祓い師レイラの日常 〜それはちょっとヤなもんで〜

本見りん

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残念ながら

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「……そして、非常に残念ながらこの『呪い』は生き霊系です。嫌な、ドロドロした女性の嫉妬の念が渦巻いてます」

 レイラは少し眉間に皺を寄せ、明らかに嫌そうな顔でそう言った。

「女性の嫉妬……!? 何故この国の最高位の女性で王妃である母上に嫉妬など……! そして、『残念』だという事は、君にも解呪は無理なのか……。いや、せめて一度試してはくれないか!」

 ヴェルナーはやはりダメかと失望しながらも、縋るようにレイラにそう言った。

 ……すると。

「あ、無理ではないですよ。ただ、私の大嫌いなドロドロ生き霊系だったんで残念だな、って……」

「…………は?」

 余りにサラッと言われたその言葉に、ヴェルナーは何を言われたのか一瞬理解出来なかった。

 『無理ではない』『大嫌いな生き霊系で残念』……。ええ?

 思わずアルフォンスを見たヴェルナーだったが、アルフォンスは肩を震わせて笑っていた。

「くく……ッ。殿下、このような場で……申し訳ない……! しかし……やはりレイラは面白い娘だ」

 ひとしきり笑った後、アルフォンスはレイラに向かって言った。

「……レイラ! 油断するなよ? 我々もこの国で魔力の高い者。お前のサポートをするから見事この『呪い』を解呪してみせよ!」

 レイラはアルフォンスの言葉に一瞬少し嫌そうな顔をしたがすぐに頷いた。

「貴方に指示されるのは癪ですが、コレは一刻を争うので話は後で。ではとりあえず、この部屋に結界を張っていただけますか?」

「「承知した!」」

 ヴェルナーはまだ動揺する気持ちも残ってはいたが、とりあえずは今出来る事をすべきと判断し女官達を隣室に移るよう指示してから2人で王妃の部屋に結界を張った。


 そして、それを確認したレイラは王妃の真横に立つ。

 そこで魔力を展開をし、王妃の身体に絡む呪いを見る。

「……すごい……。これ程の、強い念は初めて見るわ。王妃様への嫉妬、そして……国王陛下への愛……執着? 粘着かしら」

 レイラは王妃の右手の薬指に嵌る指輪を見てから、チラリともう片方の腕を見る。

「だけどやっぱり、コレ、なのよねぇ。今までの『祓い師』が幾ら指輪を解呪しようとしても出来ないはずだわ」

 王妃の左腕にはめられた『魔除け』の腕輪。……イヤ、コレは……。

「ある意味『呪いの腕輪』、よね」

 この腕輪は、何もなければ何も起こさない一見無害なモノだ。しかし、コレは魔力を固定させる……いや、増強させる為のモノだろう。そしてコレがあるが故にメインの『呪いの指輪』は力が増幅し、解呪が難しくなる。

 レイラは呪いの指輪の力を抑えてから、『魔除けの腕輪』の解呪を始めた。

 ……あー、うん。こちらも私の大嫌いな生き霊系。世の中を呪う思いが渦巻いている。

 レイラは自身の持つその大きな魔力でそのドロドロを包み込みながら、丁寧にその絡まった呪いを王妃から優しく解いていく。


 その繊細な金の光の糸に包まれて輝くレイラのその姿を、アルフォンスとヴェルナーは魅入られたかの様に見詰めていた。

「なんと……。このような解呪は初めて見る。美しい……。まるで伝説の聖女の様だ」

 ヴェルナーがそう言えば、アルフォンスも見惚れながらも少し警戒して言った。

「本当ですね。なんと美しい……。殿下、レイラは私が先に見つけたのですから手を出さないでくださいね」

「コレは、先とか後とか関係あるのか? それにお前は先程レイラに断られていたではないか」

 意外に本気で牽制してきたアルフォンスにヴェルナーもついからかい半分で反論した。

「……アレは、照れているのですよ。あんな風にピッタリと掛け合いの出来る相手などそうは居ません。レイラは渡しませんよ。
それになんですか、王子ともあろうお方が先程はレイラに間近に寄られて鼻の下を伸ばしておられましたよね」

「ッ!? 伸ばしてなどおらぬ! まあ、美しいなと少し見入ってしまったのは認めるが……」

 しまった、アルフォンスにはお見通しだったか。ヴェルナーは少し居心地の悪い気持ちになった。

「しかし、周囲からうるさく『結婚せよ』と言われる我らですが、これで私は先に相手を見つけました。これからはヴェルナー殿下お1人が令嬢達からの集中砲火を受けますよ」

「うわ……。嫌な事を言わないでくれ」


 などと2人が言い合っていると、外からこの結界に干渉してくる者がいる。

「……来たか!」

「……来ましたね」

 アルフォンスとヴェルナーは目を見合わして頷く。

 今、王妃の『呪い』の解呪を行うこの部屋この結界に干渉してくる者。その者こそが今回の『呪い』の首謀者、という事になる。


 今、レイラは『呪い』の解呪に集中している。彼女の邪魔は決してさせない!

「……私が行く。母上をこの様な目に合わせた犯人を許す訳にはいかない。母上を、レイラを頼むぞ! アルフォンス!」

「承知いたしました。……ご武運を!」


 2人はしっかりと頷き合い、そしてヴェルナーはこの結界から抜けそれに干渉する相手と対峙した。



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