わる技術とな。アルフォンス、信頼して良いのか」
「……一度見せてみる価値はあるかと」
……実はアルフォンスは王家よりの使者が彼女を訪ねると聞いてすぐに領地の者に連絡し、力試しにとある『置物』の呪いの解呪の依頼をさせた。
アルフォンスが領地に到着すると、怒れる使者とは別便でその『置き物』が戻ってきたのだ。
それは以前ブレドナー公爵家に送り付けられた『曰く付きの竜の置き物』。何かに使える事もあろうかと封印付きの倉庫に仕舞われていたのだが、それは見事に『解呪』されていた。
それを見た公爵家お抱えの『祓い師』は、レイラの腕を絶賛していた。それでアルフォンスも王家に連れて行こうと決心したのだ。
そして今回レイラは王妃と会う為に、前泊した宿でも先程の女官達にも彼女がおかしなモノを持っていないかのボディチェックはされている。
「え。なんでですか。ブレドナー様は私の事何も知らないですよね?」
そう訝しむレイラの頭をポンと撫でて、アルフォンスはヴェルナー王子を促し王妃の間へと向かう事になった。
26
あなたにおすすめの小説
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。
腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。
魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。
多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。
侯爵令嬢は追放され、他国の王子様に溺愛されるようです
あめり
恋愛
アーロン王国の侯爵令嬢に属しているジェーンは10歳の時に、隣国の王子であるミカエル・フォーマットに恋をした。知性に溢れる彼女は、当時から内政面での書類整理などを担っており、客人として呼ばれたミカエルとも親しい関係にあった。
それから7年の月日が流れ、相変わらず内政面を任せられている彼女は、我慢の限界に来ていた。
「民への重税……王族達いい加減な政治にはついて行けないわ」
彼女は現在の地位を捨てることを決意した。色々な計略を経て、王族との婚約を破断にさせ、国家追放の罪を被った。それも全て、彼女の計算の上だ。
ジェーンは隣国の王子のところへと向かい、寵愛を受けることになる。
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる