祓い師レイラの日常 〜それはちょっとヤなもんで〜

本見りん

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王子と公爵家嫡男の思い



 王妃の部屋に入って来たアルフォンスは素早くレイラを守るように肩を抱いた。レイラは驚いて彼の顔を見る。
 ヴェルナー王子もレイラを庇うように立つ。

 すると部屋の奥から王妃の悲痛な声が聞こえてきた。

「……ああッ! 助けて、ヴェルナー! アルフォンス! この娘が急に私に攻撃を……!」

 王妃が涙ながらに叫んでいた。

 ゆっくりと、表情を変えないまま2人が部屋の中に入って来た。レイラはアルフォンスに肩を抱かれたまま、彼らをジッと見詰めながら一緒に部屋の中に入る。


「ああ……。2人共、よく来てくれたわ。急にその娘が豹変して私を……」

 王妃はそう言いながら弱々しく泣いてみせた。
 ……しかし、息子ヴェルナーは重々しく口を開いた。


「…………母上。何故ですか。何故、このような事を……。父上の事で苦しまれているのであれば、どうして私に相談してくださらなかったのですか……!」


 王妃は目を見開いた。

「叔母上。『呪い』にかけられたと聞き、我らがどれ程貴女を心配したか……。それなのに、今またこのような事をされるとは……!」

 2人はこの王妃の部屋での話を聞いていたのだ。


「……何を? ……まさか、聞いていたのか!? しかし結界を張っていたはず!」

「母上。……王家の血を引く私が貴女よりも魔力が強い事は分かっておられるでしょう? ……王家の血を引く、このレイラのように」

 そしてヴェルナーはゆっくりとレイラを見た。


「レイラ。……君は私の妹、だったのだね」

 切なそうに笑うヴェルナーに、レイラは困ったように微笑んだ。
 ヴェルナーはそのレイラの微笑みに胸を痛めながら、改めて母に向き合った。


「母上。もはや何から言って良いのかも分かりませんが……。フェンディが、悲しみます。あの娘は母上をとても慕っているのに……」

「……お前に! お前に何が分かるというのだ! 私が妊娠中にあの男は懲りずにまた浮気をした! そして私の子が死産だと分かるとあの娘を連れて来たのだ! 浮気相手の赤子を子を失ったばかりの私に育てろと……! 許せるはずがないだろう!」

 王妃からは先程までの弱々しい姿は消え、血走った目で息子を見ながら叫んだ。

「……父上が、最低なのは分かりました。けれど、母上もとても褒められたものではありませんよ。貴女を母と信じ慕う娘を、今回の呪いの件に巻き込むなど……!」

「私がどれだけの苦しみにいたか。何も知らぬお前に非難される覚えはない! 王家に生まれぬくぬくと育ったお前に、私の苦しみが理解出来るはずがないのだ……!」

 怒鳴り立てる王妃と怒りや呆れの最中にいる息子。2人共苛立ちを抑えられずにいるようだった。
 ……そこに修羅場慣れしているレイラが口を挟んだ。

「……あの。私はそこそこ世間の呪いに関わって来たので思うのですけれど、人の悩みや苦しみはそれぞれです。同じ悩みでも人によって感じる辛さは全く違います。まあ、他の要素も関係してくるので全く同じ悩みというのは無いのかも知れませんが」

「何をッ! 浮気相手の娘が偉そうに!」

 王妃はレイラを睨みつけ叫んだ。

「ええ、ですから私もそれなりに父親が居ない事で悩みもしましたし、どうやらその父親がロクデモナイ人だという事も成長と共に分かって来た訳なんです。まあ我が家には家業の『祓い師』の仕事もありましたし、生活に困る事もなかったからそう父を恨むという事もありませんでしたが。けれども『貴族の男性は浮気者のろくでなし』という事だけはしっかりと頭に植え付けられて育ちましたね」

 ヴェルナーとアルフォンスはレイラの言葉を聞いて、なんともいえない気持ちになった。

「そして王妃殿下との『王都に行かない』という約束は、母も私もしっかり守っていましたよ。今回も王家の圧力があったから来ましたが、こんな事がなければ私も一生王都には来なかったと思いますね」

「あの女が……本当に約束を守っていたと?」

「……はい。私は母から貴族というものはとんでもないロクデナシばかりだから、関わってはいけない。王都も魔の巣窟だから決して近寄ってはいけない、と言われて育ちましたから」


 まだ恋愛経験もそうないだろう若いレイラが貴族や男性に対して非常に手厳しく、男女の痴情のもつれ系の『呪い』をめっぽう嫌うのはやはりそういう訳だったのか、とアルフォンスは納得した。


「ふ……ほほほ……! 本当よ、全くその通り、男というものは本当に碌でもないもの……! 特に、あの男はね! ……私は、あの男から逃れたかった。あの男の、偽善の為の『愛妻家』という仮面をぶち壊してやりたかったわ」

 王妃は夫である国王を詰った後、力なく本音を言った。

「……叔母上……。どうして、実家である我が家にご相談いただけなかったのですか」

 アルフォンスのブレドナー公爵家はこの国でも力のある名家。そして兄妹仲も良い。王妃が頼れば父は必ず手を差し伸べただろう。

「……私がおかしな動きをすると、ブレドナー公爵家にも迷惑がかかってしまうでしょう。……私は、死ぬまで耐えるしか無かった。だから、死んだと見せかけて逃げる方法を考えたのよ……。
でもそれも隣国の勢力争いに巻き込まれていたのなら、本当に愚かだったとしか言いようがないけれど……。そして、結局は貴方達に迷惑をかけてしまうわね……」


 そう言って王妃は一筋の涙を流した。それを見た息子であるヴェルナー、甥であるアルフォンスもこれから起こるであろう騒ぎを思い、重いため息を吐いた。……その時。


「え? 黙っていればいいんじゃないですか?」

 レイラは何言ってるんだ? とばかりに言った。

 王妃もヴェルナーもアルフォンスも、「へ?」と一瞬気の抜けた顔でレイラを見る。


「……だってここにいる4人しかこの事を知らないんですよ? 別にこの事を公にして得する人なんて居ないし困る人もいない……いえ、余計に困った事態に陥るだけでしょう? そもそもその為に人払いをしてあったんじゃないんですか? あ、そこの転がってる女性は記憶操作して元の生活に戻ってもらいましょう」


 いや、人払いをしたのは王妃が更なる悪事を働こうとしたからだ。その後ヴェルナーとアルフォンスが入って来たが、とりあえず静かに話をする為に人払いや結界をそのままにしていただけで……。


 いや、まあ確かに。これを公表したり他の者に話す必要もない訳だ。全ての原因である国王には罰が当たって欲しいが、他の者はこんな事は知らない方がいい。

 特にフェンディ王女は、母だと思っていた人の悪意を知らないでいる方がいいはずだ。



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